星座を着飾る夜にさようなら

「大佐、あなたは女が恐ろしいのでしょう」
「は……?」

 急に何を、と。私が言葉を返す間も無く部下──は真っ直ぐな目で私を射抜いている。・ラル、──彼女は、私がシャア・アズナブルとなる以前から私の傍に仕えている部下だった。父、ジオン・ズム・ダイクンの死により国を追われた私とセイラの側仕え、護衛役として、ジンバ・ラルが彼女に私への従属を命じたのがすべての始まりで、それからずっと、彼女は、私がジオン軍を抜けても、新生ネオ・ジオンを立ち上げても、粛清を掲げても、こんな宇宙の果てまでも、私と共に修羅の道を往き続けている。きっと彼女は、私にとって唯一の共犯者と呼べる存在だった。それが、互いに血に呪われた宿命に過ぎないのだとしても、これは運命であったのだ。

「存じています。あなたがどんな想いをしてきたのか、……女の扱いは苦手ですか」
「……そう言われては形なしだな、そんなつもりはなかったが……まあ、……女とは、難しいものだと、そう思う」

 確かに、得意ではなかったのだろう。女という生き物は恐ろしい、愛に生きるなどと口では語りながら、いつだって彼女たちが欲しているのは手前勝手な保身であり己の安息ばかりだった。女とは、いつも私から何かを奪ってゆくもの。元より手持ちの荷物など憎悪以外に対して持たなかった私から、少しばかりの世界への未練というものを簒奪していく存在。それが、私にとっての女というものだったかもしれない。

「いいですよ、大佐」
「……
「ご無理なさらず。私を女だと思っていただかなくて、結構です。私は、私の意志で、あなたにお仕えしているのです、キャスバル様。……決して、あなたの気苦労を増やすためではありません。そうですね……あなたがお望みであれば、男装でもしましょうか」
「……はは、そこまでしなくともいい」

 きっと彼女は、私が死ねと命じれば死ぬ。私にとって彼女だけが、シャア・アズナブルから、キャスバル・レム・ダイクンから、クワトロ・バジーナから、──私という、贄から何も奪わない存在だった。私は、女が恐ろしいのではない。女はいつも、私から何かを奪うからこそ恐ろしいのだ。故に私はきみのことなら、正しく愛することも出来たのかもしれないが。……きっと、私が何も奪わないきみを好ましく思うのと同じように、は、自身に女を求めない私を好いていたのだろう。故にこれほど連れ添った今でも求愛には未だ遠く、この恋の結論が出るよりも、星が燃え墜ちる方が速かったのだと、これは、それだけの話だ。 inserted by FC2 system


close
inserted by FC2 system