砂糖漬けの木の実を宝石に変えるため

「──そうして三人で並んでいると、まるで家族のようで、とても微笑ましいですね」

 ──きっかけは、オモダカさんの放ったそんな些細な言葉だった。リーグチャンピオンであるオモダカさんの秘書役と、リーグ四天王の皆さんのマネジメント業と、理事長であるオモダカさんの秘書役、──そんな三足の草鞋を上司──オモダカさんより命じられている私は、日頃から四天王の皆さんと接する機会が比較的に多く、特に最年少のポピーちゃんに関しては幼い彼女を親御さんから預かっていることもあり、立て込んでいない限りは私か四天王のチリさんがポピーちゃんの保護者役をしていることが多くて、かと言って、私もチリさんもポピーちゃんのことが可愛くて仕方がないのはいっしょなので、必然的にチリさんの執務室を私が間借りして、置かせていただいている臨時デスクで仕事をしつつ、ふたりでポピーちゃんの相手をしたり、少し外に出るのにも三人でいっしょに、ということが多々あり、そんな日頃の習慣のお陰か、近頃では休日にも三人でおでかけすることが珍しくなくなってきた。そんな私たちの様子を見たオモダカさんが、おや、と目を細めて放った言葉、──ポピーちゃんを真ん中に三人で手を繋いでいる光景はまるで家族のようだと、そんな比喩がどうやらポピーちゃんはとってもお気に召してしまったようで。

「それ! とってもすてきですわー! チリちゃんとちゃんとわたくし、家族みたいですのね!」
「ええ、家族のようですよ。ポピーがおふたりの娘だとすると……」
「……あの、オモダカさん、私もチリさんも女性なのですが……?」
「なんや、ちゃん、チリちゃんのお嫁さんじゃ不満なんか?」
「えっ、いえその、不満だとか、そういうことでは……!」

 オモダカさんのお戯れを止めようと思って放った言葉も、……私としては、チリさんだってそんなの不本意だろうと思ったからこそ、……部下として不快な思いをさせたくなかったからこその言葉、だったのだけれど。そんな私の肩をぽん、と叩いて眉尻を下げたチリさんに顔を覗き込まれて放たれた「チリちゃんのお嫁さん」という単語の破壊力に、……わたし、思わず言葉を失って、あわあわと狼狽えて、……待って、これじゃ私がまるで、チリさんのことを、……すき、みたいな。

「問題ないんやな? ……それなら、ちゃんはチリちゃんのお嫁さんな?」
「……は、い……」
「よっしゃ! ポピーちゃんも、ちゃんのこと、チリちゃんのお嫁さんって呼んでもええよ」
「わあい! ちゃん、チリちゃんのおよめさんですのね! ふふっ、ポピーはおふたりのこどもですわ!」
「え、ええ、あ、あの、今だけの話じゃ……?」
「……なんや、自分、逃げられると思ったん?」
「チリ、さ……」
「……逃がさへんよ、ちゃんはもう、チリちゃんのお嫁さん、……な?」

 そう言って、ポピーちゃんの目を盗むように、するり、と握られたてのひらの熱が、チリさんの身に付けた革手袋越しにも伝わってしまわないかと、……はらはら、どきどき、私の心臓はうるさくて、「……これは、片棒を担いでしまいましたか?」と意味ありげに微笑んだオモダカさんがきっと確信犯だったことにも今更気付いた私は、既に手遅れで、……その上、“チリさんのお嫁さん”という役柄を満更でもないと感じているというのだから、……まったくもって、救えない、なあ。 inserted by FC2 system


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