灼け付くときの果て、ひかりかがやく場所へ

※2が前提っぽいような、単純に成長後のような。



「──ねえねえ、高嶺くん」
「…………」
「高嶺くん……? 聞いてる?」
「……あのさ、
「? どうしたの? 高嶺くん」
「その……高嶺、って呼び方なんだけどさ……き、清麿で良いぞ?」
「え……」
「だから、その……清麿、って呼んでくれないか? ガッシュもティオも、キャンチョメもフォルゴレも、恵さんとかサンビームさんとかも、魔界関係の仲間はみんなオレのこと、「清麿」って呼んでるしさ……その、は元々学校でさ、高嶺、ってオレを呼んでたから、自然とそのままなだけなんだって、分かってるん、だが……」
「う、うん……」
「……オレ、もうの彼氏だろ? だから、名前で呼んで欲しい、というか……」
「……わ、わかった……! じゃあ、清麿くんって、呼ぶね……?」
「お、おう!」
「だから、あの……私のことも、、って呼んでくれる……?」
「わ、分かった! ……ありがとう、

 ──高嶺清麿くん、という同級生は私にとって親しい友人であると同時に、ずっと私の憧れのひと、だったように思う。魔界の王を決めるための戦いに身を投じて以来、偶然にも“魔本の持ち主”という同じ境遇にあった高嶺くんとは、以前にも増して深い接点が出来たことで、共に過ごす時間の深さと長さもぎゅっと密度が増したわけだったのだけれど。その結果どうなったのかと問われたのなら、極シンプルに“私は高嶺くんに恋をしてしまった”、のだろう。戦いの中で何度も共闘の機会があったけれど、高嶺くんはいつだって頼もしくて、そんな彼に助けられてばかりなのは嫌だったからこそ、私もパートナーとして少しでも精進しようと思って自ら行動していた節が大いにあったし、それは私と魔物の子の戦いにも良い変化と成長をもたらしてくれていた。──だから当然、私は自分にそんな影響を与えてくれた彼の眩さにこそ、目を奪われた。きっと高嶺くんは私が見た、はじめての光だったのだろう。けれど、そんな風に彼を特別なひととして大切に思っていたからこそ、私には当時、彼にこの恋心を打ち明けるつもりなどは更々なかったように思う。何故なら私の心の内側に渦巻いていた幾許の想いの中ではきっと、高嶺くんの彼女になりたい、という気持ちよりもずっと、……高嶺くんと対等でありたい、という気持ちの方が、随分と強かったように思うから。

『……その……ガッシュ達の戦いを責任もって終えるまでは、……ガッシュを王にするまでは。この気持ちは伝えるべきじゃないと思っていた、……だが』
『たかみね、くん……?』
、……オレはお前が好きだよ。……だから、その……高校も別になって、こうして偶にしか会えなくなったけどさ……オレとしてはもう少し、こまめにに会いたいし……その……なんだ……?』
『……ふふ』
『……う。悪いな、こんなときも格好付かなくて……』
『え? ……ううん、高嶺くんはいつもかっこいいよ?』
『は……?』
『でも、今のはちょっと可愛くて……あと、寂しいのは私だけじゃないんだな、って嬉しくて……』
『…………ああ、うん、そうだよな……この期に及んで濁してられるか。……なあ』
『……はい』
『オレと、さ、……付き合ってほしいんだ。オレをの彼氏……に、してくれないか。……オレはずっと、に憧れてきたから……』

 ──きっと。私が一方的にあなたに憧れているだけなのだから、と。……そう、誤認したままだったのなら、私からあなたに愛を告げることは、出来なかったのだろうなあ。高嶺くんにとって恋しい唯一になりたい、という願いよりもずっと、人としてあなたに相応しい、引けを取らない存在になりたかった私の心の中では、あなたへの憧ればかりが膨れ上がってしまっていたもの。……やがて、魔界の王を決める戦いが終わって、私と彼は高校生になり、別々の学校に進学しながらも、時折、図書館で共に勉強をしてみたり、はたまた、かつての本の持ち主だった皆と同窓会的な集まりで顔を合わせた際だったりと、……その後も、高嶺くんと会うことは少なくはなかったけれど、約束や口実などがなくとも毎日教室で言葉を交わせたあの頃とは、どうしたってふたりを取り巻く環境は変わってしまっていて。そんな変化の中でふたりの影を縫い留めようとしてくれたのが高嶺くんの側だったこと、……私は一生、彼に感謝しないといけない。──だって、告げられなかったのなら、自分から彼にこの想いを告げていた……なんて、そんな風に言い切れるほど殊勝な性格をしていないということくらい、自分でも分かっていたもの。

『──中学の頃も、に名前で呼んで欲しかったんだけどな? その、……なんだ? そういうの、絶対にクラスの連中に冷やかされるだろ……?』

のこと、そういう茶々に巻き込むのは嫌だったしさ……イヤ、オレはそう言われたところで、嫌だとは思わなかったけどさ……まあ、気恥ずかしくはあるけど……』

『あのさ……、デュフォーのことは最初から呼び捨てで呼んでただろ? それがなんつーか、なんとなく面白くなくてさ……オレは苗字呼びなのに、って……それを伝えられるほど大人でもなかったけどさ……なんだよその顔? ……嫉妬だよ、悪いか?』

 ──もしかすると、自分は高嶺くんに異性として好かれているのかもしれない、だなんて。そんな可能性を私は露ほども想定していなかったから。……だからこそ、高校に進学してしばらく経った後に、高嶺くんからの告白で彼とのお付き合いを始めた後で、高嶺くんが徐々に幼い嫉妬心や執着といった感情を、私の前で隠さなくなっていった際には、本当に驚いた。……だって私は、ずっと高嶺くんのことを本当に格好良いひと、なのだと、そう思っていたから。案外子供っぽい彼の素顔を知っても、やっぱり高嶺くんは格好良かったけれど、正直に言って、彼が私に対してそんな執着を抱いたりするなんてこと、私は想いもしなかったのだと、高嶺くんに正直に伝えてみたら、「オレのこと、なんだと思ってたんだよ……?」と、彼は少しだけ不服そうな顔をしていたけれど、「まあ、オレも人のことをとやかく言えない程度に、に憧れてたけどさ……」なんて言ってくるのだから敵わない。──ああ、そういえば、そうだった。高嶺くんって、初心で純情で、彼から告白してくれたのが奇跡だなって思うほど奥手で、手を繋ぐまでにもとっても時間がかかったし、──あの戦いの日々の中では、平気で手を握るどころか、彼に抱きかかえられたことだって何度もあったというのに。異性として意識した瞬間に、彼は上手く私に触れられなくなるようで、……其処まで意識されていたことに、本当にびっくりしてしまったのだ。……高嶺くんには、ずっと内緒にしているけれど。ファウードでの戦いで、私が彼に人工呼吸をしてしまったことだって、あったというのにね? だというのに、高嶺くんと“恋人として”、……キスが出来るまでも、本当に時間がかかったし、それ以上のこと、なんて以ての外で、そういうこと、……初めてしてくれたのは、大学生になってからだった、なあ。高嶺くんの言い分としては「十八歳以上になるまでは、無責任なことはしないと決めてたからな」なんて言ってたけれど、当初は思わず「こんなの、私の方がよっぽど恥ずかしいんだよ!?」と彼に八つ当たりしてしまいたくなるくらいに照れていた彼に、絶対あんなのうそ! ……なんて、思っていた頃もあって。──ともかく、私の中で高嶺清麿くんは、“格好良いけれど初心で純情な、可愛い男の子”……だったはず、なの、だけれど。

「──ねえねえ、高嶺くん」
「…………」
「高嶺くん……? 聞いてる?」
「……なんだよ? 高嶺さん」
「あっ……ご、ごめん、清麿くん……」
「うん、よくできました。で? どうした? 高嶺さん?」

 ──にい、と笑みを深める彼は、いつの間にかすっかり大人びて、すうっと厭らしく伏せられた涼やかな目元もその言葉尻も、──もう、ほんとうに、全然かわいくなくなった! ……それはもちろん、知ってたよ? 私達の司令塔として立ち回ってくれた高嶺くんは、なんだかんだでいつも、決めるところはバシッと決める男前なところが大いにあったし! ……でも、恋愛面は全然そんなこともないのだと思っていたのに、学習能力の非常に高いこの男、どうやらこの十数年の付き合いの中で、私を通してその手のスキルも身に着けてしまったらしいのだから、ほんとうに、ぜんぜん、かわいくない!

「……清麿くん、可愛くなくなった……」
「そうか? は昔からずっと可愛いけどな」
「またそんなこと言って……! 私の清麿くんはそんなこと言わないもん!」
「“高嶺くんは”、だろ? ……お前の“清麿くん”はそういうこと言うんだよ、……なんたって、“高嶺さん”は、高嶺くんが必死で口説き落とした自慢の嫁なんだからな」
「う、ううう……! そういうとこ! そういうところだから……!」
「ははは、照れ隠しか?」

 ぽすぽすと弱い力で彼の脇腹を叩いて抗議してみたところで、清麿くんは笑みを深めてにまにまと私を見下ろすだけなので世話はない。──昔の清麿くんは、、って名前を呼ぶのも本当に照れ臭そうで、自然と呼べるのなんて戦いの最中で無意識に呼びかけられたたときくらい、だったのになあ。昔は本当に、お互いに奥手だったはずなのに、……清麿くんの方が先に、自分の気持ちを誤魔化さずに向き合い始めた、から? いつの間にか臆面もなく、はっきりと恥ずかしい言葉も口に出してしまえるようになった清麿くんとは対照的に、私は彼と恋人に落ち着いたどころか、……高嶺、にしてもらえた今ですら、彼に触れようとするだけで慌ててしまって、気恥ずかしさや色々で上手く甘えることも出来ないのに、清麿くんばかりが甘やかし上手の甘え上手になってしまって、……わたし、ほんとうにこのひとにだけは、生涯勝てないのかもなあ、なんて思ってしまったり、するし。……それでもやっぱり、彼にとっては対等な相手でいたいと願ってしまったりも、して。

「……清麿くん、どうしてそんなに自信満々なの……?」
「ん? 何がだ?」
「私なんて、いつになってもあなたに選んでもらえた自覚、持てないのに……」
「うーん……そうだなあ、昔はホラ、オレがの彼氏面してる、とかよく周りに言われてたろ?」
「う、うん……?」
「そういうのとかさ、冷やかされて昔は気恥ずかしかったけど……実際に彼氏になったら、どうでも良くなったんだよな」
「どうでも、よく……?」
「おう。……イヤでも、確かにオレが彼氏だしな? としか思わなくなったから、別に気にならなくなったなあ」
「……ほ、ほんとそういうところだよね!?」
「なんだよ? 良いだろ別に、……現にオレが、の旦那なんだしさ」

 ──言われてみれば確かに、恋人になってから少し経ったある時期から、急激に清麿くんとの距離が近くなったような気がするな? と、私は急にそんなことを思い出して、……あ、あれって、清麿くんの中では、“はオレの彼女”と言う自負が強くなったから、だったんだ、って。……そう、気付いてしまって。それに、名前で呼び合うようになる前から、スキンシップに夢中になっているときなんかは、「」ってどろっどろに甘い声で囁いてきたのだっけ、なんて、……連鎖的に色々と彼の蜜月の日々を思い出してしまって、耐えられなくなった私が顔を覆うと、まるで其処を狙い示したかのように耳元へと唇を寄せる清麿くんが、「なあ、……そろそろ、清麿、って呼んでみないか?」なんて、……可愛くない声色で可愛いおねだりをしてくるものだから。私はもうそれで、頭を雷で打ち抜かれたみたいにぐちゃぐちゃの真っ白になってしまって、泣きそうな声で「……きよ、まろ」と、そう消え入りそうに呟くことしか出来なくて、どうやらその態度がまたしても彼の悪戯心を煽ってしまったようで。──呆気なく天井と清麿とを見上げながら私は、……このひとと対等でありたいのに、なかなかどうして敵わないものだなあ、なんて。観念するように想ったのだった。 inserted by FC2 system


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