唱えた夜にひかりあれ

※58話時点での執筆。



「デッキに新しいカードを採用したいと思うんだが、のおすすめはあるかな?」
「──それはもちろん、アルベールです!」

 ワールドランキング上位者とセブンシャドウズとの対決を控えたその日、デッキを調整しつつもにそのように問いかけると、まるで考え込むような様子も躊躇もなくそのような言葉が返ってきて、……思わず私は、ふは、と小さく笑ってしまった。そんな私を見つめては不思議そうな顔をしていたが、それでも、きらきらと輝く瞳は星の瞬きを抑え切れてはいない。
 ──まあ、彼女のことだから、私が助言を仰いだのならば、間違いなくのフェイバリットカードであるアルベールを推してくるだろうとは思っていたが、……こうも素直だと、可愛さ半分、心配半分と言ったところかな。裏表の無い彼女のその気質は、私にとって好ましいものではあるのだが。

「アルベールか……雷滅卿ではないだろう?」
「雷滅卿のアルベールは、確かに強力なフォロワーですが……手札からプレイした際に場を破壊する効果があるので……」
「そうだ、それでは私のデッキには適さない。効果については、のシャドバをいつも見ているから、もちろん熟知しているとも」
「そ、そうですか……? じゃなくて、ウルフラム様が使うならこっちのアルベール……レヴィオンセイバー・アルベールが良いと思います」
「ふむ。……理由を聞いても?」
「このアルベールも、私のデッキに入っているので、自惚れではなければ効果はご存じかも知れませんが……」
「ああ、もちろん知っているよ。だが、が私に勧める理由が知りたいな」
「分かりました、ご説明します。……ええと、まずは……」

 私が言葉の続きを促すとは背筋をしゃんと伸ばして、透き通った声色でアルベールの効果を一つずつ説明してくれた。「まず疾走持ちで、エンハンス9で場にプレイした際に二回攻撃を持ちます」「進化前が攻撃3なので進化を切れば5、二回攻撃がプレイヤーに通れば10点ですね」「PPは少し重いですが、このターンにリーダーへのダメージが0になる効果もあるので、使い勝手は良いと思います」──そうして、おすすめのカードを教えてくれ、と唐突に私から振られた質問に対しても、真面目な彼女は的確な答えをはきはきと述べていくのだ。──そんなの瞳をじいっと見つめながら私は、……彼女のこういう部分が好きなのだと、じんわりと胸に込み上げるそのような感慨を噛み締めていた。

「それから、何と言っても……ウルフラム様? ぼんやりとされているようですが……お気分でも?」
「ん? ……ああ、すまない。何でもないよ、気にしないでくれ」
「そうですか……? 少し、お休みになられた方がよろしいのでは……」
「本当に大丈夫だから、気にしないでくれ。……それで、何と言っても?」
「……はい、何と言っても採用するデッキを問わないのが一番の強みだと思います。能力が自己完結していて、フィールドや手札にも影響しないので、採用デッキを選びません。私も雷滅卿をフィニッシャーにしていますが、レヴィオンセイバーのアルベールも入れていますし」
「ふむ……確かに、ロイヤルデッキでの採用率は高いね。私も、採用してみようかと思ったことはあったんだが……」
「そうなのですか? なぜ採用されなかったのでしょう?」
「だって、彼は私にとって恋敵のようなものだろう? 彼の方も、私には使われたくないかと……」
「……? 恋敵、ですか……? どうして……?」
「それは、……他でもないきみが彼を大切に思っているんだから、私にとってはそういうものになるだろう?」
「ご、……御冗談を……」
「冗談じゃないんだけどな。……まあ良い、やはり私も採用してみるとしよう。何しろ、私が最も信頼するロイヤル使いのお墨付きだ」
「! それは、もう! 絶対に後悔はさせません!」

 ──が、アルベールを見つめて、嬉々として彼を賞賛するときに、私は。……やはり、何とも言えない嫉妬めいた感情を抱えているのだと、この会話はそれを再確認することにもなったが、それでも。──きっとは、彼が居たからこそ今も私の傍に居てくれるのだろうと、その瞳の奥にはそのような確信もある。
 故に、かつて孤独だった少女を守護して私の元まで送り届けてくれたその騎士には、私とて感謝せねばなるまい。──だからこそ、このように幼い悋気は切り捨ててでも、──私はきみが望むロイヤル使いの頂点であり続けるよ、 inserted by FC2 system


close
inserted by FC2 system