まぶたをくすぐるきらきら

 デカヌチャンは、自身のトレーナー・のことが大好きだった。
 まだ彼女が野生のポケモンで、生後間もないカヌチャンだった頃、一生懸命に作り上げたハンマーをミミズズに奪われ、食べられてしまったカヌチャンは、成す術もなく縄張り争いにも負けて、ぐったりと傷付いた姿で草むらの中に倒れこんでいた。カヌチャン並びに進化系のデカヌチャンたちの種族は、基本的に群れを成して行動する。まだ単独では戦う力を持たないカヌチャンたちは、本来であれば、デカヌチャンやナカヌチャンたちによって、庇護されながら成長するのである。
 しかし、このカヌチャンは気が付いたときにはひとりぼっちだった。群れからはぐれてしまったのか、或いはトレーナーの手でタマゴを孵した“余り”を逃がされたのか。幼くレベルも低いカヌチャンが野生の中、ひとりで生きていくことは余りにも困難で、──そうして、遂にその日、カヌチャンは一歩も動けなくなって、ざあざあと降りしきる雨の中でぶるぶると身を震わせながら、薄れゆく意識からか瞳を覆うつめたい膜からか、次第にぼんやりと歪んできた視界に耐え難くも瞼を閉じたそのときに、──彼女は、誰かの声を聞いた。

「……大丈夫?」

 カヌチャンを見つけたのは、ひとりの少女だった。大人よりも低い背丈と目線の為か、少女──は、草むらの中に倒れ伏すカヌチャンの存在に気が付いたのだ。誰かに声を掛けられたことは辛うじて聞き取れたが、ぶつん、とそれきり意識が途切れたカヌチャンが何も返事を発さないのを見て、只事ではないと理解したは、カヌチャンをそうっと抱き上げると、ポケモンセンターへと向かい必死で走った。本来ならふわふわしている筈のカヌチャンの体毛はぐっしょりと濡れて冷たく、傘なんて今更意味がないと判断したは、それよりも、カヌチャンの身体を極力揺らさないことを優先するべくその場に傘を放ると、ぎゅっと両腕でしっかりカヌチャンを抱き抱えて、雨の中を駆け抜ける。
 野生ポケモンの群生地である一帯は、当然ながら、を侵入者、敵であると判断したポケモンが幾らでも彼女を追いかけて来た。ましてやの腕の中には、怪我をしたカヌチャンが抱かれている。血のにおいに敏感な野生のポケモンに襲われながらも、は必死で逃げた。ポケモンを持たない彼女には、戦ってやり過ごすことも出来なかったから、とにかく逃げた。野生のポケモンに追われたことを差し引いても、草むらの中を強引に突っ切ったから、の手足は傷だらけだったものの、カヌチャンだけは傷付けないようにと、は走って走って、──そうして、ようやくポケモンセンターへと駆け込んだは、大慌てでカウンターに走り寄り、ジョーイを呼んだのだった。

 ──やがて、カヌチャンが次に目を覚ましたとき、不思議なことに、彼女の全身にあれほどたくさんあったはずの傷口はすべて塞がっていて、ポケモン用のちいさくてふわふわなベッドの上に、カヌチャンは寝かされていた。──此処は、何処だろう。見覚えのないその空間には、カヌチャンが眠っていたベッド以外にも、人間の子供用であるそれと机に椅子、床にはメロメロを模したハート模様のマットが敷かれて、ファンシーな雑貨やぬいぐるみもいくつか置かれているその空間は、いわゆる人間の子供部屋だったが、カヌチャンはそのような場所を知らなかったため、初めて見るその場所が不思議で、きょろきょろと辺りを必死で見渡す。

「……あ、カヌチャン、目が覚めたの?」

 ──そうして、少し過ぎた頃にガチャリ、と音を立てて開いた扉に、カヌチャンが思わず警戒して身を固くしていると、──ふわり、と。その隙間からは、意識を手放す直前に聞いた覚えのある、あの柔らかな声が舞い込んできたのだった。
 ──あのときの、人間の子供だ。カヌチャンはすぐにそう気付いて、あれは夢ではなかったのだと少し驚いて、思わず呆けてしまった。もうだめだと思ったそのときに、知らない誰かが助けてくれるなんて、カヌチャンにとってあまりにも都合がよすぎたから、あれはまぼろしだと思っていたのだ。

「カヌチャン、怪我をしていたからポケモンセンターで手当てしてもらったの。でも、怪我が酷かったからなかなか意識が戻らなくて、ずっと寝たままで……」

 呆気に取られているカヌチャンの様子には気付いていないのか、は穏やかな声色でカヌチャンに状況を説明している。何日も眠っていた、と話すの言葉にカヌチャンは驚いたが、そう言われた途端に突然、ずっと何も飲み食いしていないことに気付いたからか、くう、とカヌチャンの腹の虫が小さく鳴いたことに気付いたは、くすくすと笑って、「カヌチャン、おなかすいたよね? いっしょにごはんたべよう?」と言って、そうっとカヌチャンに手を差し出すのだった。
 野生で生きてきたカヌチャンにとって、食事というものは、決して他者から施されるものではなかった。ハンマーを必死に誂えて、それで木を叩いて木の実を落としてみたり、獲物を狙ってみたりすることは、幼いカヌチャンには決して簡単ではなく、彼女はおなかいっぱいになるまで食事をした経験が少なかった。普段からいつもお腹が空いていたし、今のこの空腹だっていつものこと、とぐっと涙を堪えながら我慢できない訳でもなかったものの、差し出された小さな手が余りにも優しくて、カヌチャン自身が気付かないうちに彼女はの手を取り、華奢な腕の中にやさしく抱きかかえられていたのだった。

 の子供部屋を出て、一階のリビングに降りると、テーブルの上にはラップのかかったオムライスとサラダが置かれていた。「今日はお母さんたち出掛けてるの、私はカヌチャンの傍に居たかったからお留守番なんだ。あっためるから、半分こしよう?」テーブルの上に小さなクッションを置いて、カヌチャンを其処に座らせてから、はオムライスの皿を持ってキッチンへと向かう。
 オムライスを温めて、コンソメスープの入った鍋も温めて、スープマグを二つ出してから、はその中にスープを注いだ。「ギネマのみと、トポのみと、あとブーカのみが入ってるの、嫌いな味じゃないといいな」ことん、と目の前に置かれた温かなスープは嗅いだことのない匂いがして、くんくんと鼻を鳴らしながらも、カヌチャンはあたたかな湯気のゆらめくそれに思わず興味を惹かれる。
 やがて、温め直したオムライスをカヌチャンの前に置いて、ケチャップで「カヌチャンの絵を描くね!」とは張り切ってそう言ったものの、思いのほかケチャップで複雑な絵を描くのは難しく、「ぐちゃぐちゃになっちゃった」と笑いながらは、カヌチャンに子供用の小さなスプーンを手渡した。「こうやって、使うんだよ」とオムライスをひとくち口に運ぶに倣い、恐る恐るとひとくち口に運ぶと、──ぱあっと、思わずカヌチャンの顔は明るくなる。
 あまいのと、すっぱいのと、こってりした味と、ふわふわやさしい味とが一挙に押し寄せるそれは、カヌチャンにとって未知の感覚で、「おいしい?」と微笑みながら訊ねるに向かってこくこくと必死で頷いて、カヌチャンは夢中になってオムライスを食べた。コンソメスープもとても美味しくて、まだあの雨の中で冷え切っているような気がしていた身体がほかほかに温まっていく感覚がしあわせで、カヌチャンはスープを二杯もおかわりしたし、オムライスは結局半分以上、カヌチャンが食べてしまった。
 はんぶんこ、という約束だったものの、カヌチャンの食べっぷりを見たが喜んで、食べられるだけ食べても良いよと言ってくれたのだ。途中でカヌチャンも、の分が無くなることを気にして遠慮を見せたものの、は気にするどころかそれを察したかのように、「戸棚の上に、おかあさんのとっておきのクッキーがあるの! こっそりふたりで食べちゃお!」と言って、綺麗な缶に入ったクッキーを持ち出してきて、あたたかな紅茶を淹れて、食後のティータイムまでをカヌチャンに振舞ってくれたのだった。──もちろん、夕方に帰ってきたの母親にすぐに見つかって、ふたりは揃って叱られてしまったのだが。

 それからしばらくの間、カヌチャンはの家で暮らしていた。「元気になるまで、好きなだけ居ていいからね」とも彼女の両親もカヌチャンにそう言ってくれたが、ずっかり元気になった頃にはカヌチャンはもう、の傍から離れるのが惜しくなってしまっていたのだった。
 それは何も、の傍に居るとごはんに困らなくて済むからだとか、あたたかな寝床が手に入るからだとか、それだけの理由ではない。カヌチャンにとって、それらは飽くまでも副産物であって、は自分に優しくしてくれた初めての相手だったからこそ、カヌチャンはに懐いたのだ。けれど、そんなの傍で過ごしているうちに、が手足にたくさん傷を作っていることに気付いたカヌチャンがそれを不思議に思っていると、の両親の会話から察するにどうやら、その傷はカヌチャンを助けたときに出来てしまったものらしい、ということをカヌチャンは知ってしまい、その際には酷く落ち込んでしまった。

 自分に優しくしてくれるに、せめて恩返しをしてから元の住処に帰ろうと思っていたのに、カヌチャンが想っているよりも遥かに彼女はの世話になっていることに気付いて、カヌチャンは俄かに慌てた。ポケモンセンターで手当てを受けたカヌチャンとは違い、の傷はなかなか完全には消えてくれない。カヌチャンが傷を気にしていることに気付いたは、「気にしなくても大丈夫だよ」とそう言ってくれたものの、そうは言われてもカヌチャンが気になるのだ。
 ──だって、本当はもう住処に帰りたいなんて、カヌチャンは思っていない。元々、ひとりぼっちで寂しい夜を震えながら過ごしていたあの場所に、然程の愛着をカヌチャンは持ち合わせてはいなかった。本当は、このままの傍に居たいけれど、は他のポケモンを持っている様子もなく、ポケモンバトルなどにも然程の関心がないようで、特別に自分のポケモンを欲しがっている様子は見受けられなかったのだ。つまるところは、保護していずれは自分のポケモンにしよう、だなんて打算の上でカヌチャンを助けた訳ではなく、只々カヌチャンのことが心配で放っておけなかっただけ、ということにもなる。

 厳しい野生の中を生きてきたカヌチャンにとって、それは俄かには信じ難いことだった。けれどのやさしさが、言葉よりも雄弁にその真実を物語っている。──この優しい女の子の傍で、これからもずっといっしょに過ごしたい。カヌチャンはそう思って、けれど、その方法が彼女には分からない。傷付いたカヌチャンをポケモンセンターに連れて行く際にしても、捕獲してボールに入れて運んだ方が楽なのに、カヌチャンの意志も確認せずにボールに入れてしまうのは良くないこと、とその方法を選ばなかったほどのに、カヌチャンといっしょに居たいと思ってもらうには、どうすればいいんだろう? カヌチャンにはそれが分からなくて、故にひとまず彼女は、人間の真似事をしてみようと考えた。の家でいっしょに見たテレビの中では、人間は怪我をした相手に“お見舞い”のお花を手渡していたから、きっと人間はそうされるのが嬉しいのだろう。だから、カヌチャンはそれを真似してみようと思って、ある日にと近所まで散歩に出かけた際に、花畑でのために花を摘もうと考えたのだった。

「カヌチャン、お花好きなの? ふふ、それなら花冠作ってあげる」

 ──しかしながら、いざ花畑で花束を作ろうと試みてみると、縄張り争いをするためには非力なカヌチャンの手は、それでも、花を摘むには力が強すぎるらしい、ということにカヌチャンはようやく気付いた。今まで花を摘んでみようと思ったことなんて無かったから、そんなことも知らなくて、どうにか加減をして、ぐしゃぐしゃに潰してしまわないように花を摘もうとカヌチャンが悪戦苦闘していると、見かねたがカヌチャンの代わりに花を摘み取って、カヌチャン自身が欲しくて花を摘んでいるものと思ったは、器用な手つきで花冠を編むと、ぽふ、とカヌちゃんの頭の上に乗せるのだった。
 ──そうでは、ないのに。カヌチャンは、のために花を摘みたかったのに。そう思えばこそ落胆する気持ちはあったものの、がカヌチャンに似合うようにと、ピンクと紫の花を選んで編み上げてくれたそれが、カヌチャンはどうしようもなく嬉しくて、「ふふ、私もおそろい!」と同じようにもうひとつ花冠を作って、もカヌチャンに倣い自分の頭の上に乗せるものだから、その花冠はカヌチャンの新しい宝物になった。
 今まで金属の類にしか興味を示さなかったカヌチャンにとって、それは不思議な感覚で、同時に花は鉄とは違い萎れてしまうものだから、くしゅくしゅにしなびてしまうまで、ずうっとカヌチャンはその花冠を大切にしていた。それを見ていたは、またカヌチャンを花畑に連れ出すと、今度は枯れないように押し花にしようと言って、同じ花を摘んで押し花を作ってくれたのだった。
 やがて、押し花が出来上がるとはそれをレジンで固めて、きらきらのビーズも付けて、新しいハンマーが出来たらこれを着けよう、と押し花をチャームにしてくれた。カヌチャンはぴかぴかのそれをハンマーに着けるのが楽しみで、その日からいそいそと新しいハンマーを作り始めたのだった。

 一方では、カヌチャンはきっと新しいハンマーが出来たら、元の住処に帰ってしまうのだろうなと、そう思っていた。
 カヌチャンたちの種族は、ハンマーを用いた狩猟で獲物を捕まえて暮らしている。野生で生きていくためには、ハンマーは必要不可欠な存在なのだ。それが完成したなら、カヌチャンはまた野生で生きていける、ということでもあるから、きっとそのときにカヌチャンとお別れなのだろうなと、はそうは思ったものの、金属を集めようとするカヌチャンに協力して、いらなくなったアクセサリーだとか、おもちゃだとか、そういうものをいくつか、はカヌチャンに分け与えたのだった。
 ──本当は、それらはにとって、決して要らなくなったガラクタではなく、宝物のひとつだったけれど。そんなことを伝えてはカヌチャンを悲しませてしまうから、は本当のことを教えなかった。只、は自分の大切なものをカヌチャンに分け与えて、それでハンマーを作ったのなら、前よりも頑丈なものに仕上がるような気がして、それならば、離れ離れになった後でも、自分の代わりにカヌチャンの身を守ってくれるような、そんな気がしたから、それらでハンマーを作って欲しいとそう思ったのだ。──尤も、カヌチャンにとってはから譲り受けたものであればなんだって、大切な宝物だったのだが。──何しろ、萎れた花ですらも、カヌチャンにとっては掛け替えのないものだったのだから。

 そうして、いつかはお別れが来るものとばかり思われていたとカヌチャンだったが、ハンマーが完成した後でもカヌチャンはの傍に残り、デカヌチャンへと進化した現在でも、成長したの傍に居る。
 優しいだからこそ、カヌチャンにずっといっしょに居たい、と言い出すのは難しくて、自分に優しくしてくれただからこそ、カヌチャンの方も、これ以上のわがままを言うのは憚られたけれど、それでも、──それでも、デカヌチャンに進化した今でも、彼女はのことが、ずっとずっと大好きで、傍に居たいと思うのだ。

 がデカヌチャンのハンマーを磨いてくれるとき、手入れ道具をたくさん用意して丁寧に磨いてくれるものだから、デカヌチャンの大切なそれは、にとっても大切なものなのだと思わせてくれる気がして、デカヌチャンはその時間が好きだった。彼女自身のブラッシングをしてくれるときと同じ優しい手つきで、手入れしてくれるそのハンマーには、デカヌチャンがと出会った頃に、が彼女にくれた宝物が素材として使われている。あれから何度もハンマーを仕立て直したけれど、それでも、きらきらきれいなのネックレスが素材になっているあの時のハンマーを、カヌチャンだった頃はもう二度と誰にも奪われないよう大切にしていたし、今もそれは変わることが無い。それに、押し花のチャームも今でも相変わらずに、きらきらと持ち手に揺れていた。

 デカヌチャンはと、今でもよくお花畑でピクニックをする。相も変わらずどころか、ますます力強くなった大きな手では、やはり花を摘むことは難しかったし、進化しても花冠を作れるようにはならなかったけれど、それも、今の彼女は気にしていない。
 デカヌチャンの手が力強いからこそ、彼女はに何度でも花冠を編んでもらえるし、進化して強くなったからこそ、今やデカヌチャンは何者からものことを護ってあげられるのだ。……彼女にとってこんなにも嬉しいことは他にはなく、もう何があっても、は怪我をしたりはしない。何故ならば、他でもないデカヌチャンが、のことをしっかりと守っているから。

「──デカヌチャン、お昼寝するの? ふふ、今日あったかいものね」

 ピクニックの最中に、焼きベーコンとポテトサラダ、それからレタスとアーリーレッドがたっぷりと挟まった、の手作りサンドイッチをおなかいっぱい食べて、だいすきな花冠も編んでもらって、ご満悦のデカヌチャンは次第に眠気に襲われて、周囲の花を潰さない開けた場所を探すと、その場にハンマーを横たえる。
 大切なハンマーを護るためか、身体の下にハンマーを敷いてベッドに見立てて眠る習性を持つデカヌチャンがお昼寝の準備を整えていると、はにこにこと微笑みながらその様子を隣で見つめていた。そんなを見てデカヌチャンはひとつ鳴くと、くい、と控えめに傷つけないように、の腕を引いてみる。いっしょにお昼寝をしないか、とを誘いたいデカヌチャンは、座るように促すような動作でハンマーをとんとんと叩きながら、ぐいぐいとを引っ張って、やがて些か強引にハンマーの上に座らせてしまった。

 カヌチャンだった頃は、まるで目立たなかったものの。生まれついて少し他の個体よりも大きな身体をしていたデカヌチャンは、ハンマーも他と比べると大きくて、デカヌチャンが寝転ぶ隣にが寝転んだとて、転げ落ちることもなくまだ余裕がありそうだった。一方で共寝を強請られたのほうはというと、金属のハンマーの上で寝転んで身体を痛めないかという不安はありつつも、の頭の下に腕を差し入れたり、髪を模した触角の体毛の上にが寝転べるようにと、もぞもぞと姿勢を変えてくれるデカヌチャンのいじらしさに根負けして、恐る恐るその場に寝転んでみると、……ふかふか、ふわふわの体毛がおひさまのにおいと熱を吸い込んで、思った以上に寝心地が良いものだから、先ほどまでの不安は何処へやらで、とろん、とあっという間に微睡みの中へと誘われてしまった。

「……ふふ、デカヌチャン、だいすきよ……」

 うとうとした目でデカヌチャンを見つめるの姿に、デカヌチャンは何度でも、ほわほわと胸の奥が暖かくなる。もう雨の日もひとりぼっちも何も怖くないのは、隣にがいてくれるからだ。のとろとろした熱に誘われて、次第にデカヌチャンもうとうと眠くなってくるものの、仰向けの体制で空を見上げて、眠りに落ちながらも彼女は、周囲に神経を張り巡らせている。もしも、野生のポケモンや悪い人間が襲ってきたのならば、自分がを護ってあげなきゃいけないし、──それに、特にエリアゼロ方面に意識を向けていると、時々アーマーガアが飛んでくることがあるから、隙あらば撃ち落としてやろうと考えているのだ。
 はデカヌチャンが獲物を取ってくる度に、そんなことしなくていいよ、と言うけれど、彼女はに貰ったからこそ、元々は好きでもなかった花を大好きになったから。も、自分がたくさん獲ってあげたなら、アーマーガアやはがねタイプのことを好きになるかもしれないし、同じものを好きになってくれたなら、きっと、それはとても嬉しいはずだと、デカヌチャンはそう思うのだ。それこそが、デカヌチャンの愛情の形で、今でもから受けた到底返しきれないほどの恩を返したいと思うからこそで、──けれど、同時に。が大好きなはがねタイプはデカヌチャンだけで良いと、彼女はそんな風に思ってもいる。 inserted by FC2 system


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