ダイアローグは流星の名残り

「──なるほど……きみは選ばれていたのだ、ですか……そう、ですか」
「どうした? 何か言いたげな口ぶりだな、
「……いいえ、私は何も……」
「……?」

 そう言って、目の前のひとはうっすらと微笑んで、只私の名前を呼んだという、只のそれだけ。……けれど、たったそれしきのことに言い知れぬ強制力を感じて、私はいつも、固く結んだ唇をあっさりと緩めてしまうのだ。──ああ、果たして、私は以前からこんなにも口が軽い人間だったのだろうか? それとも、……ウルフラム・ゼルガ、このひとの前で何を取り繕ったところで無意味だと既に悟った私は諦めてしまって、彼だけに恭順の意を示しているに過ぎないのか、或いは、……抑え込もうと、このひとへの溢れんばかりの熱情は零れ落ちてしまうのだという、只それだけのことなのだろうか。

「……先ほど、ウルフラム様が……」
「私が、何か?」
「……私にやったのと同じ手口で、中学生を口説き落としていたものですから、注目してしまっただけ、です……」
「…………」
「……あの、身の程を弁えずに、出過ぎた言葉でした。どうか、今の話は忘れて……」
「──珍しいな、きみがそんなことを言うのは」
「……申し訳ありません、ですが……」
「……ああ」
「……どうしようもなく、そんな風に思ってしまった、のです……なにも、自分が特別だと思っていたわけでは、ないのに……」

 ──ああ、私は何を言っているのだろう。そんな言い方をしてしまったのでは、それはもはや、愛の告白と同義だろうに。たったひとつ、その気持ちを隠そうと取り繕う手立てすら、既に私からは失われてしまったとでも言うのだろうか? ぽろぽろと零れ落ちる自白に、──どうしよう、こんなことを言ってしまって、と。……なんだか、急に怖くなって、ウルフラム様の御顔が、見られない。すると、ぎゅっとてのひらを握りしめて俯く私に向かって、「……、顔を上げてくれ」先ほどよりも至近距離から、ウルフラム様のお声がしたものだから、驚いて咄嗟に顔を上げると、……するり、と。白い手袋を外した大きな手のひらが頬を撫ぜる。すぐそばに、吐息が掛かるくらい、いちばんちかくに、ウルフラム様が、いる。……そうして、急なことに慌てて声が出ない私に向かって、ウルフラム様は柔らかに微笑んで、それから。

「……私は、其処まで器が小さい男ではないよ、
「……うる、ふらむ、さま……?」
「きみからの嫉妬など、可愛いものだ。……それに、なかなかに気分が良いとも」
「お、戯れを……」

 ああ、どうかお許しください、と。懇願じみた声を絞り出そうとするものの、それすらも金色に吸い込まれて何処かへと消え失せてしまって、驚きに見開いた瞳に映るのは、揺れる黄金と青空の色ばかり。くしゃり、と私の髪を撫でるように後頭部へと回された彼のてのひらに、びくり、と肩が跳ねて、咄嗟にウルフラム様の背に掛かるコートへと縋るように指を伸ばして握り締めてしまっても、この方は私を咎めない。──隷属と言う関係性を選んだのは、きっと。こんな風に、何かが溢れ出してしまうのが怖かったからだ。あなたは天上の星、私の指先などでは届きはしない存在なのだと思わなければ、……私だけが一方的にあなたの所有物だと、そう思っていなければ、……いつか、私はあなたのことを、欲してしまいそうで、……私は只々、それが怖くて堪らなかったのだ。

「……きみは選ばれた存在、私にとって特別な人間だよ、

 ──甘やかな声は、あっさりと私の理性を焼き切っていく。あなたの手を取って甘言を蜜ごと飲み込んだこの先は、或いは地獄かもしれないのに、……それでも、私は、あなたを想って死ねるなら本望だと、そう思ってしまうくらいに、……あなたの恩情が、欲しいのだ。 inserted by FC2 system


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