ゆらぎのなかの神様の

、進化ロイヤルの使い手──そして、数少ないグランドマスタークラスのシャドバプレイヤー」
「……あなたは、ウルフラム・ゼルガ……? 何故、あなたが此処に?」
「なに、きみに用があってね。試合を挑みに来たのだ」
「……公式戦でも組めば良かったのでは? その程度、あなたにとっては……セブン・シャドウズには、きっと容易いことなのでしょう?」
「はは。言われてしまったな、……だが、それでは意味がない。私は、きみを導くためにきみを訪ねたのだ、

 眼前に立つ男は、世界中のシャドバプレイヤーの中でも間違いなく最強クラス、──というよりも、遥かに別格の存在だ。──プロのシャドバプレイヤー、ウルフラム・ゼルガは、プロプレイヤー最強の七人と目されるチーム“セブン・シャドウズ”に名を連ねるロイヤル使い。──つまるところ、現在世界二位のロイヤル使いである私にとって、彼は完全なる上位互換とも呼べる存在だった。そんな彼に対して、私がどのような感情を持ち合わせていたのかと言えば、それは、劣等感のようなものだったのかもしれないし、羨望でもあったのかもしれない。……しかしながら、その邂逅まではそのすべてがきっと曖昧なものでしかなかったはずなのだ。私にとってウルフラム・ゼルガは知人でもライバルでも仇敵でもない、何度かプロとして試合を交わしたことはあったが、ほんとうにそれだけで。……その瞬間まで彼は決して、私の特別ではなかった。

「……全プロプレイヤーの中でも、ロイヤル使いに絞った際、きみは頭ひとつ抜きん出た存在だ。きみにとってそのデッキは運命、と呼べるだろう」
「……先ほどから大人しく聞いていれば、要領を得ないことばかり……何を仰りたいのか分かりません。私に試合を挑みにきたのではなかったのですか? ウルフラム・ゼルガ」
「ああ、私はきみとシャドバをするために会いにきた、その通りだとも。……その上で提案だ、この勝負でひとつ、私と賭けをしないか?」
「……賭け、ですか?」
「きみが勝ったら、きみはセブン・シャドウズの一員として加わる。……というのはどうだろうか?」
「……は……?」
「私は訳あって強力なシャドバプレイヤーを集めていてね……きみが加入するとなれば、私と交代という形になるが。私を凌ぐことが出来たのなら、私も退くだけの価値がある」

 ──意味が、分からない。私をセブン・シャドウズに加入させる? そんなリスクを冒してまでこの男が私を求める理由が、私にはさっぱり分からなかった。勝負に対する自信の裏付けだとしても、ときに初手の引きだとか天運だとかそういったものが命運を分けるのがシャドバだ。対峙した男は、微笑みひとつ取ってもその立ち振る舞いは自信に満ちていて、万が一の可能性があることを見落とすほど愚かなようには、到底思えない。それに、常に護衛を引き連れているような立場である彼が、わざわざ、こうして自ら私に会いに来るなんて。……彼は、何を考えているのだろう? 思えば、彼への最初の興味はその一点だったのかもしれなかった。……いったいこの男は、何を成すつもりなのだろうと、私は彼の往く道に興味を引かれてしまったのだ。

「……代償としては、大きすぎませんか? 其処までのものを賭けて、あなたは私から何を奪いたいと?」
「そうだな……、私が勝ったら、きみは私に協力する、というのはどうだろうか」
「協力……? というと、定義は? 具体的に、どういった希望が? あなたは何を求めてそう言っているのですか?」
「ああ……解釈はきみの自由でいい、きみの判断に委ねよう」
「……随分と、漠然とした提案なのですね……?」
「はは、そう感じただろうか? しかし、私としてはどちらに転んでもきみが手に入るのだから、一挙両得というものなのだよ、。協力者としての形式はきみに委ねよう、きみが私を凌いだ場合には、私が潔くセブン・シャドウズを降りるというだけの話だ」
「……つまりは、要するにあなた、負ける気がないということですよね?」
「……そう、聞こえたかな」
「ええ。……どうやら、私には拒否権がないようなので」
「しかし、きみは試合を受けるだろう? プロのシャドパプレイヤー……ましてや、誇り高きロイヤル使いが、敵に背を向けられるとは思えないからな」

 同じロイヤル使いであるからこそ、自身には私の考えなど手に取って理解できると、空色の澄み切った瞳は真っ直ぐに私へと告げてくる。──シャドバプレイヤーとしての私は所詮、彼の下位互換。だと言うのに、此処で勝負に背を向けてしまったのなら、ロイヤル使いとしての誇りすらも彼に及ばない、と言うことになってしまう。……ああ、なるほど。それは、確かに。……私に拒否権などは存在せず、どうあれ、此処で私は彼の思惑通りになることが定められていたらしい。……ぎゅっ、とスマホを胸に抱えて逡巡する。……どうする、選択権などはそもそもないようだが、……そうは分かっていても私は、デッキに恥じないリーダーでありたい、……これが罠だと分かっていても、やはり逃げられはしない、のだ。

「……分かりました。私が勝ったなら、私が世界最強のロイヤル使いとして、セブン・シャドウズのメンバーになるということで構いませんか?」
「構わないとも」
「そして、私が負けたら……」
「ああ」
「……負けた際にどういった形を選ぶかは、私に権限があるのですよね」
「その通りだとも、きみが自由に決めると良い」
「では、……それはあなたを知った上で決めましょう。教えてください、……ウルフラム・ゼルガ、シャドバを通して、私は、あなたを知りたい」
「良いだろう。……、これは運命なのだ」
「……運命?」
「そうだとも。きみはどうあっても今日此処で、私の協力者になるのだ。既にそのように運命で定められていて、きみは現に私と出会っている。きみとロイヤルのカード、きみのレジェンドフォロワーが運命で引き合わされたように。……私ときみは今日ここで、運命の導きにより出会うべくして出会ったのだよ、

 ──かくして、舞台の幕は上がった。……やがて、眩いばかりの金色に魅せられて、崩れ落ちた私が光を見上げたときに、瞳に映っていたあなたが何を想っていたのか、──いつか、私も知ることが出来るのだろうか。

「……では、本日からよろしく、。私はきみを歓迎しよう、……必ず私の希望となってくれるね、 inserted by FC2 system


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