きらめきながらもたゆたうのでしょう

※2設定。8話時点での執筆。


 互いのパートナーと再会し、魔界を救うためにと行動を共にする中で、オレとはかつての中学時代と同じように共闘関係を結んでいる。──ガッシュとヤエに再会する以前から、には遺跡のことを話していたし、そのときがきたら共に手を取り合って戦うことを以前から約束していて、……まあ、そのために婚約者でもあるとの入籍を、現在、延期にしてしまっていることに関しては、ガッシュ達からも散々咎められたわけだが。……それでも、この戦いの果てに何があるかも分からないのに、現段階でと所帯を持つという決断へは、オレにはどうしても踏み切れなかった。──もしも、オレに何かがあったなら、と言う可能性が万に一つも無いとは限らないのだ。きっと、それを言えばは怒るだろうとも思ったが、怒られるのを承知で告げたオレに向かって、……彼女はそっと微笑んで。

「……分かってるよ、清麿くんは昔からそういうひとだもん」
「うぐ……学ばない奴だと、そう思ってるか……?」
「ううん。……でも、清麿くんのすぐに身を挺して飛び出していくところ、心配だし、やめてほしいし、いつだって不安だよ……」
「……スマナイ、……」
「いいよ、だってね……それを止めるのが私の役目だから! それに! 私もお医者さんになったわけだし! ……大丈夫、昔も今も、私が清麿くんのことを助けるよ。いっしょに生きて帰って……それで、ヤエたちにお祝いしてもらおう?」
「……ああ、そうだな。ありがとう、……」

 ──何も、それだけがの本心ではないという“答え”はオレにだって分かっていて、無論、もオレにそれが伝わっていることは知っている。その上で、オレの意向を汲んで尊重してくれている彼女のことを、頼むからもう二度と泣かせるな、とは周囲からも散々言われていることで、オレだってそれは本当にその通りだと思う。……は、オレには勿体ないような恋人だし、オレよりももっと、彼女を幸せに出来る人間なら他に居るわけで、……それでも、はオレの隣に居ることを選んでくれたから、さ。泣かせたくないなとは、オレも思ってるよ。はやっぱり、笑っているのが一番可愛いしな。

「──おかしい……本の大きさは同じはず……?」
「ん? ……どうした? ?」
「ううん……清麿くんの赤い本と、私の桜色の本……同じ大きさだよね?」
「うん? ……同じだと思うぞ? 昔と同じ大きさだし……」
「だよねえ……どうして、清麿くんが持ってると、本が小さく見えるんだろう……?」

 ──テーブルの上に、赤い魔本と桜色の魔本とを並べて見比べながら、難しい顔で首を傾げるは、どうやら本気でそんなことを言っているようで。その言葉を聞いてオレは思わず、ふは、と吹き出して笑ってしまった。……、頭は良いのに、こういうところ抜けてるよなあ、なんて思いながら、オレはちいさなちいさな彼女の手に、そっ、と自分のそれを重ね合わせて、するり、と婚約指輪の嵌まった薬指を撫ぜてみる。すると、オレの意図が伝わったのかは、わあ、と小さな歓声を上げて、確かめるように緩く、オレの手を握り返すのだった。

「清麿くんの手! おっきいねえ……!」
「いつも見てるだろ? の手こそ、小さいなあ……」
「清麿くんだっていつも見てるでしょ! ……でも、こんなに大きかったんだね……」
「な? 本の大きさは同じだけど、の手が小さいから、それで……」
「エ、違うよ! 清麿くんの手が大きいの!」

 むっ、とオレの言葉に怒ったような反応で、拗ねて見せる仕草は昔といっしょだと、……そう、言えたなら格好も付くのだろうが、昔はオレの前で彼女はこんな仕草で振舞ったりしなかった。あの頃、中学生の最後を駆け抜けた青春の日々で、オレは大人になれない子供だったけれど、は子供になれない子供で、彼女はその生い立ちがそうさせたのか、いつだって大人びた振る舞いばかりしていて、……周りの誰かに甘えたり頼ったりすると言うことを、あの頃のは、きっと知らなかったんだろうな、と思う。オレだって当時もそれを歯痒く思ったことなら何度もあって、……だが、今の彼女は、ちゃんとオレの前で子供っぽく笑って、オレのことをしっかりと頼ってくれている。今も昔も、オレの無茶や無謀に彼女を付き合わせていることには決して変わりが無かったものの、……それでも、今はオレだけがを頼っているわけじゃない、よな?

「そうか? オレはそんなに、昔と変わってないと思うが……」
「そんなことないよ! 身長だって伸びたし……」
「まあ、それは多少はな……?」
「力だってあるもん、抱っこされたときとかもさ、体幹が強くなった? と思うし……」
「……こうか?」
「っわ、た、高い高い! きよまろくん! ちょっと……!」
「……怖いか?」
「……ううん、清麿くんが支えてくれてるから、へいき……」
「……そうか、よかった」

 拗ねたような口調でそう零すにほんの少しの悪戯心を覚えて、軽くて小さな体を抱き上げると、は驚いたような声を上げて、必死でオレの首にしがみついて、……それでも、楽しそうに笑っていた。──は昔から、高い所が苦手でさ、……あの頃は、そんなことだってオレの前では、仲間たちの前では、彼女は必死に取り繕って隠してた。ファウードでの決戦へと向かう際にも、その戦いの最中でも、それ以外にもさ、高所での移動や戦闘を強いられたことは何度もあったが、が自分からその恐怖を吐露したことは終ぞ無くて、……でも、今は怖いときは怖いとはっきり言ってくれるし、オレが傍に居れば怖いのも平気だと、そう思ったことだって、素直に教えてくれる。
 ──この十数年の間に変わったものも、変わらなかったものも、いくつもあってさ、……その中で、オレは常にの力になれていた訳じゃないかもしれない、届かなかったことも、不甲斐なかったことも、いくらでもあったのだろう、それでも、……オレの前で少女みたいにニコニコ笑って頬を染めるが、今でも腕の中に居てくれることが、……やっぱりどうしたってオレは嬉しくて、彼女だけは手放せる気がしない。抱き上げたとの距離は、顔を寄せれば鼻先が触れるほどしかなくて、──思わず、柔らかいその唇をふに、と塞いでみると、ふわりと漂う香水とボディバターの混じったシャンプーの甘い香りは、あの頃とはまた違う色香を孕んでいて、……突然のキスが恥ずかしかったのか、ぽうっと頬を赤らめてオレを見つめるに、……そんなに可愛い顔をされると、なあ。……取り繕った“大人の男”としての面子など、簡単に吹き飛んでしまいそうになるのだ、オレは。

「……う〜〜……清麿くん、なんでそんなにかっこいいの……?」
「はは、なんだよそれ? は本当に可愛いなあ……」
「昔はそんなこと、言えなかったくせに……」
「高嶺くんはそうかもな? でもホラ、清麿くんは、を口説くのに必死だからさ」
「……そういう、ちょっと意地悪になったところ、とかも、さあ……」
「……は、今のオレは嫌いか?」
「……ううん、だいすき……清麿くんは、ずっとかっこいいもの……今も昔も、大好きよ……?」
「……おう」
「……あ、ちょっと照れた? ふふ、かわいい」
「……だー! じゃかーしー! 別に照れてねーよ! ったく……」

 もごもごと言葉を濁しながらも、するり、と細い指に頬を撫でられると、ぶわり、と頭に熱が集まって、……全く、いつまでもガキなわけでもあるまいし、オレは何を照れているんだろうかとは思うものの、……仕方ないだろ、彼女のまなざしにだけはどうしたって、いつまでも勝てないようだから。ふにゃふにゃとあどけなく笑って、頬にふわりと祝福の口づけを降らせてくれる彼女とその日を迎えるときには、……やっぱり、ガッシュとヤエに、見届けて欲しいよなあ。そりゃあ、オレだってあいつらに見守られながらなんてのは、照れ臭いけどさ。……それでも、オレたちを繋いでくれたのはあのふたりなのだと、この物語の最後の頁には、最上級の感謝でそう綴りたいと、……オレも、どうしたって願ってしまうのだ。 inserted by FC2 system


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