近未来のスカートの中で運命は微笑むの

 ばさり、と。思わず手から取り落とした雑誌の表紙を飾るのは、私の自慢の恋人。そんな、堂々と表紙を彩る、支持率ナンバーワンを誇るプロヒーローのインタビュー記事を見て、私は思わず絶句し、どうだ? と言いたげに微笑む、インタビューを受けた当本人……私の、恋人の顔を見上げると、……私は、必死になって、叫んだのだった。

「……維さん! なんなんですかこの記事!?」
「見ての通り、私のインタビュー記事だが?」
「だが? じゃないんですよ……! ここ! どういうことですか! これ!」
「何処の記述を言っている?」
「こ、此処ですよ……! “私生活でも、常に口元を隠してるんですか?”って質問のところ! です!」
「ああ……何か問題が?」
「も、問題しか無いでしょう……! なんてことを答えているんですか、あなたは……!」
「……“恋人の前では外すとも、隠したままでは何かと不便だろう?”……この回答に、何か問題が? 実際、今も外しているだろうに……」
「そ、……れは! そうかも、しれないですけれど……!」

 それは実際、本当のこと。今だって、プライベートな時間を私とふたりで過ごしている維さんは、ヒーロー活動をしている際のコスチュームではなくラフな私服姿で、ボトムスはいつもどおり、タイトなジーンズだけれど、トップスはハイネックを着ているだけで、口元は曝け出されている。……目元しか見えない状態でも、非常に涼やかで整った顔立ちをしているのがよく分かる彼なのだから、当然、ラフな服装でも維さんは、びっくりするほどかっこいい。あの涼しいひとみに、じっ、と見つめられると、何も言い返せなくなる、けれど、……これだけは、ちゃんと言わなきゃ、だめだ。

「こういうの、よくないですよ……! 匂わせ? みたいなのって……!」
「匂わせ? それは違うだろう、私は恋人の存在を公言している。一般人の女性で、聡明で可憐で可愛らしく、自慢の恋人だと何度もメディアの前で言っているだろう」
「そ、……ういう問題じゃ、ないです……! ……維さん、かっこいいんだから……こういうの、傷付くファンの子だって、いるかもしれないし……」
「ふむ。それは、一理あるかもしれない。……だが、そうして徒に期待をさせるのもそれはそれで、酷ではないのか?」
「そ、れは……」
「それとも、。きみは、私が他の女性から、そういった目で見られても、平気なのか」
「そ、……れは、仕方がない、ですよ……維さんはヒーローで、かっこよくて、皆のあこがれで……支持率だってっ」
「……私は、嫌だがな……」
「……維さん?」
「私は、……きみを他の男に見られるのが嫌だ。きみは私のものなのだと誇示しておきたい。……それでは、駄目なのか?」
「……維さん、ずるいよ……」
「残念ながら、男というものは往々にして狡いものだ」
「つなぐ、さ、」

 そういうの、絶対に良くない。維さんには、世間のイメージだってあるし、……って、そう、思うのに。するり、と私の顎に伸びる白くて長い指にゆるゆると輪郭を撫でられて、「……」甘ったるい声で、名前を呼ばれ、瞳を、静かに覗き込まれたなら。私にしか見せない、彼の薄い唇を押し付けられたなら。私はもう、何も言い返せなくなってしまう。……そうだよ、本当は全部、本心じゃない。本当はね、恥ずかしいけれど、嬉しかったの。でもやっぱり駄目なことだと思ったから、注意しようとしただけで、……私は、維さんのものだけれど、維さんは、私だけのものじゃない。彼はみんなのヒーロー、みんなが憧れるベストジーニストそのひとなのだから、と。必死で抑え込んでいる本音も、唇を割ってぬるり、と入り込む熱い舌に、全部絡め取られてしまう。「っん、う、は、あ……つな、ぐ、さぁ……」鼻を抜ける自分のだらしない声に、恥ずかしくてたまらなくなるのに、……私、嬉しくて仕方がなかった。この涼しい瞳のひとが、こんなにも情熱的なキスをすることも、私を見るとき、こんなにも熱っぽい目付きになることも、……知っているのは私だけなのだと思うと、わたし、……うれしく、て。

「……さて、本音は? 
「……は、はずかしい、から……こういうことをしてる、のは、察されないような言い方に、して……」
「承知した。確かにその点は私も大人気なかったな、がどう反応するのか、気になってしまった」
「……それ、と……」
「……?」
「……これからも、素顔を見せるのは、私の前だけにしてください……」
「それは、そのつもりだが……理由を聞いても?」
「……みんなの前でも素顔でいたら、ますます人気が出て、つなぐさん、No.1になっちゃう……」
「……それは、人気でなれるものではないと思うがな?」
「維さんがかっこよすぎるのが悪いの! ぜったい! みんなに見せないでね!」
「……きみは本当に、面白いことを言う」

 呆れたような口ぶりで、けれど、その声色は楽しげで。満足げな表情でやわらかに破顔するあなたが、……世間での清廉潔白なイメージとは打って変わって、私には少し意地悪で、それ以上に、ひどく甘いことも。知っているのは、私だけでいいって、……あなたのそばにいると、あなたを見つめていると、どうしたって私、そう、思ってしまうのだ。 inserted by FC2 system


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