39億年後にアンドロメダでまた会おう

※スクカーが前提の転生パロ。幹部組の学生時代など色々捏造。



 俺がエルヴィン・スミスという男と出会ったのは、大学一年の春の出来事だった。それまでの俺は人に誇れるような生き方などしてこなくて、まあそれは卒業後も大差が無かったわけだが、周囲……口煩い叔父の勧めもあり、大学くらいは行っておくか、と気まぐれに潜った門の先にも、キャンパスライフだなんだというものへの期待や憧れなどは、特に持ち合わせていなかったように思う。俺は自分が普通ではない自覚があって、異常なものに普通の学生生活や人生が待っているとは思わなかったし、そんなものを望んでいたわけですらなく。まあ、多少の学は有るに越したことがないと思ったに過ぎないのだ。……正直、それまでの人生に、それが理由で苦労したことはあまりなかったが。だったら、あの直感は一体何に起因するものだったのだろうな。
 まあ、ともかく俺は大学生になり、其処で出会ったのがエルヴィンだ。俺より上の学年にいたあいつに、歴史研究会だかなんだかのサークルに勧誘されて、一度はそんなものに興味はねえと断りはしたものの、紆余曲折があって、結局俺は研究会に腰を落ち着け、エルヴィンと同学年だったミケ、俺の後輩にあたるハンジやナナバ、なんて連中にいつの間にか囲まれて、……エルヴィンが院に進学し、ミケが就職した今でも、俺はなんだかんだと大学に在籍しながら、あいつらとつるんでいるのだった。必要がなくなれば辞めてもいいし、そもそも、俺が生き方を変えない限りは卒業したところで役に立つかは分からないと思っていた大学生活を、いつの間にか俺は、まあ、思いの外悪くはない、と思うようになって。……何故かは分からないが、エルヴィンやミケ、ハンジ、ナナバ……あいつらと過ごすのは、嫌いではなかった。あまりの騒がしさに眉をひそめる日も少なくはなかったが、それでも。……何処と無く、此処が俺のいる場所のように思えて仕方がなかったのだ。その理由は、今でも分からないが。

 そうしてその日は、唐突に訪れた。大学三回生の初夏に、帰省する気もない俺達を気遣ったのか、エルヴィンがキャンパス内で研究会のバーベキューをすると言って学校側から許可を取ってきたのだ。まあ別に断る理由もなく、騒々しすぎるのは好きでもないが、こいつらとならば嫌いなわけでもない。俺がその提案に承諾するとエルヴィンは、「そうだ、俺の近所に住んでいる子をひとり誘いたいんだが、構わないか?」と言う。なんでも話を聞いてみれば、現在高三になる幼馴染だとかが、うちの大学の受験を考えていて、学内を見せてやりたいのだそうだ。どんな人間がいるのか、雰囲気でも分かれば、というエルヴィンの提案に、こんな連中を見せたんじゃ逆効果なんじゃねえのか、とも思ったが、まあそれも、却下するほどの理由にはならない。結局、当日はエルヴィンの幼馴染とやらと、いつもの面子が全員参加する意向に落ち着き、俺もその旨を承諾していた。
 そして迎えた当日の土曜日、てっきりエルヴィンが近所のガキとやらを一緒につれてくるものだと思っていたが、そいつとは後から合流することになったらしい。大学に着いても、一人で此処まで来られるのか? と思っていたら、……まあ、案の定で。

「ああ、もしもし、か。着いたのか? 迎えに行きたいが、今生憎、俺は手が離せなくてな……」
「……オイ、エルヴィン。俺が焼くのを変わってやる。迎えに行ってやれ」
「いやいや、任せられないよリヴァイ。この肉には焼き方があってね……」
「……お前、ヤキニクブギョウ、と言う奴だったのか……?」
「なんだそれは?」
「親戚のガキとその母親が言っていた、日本ではこういう場で仕切りたがる奴をそう呼ぶらしい……」
「ははは、物知りだな、リヴァイ。……あ、そうだ。もしもし、すまない、、聞こえるか? ……ああ、そうだ。今の声だよ、うん。そうだね、じゃあリヴァイに迎えに行かせるから」
「……は?」
「ああ、うん。……そうそう、小柄で目付きの悪い男だよ、黒っぽい服を着ている。お前と同じくらいの背丈だ。……うん、じゃあ俺の代わりに向かわせるから、一緒に来てくれ」

 ……何か今、聞き捨てならねえことを言われた気がするし、勝手に何かを決められた気がするが。嫌な予感を覚えながら、通話終了のボタンを押すエルヴィンを眺めていると、「……というわけだ、リヴァイ、お前が代わりに迎えに行ってきてくれ」と、……まあ、大凡の予想が付いていた言葉を言いやがる。

「正門の近くの案内板の前に居るそうだ、身長はお前と同じくらいで、今日はモスグリーンの服を着ているらしい。すぐに分かるだろう」
「いや……エルヴィン、お前が行ったほうが早い。俺はそいつの名前も顔も知らねえ」
「名前はだ。多分、の方はすぐにリヴァイだと気づくはずだから。さあ、早く行ってきてくれ、リヴァイ」
「……了解だ、エルヴィン」

 お前の判断を信じたいところだが、正直、無事に合流できる自信がねえ。肉を焼いているエルヴィンの後ろで酒を開け始めていたハンジ達も暇を持て余しているように見えたが、何故俺なんだ。ミケやハンジはともかく、人当たりのいいナナバのほうが俺よりも適任じゃないのか? と、エルヴィンに言ってやりたい文句はあれど、まあ黙って迎えに行くことにする。馬鹿騒ぎの始まった芝生を抜けて、キャンパス内を歩き、正門の方へと歩きながら、指定された場所の近くまで来た俺は、エルヴィンの言っていた特徴に当てはまる奴を探す。緑の服で、俺と同じ背丈のガキと言っていたが……、それらしい奴は、生憎見当たらない。案内板の前に、緑色のワンピースの女が立っているが、あれは違うな。聞きそびれたが、エルヴィンの連れは男だろう。

「……あ、」
「……あ?」
「リヴァイ! ……あっ、ごめんなさい、リヴァイさん、ですよね?」
「…………」
「……あの……?」

 端末を取り出し、見当たらねえぞ、とエルヴィンに連絡を入れようとした俺に向かって、案内板の前に居た女が突然、振り返り、声を上げる。なんだ急に、と思っていると、不意に女に、自分の名を呼ばれて、……何故なのかは、知らないが、俺はその瞬間、……どうしようもなく得体の知れない懐かしさに、支配されていたのだ。決して目の前の女に見覚えがあるわけでも、知っているわけでもなく、不躾に名前を呼び捨てられたというのに、……そんなことがどうでもよくなるほどに、その女に呼ばれた名前の響きには、謎の心地よさがあった。らしくもねえ、ことだが。……俺の名は、この女に呼ばれるためにそう名付けられたかのように、しっくりとくるのだ。その声は、俺の名を呼ぶためにあったんじゃねえかと思うくらいに、呼ばれた言の葉は心地よく耳に届く。

「……あ、あの、リヴァイさん……じゃなかったですか……?」
「……あ、ああ……いや、俺がリヴァイだが……」
「よかった……! あの、私、エル兄……エルヴィン・スミスの招待で……」
「……ああ、ってことはお前が……」
「はい、と申します」
「…………か……」
「はい、迎えにきていただいてごめんなさい……」
「いや……気にするな。……行くか」
「はい」

 男だと勝手に決め込んでいたが、まさか女だったとは。そう思いながらも、先ほど覚えた妙な動悸は薄れずに、……断じて言うが、何処かで会った覚えはなく、間違いなくと俺は初対面だ。この辺の高校に通っているらしいが、俺の出身はこの辺りではないしな。何処かで出会っていた、なんてことは絶対にない。……だと言うのに、この懐かしさは、なんだ。この心地よさは、なんなんだ。俺とふたりでいたところで、俺は愉快な話題を提供できるわけでもなく、つまらないだろうに、は嬉しそうに顔を輝かせて、あれこれとよく喋り、俺も不思議とそれが嫌ではなかった。いくつか相槌を打つ俺の隣を歩きながら、ころころと表情を変えるを見ていると、ふ、と思わず口元が緩む。……しかし、ふとが重そうなバスケットを抱えていることに、俺は気付いた。

「……おい、それを貸せ。重そうだから持ってやる」
「え、でも……」
「……こういうのは、年上だとか男だとかに素直に甘えとけ」
「は、はい。……ふふ、リヴァイさん、やっぱり優しい」
「……は?」
「エル兄に、よくリヴァイさんのお話聞いてたの。優しくて責任感が強くて仲間思いの人だ、って……いつも自慢げに話してたから、私、覚えちゃった」
「……チッ、エルヴィンの奴、ありもしねえことを……」

 俺にバスケットを奪われて空いた手を口元に当てて、くすくすと笑ってみせる仕草には、育ちの良さが滲んでいて、エルヴィンの幼馴染という関係性にも腑に落ちた。エルヴィンが俺の話をしていた、というのも……まあ、意外ではあったが、だからこそは俺にすぐ気付いたと言うならば、納得だ。きっと、ハンジ達の話も聞かせていたのだろうと思いながら、のバスケットを持ち、俺はエルヴィン達の待つ芝生まで戻る。近付くにつれて気付いたが、……あいつら、少し目を話した隙にもう出来上がってきてやがるな、未成年がいるってのに……と、そう思いながらも、まあ、歩き続ければいずれ辿り着くわけで、遠くからを呼ぶエルヴィンの声を聞きながら、……俺は少し、名残惜しいような心地を覚えたのだった。

「エル兄!」
「やあ、よく来たね。座るといい」
「へー! あなたがエルヴィンのご近所さん? 私ハンジ!」
「私はナナバだよ」
「ミケだ」
「ハンジさん、ナナバさん、ミケさん、ですね! はじめまして、です」

 を送り届け、元々座っていた席に戻りながら、軍手を付けて汗をかきながら肉を焼くエルヴィンを横目で見る。するとエルヴィンは態とらしい笑みで「、リヴァイの迎えは分かりやすかっただろう?」「うん!」とに問いかけ、も素直に返事をするものだから、俺は些か、首を傾げる。どうせ、他の連中の噂話も聞かせていたのだろうに、そりゃ一体どういうことだ。ハンジ達には、も初対面のような素振りで接していたし、そのやり取りが何処と無く妙だった。……いや、俺も初対面には変わりがねえが。

「おや、リヴァイ……そのバスケットは?」
「ああ……が持ってきたやつだ」
「あ、それね、ケーキ焼いてきたの、林檎の……」
「ああ、アプフェルシュトゥルーデル?」
「そう!」
「それはいい、ありがとう、。リヴァイもこれ、好きだっただろう? の得意料理なんだ」
「あ? ああ……まあな」
「良かったな、リヴァイ」
「みんなはお酒かなとは思ったけど、紅茶も入れてきたの、ポットに……」
「それはいい、リヴァイは紅茶が好きなんだよ」
「……あ? あ、ああ……そうだが……」

 何故逐一、俺を話に巻き込む? と、それが疑問でならなかったが……嬉しそうに安堵の笑みを浮かべるに対して、否定するのも気が引ける。……どうにも今日は、必要以上にエルヴィンのペースに乗せられているなとは思いつつも、を迎えて、バーベキューが再開すると、あっという間にその場は先程以上に騒がしくなり、エルヴィンや俺と話していたは、ハンジに引っ張っていかれてしまったのだった。

「あはは! 面白いなあ! ねえねえ、連絡先交換しようよ、SNSはやってる?」
「あ、はい! ぜひ! えっと、アカウントは……」
「……あ、このパフェの写真、見覚えある。最近出来たカフェじゃない?」
「えっナナバ知ってんの?」
「うん、ミケと行ったんだ」
「なんだそれ! ずるいな!」
「そうです、季節のフルーツのパフェがおいしくて……」
「えー! 私も行きたい! 連れてって!」
「ふふ、いいですよ、ハンジさん」
「……オイ、ハンジ。未成年に酔っ払いの接待させるんじゃねえよ、みっともねえ」
「なんだよー、リヴァイはSNSやってないもんな、嫉妬か?」
「……別に、そういうのじゃねえよ」
「嫉妬じゃん」
「うるせえ」
「あ、ていうかさー、私のことはハンジでいいよ。私とナナバ、リヴァイ達より学年下だけど、呼び捨てにしてるし、今更だから」
「うん、私もナナバでいいよ」
「あ、ありがとう……! うれしい、ハンジ、ナナバ……」
「うーわー! この子かわいい! エルヴィン、貰って帰っていいー!?」
「コラ、ハンジ! はうちの子だぞ!」
「エルヴィンちの子でもないだろー!」

 騒ぎながらバタバタとエルヴィンの元に向かったハンジに、次いでナナバも、追加の肉と酒とを研究室の冷蔵庫に取りに向かうというミケに着いていき、自然と、その場には俺とのふたりきりになる。ぽつん、と取り残されたは、少し迷ってから、俺に向かって口を開いて、

「……あの、リヴァイさん」
「リヴァイだ」
「え?」
「……俺も、リヴァイでいい。……お前、最初俺を見て、リヴァイ、って呼んだろ。……妙にしっくりきた」
「……そう、なんですか……」
「ああ。……だから、そう呼べ」
「……うん、リヴァイ……」

 俺が言葉を挟んだ為に、が言おうとした何かは、行き場を失った。……まあ、別にそれはそのままでも、良かったんだが。

「……リヴァイ、もうおなかいっぱい?」
「いや? まだ食えるな」
「そっか、じゃあ、あの、私の焼いてきたケーキ、食べません?」
「! ……良いのか、他の連中とみんなで食後に、とかじゃなくて」
「うん。こういうのは、食べたいときに食べるのが一番美味しいの」
「そうか。……なら、貰うか」
「うん、待ってね、紅茶も出すから……」
「……ほう、いい香りだ。紅茶の淹れ方も……なかなか上手いな」
「ほんと? ふふ、よかった……」
「……何処か、不思議と……」
「? リヴァイ?」
「いや……そうだ、、お前先程何かを言いかけただろう」
「あ、……えーと……」
「なんだ、はっきり言え」
「……リヴァイ、SNSやってないの?」
「ああ……アカウントを作らされただけだな……、ログインはしてねえ」
「そっかあ……」
「……携帯の番号なら、教えられるが。……お前が、嫌じゃなければ」
「! いいの?」
「ああ。……ショートメールでも、電話でもいい、好きな方で連絡してくれ」
「うん! ……ありがとう、絶対連絡、するね……」

 俺の連絡先が登録された端末を、きゅ、と胸に抱いて頬を緩めるに、そんなものが、そうも嬉しいか……? と、不思議に思ったが。まあ、俺にとっては得でしかないので、そんなことは黙っておく。……こうして連絡先を交換したところで、例えば俺とふたりで出掛けてもが楽しめるとは到底思えないし、俺はべらべらと女を口説けるほどに器用でもない。……只、それでも。

「……美味えな、これ」
「! ほんと? よかった……リヴァイが好きだって、エル兄が言ってたから……」
「……それで、わざわざ焼いてきたのか」
「あ、……そ、そう、なの……」
「……そうか。ありがとうな、
「……うん」

 その日に食った菓子の味も、飲んだ紅茶の味も、どうしようもなく、懐かしくて、得難くて、手放し難くて。「オイ、リヴァイ! にちょっかい出すんじゃないぞ!」なんて態とらしく話に割り込んできたエルヴィンに、……てめえ、最初から今日、俺とを引き合わせるつもりだったとか言わねえよな? と後から放った問いかけに、奴がなんと返したのかは、……まあ、想像に任せるとして。何かと邪魔をしてくるエルヴィンとハンジの妨害を交わしながらも、翌年には同じ大学に通うことになったとの距離は縮まり、それから更に十年先の未来、……俺は稼業から足を洗い、この大学で清掃員をしているわけだが。


「あ、リヴァイ」
、……いや、アッカーマン先生か、学内ではな……」
「ふふ、律儀だなあ。ねえ、お昼、用務員室行っていい?」
「ああ、弁当、お前の分も俺が預かってるからな」
「うん、じゃあ、また後でね」
「……ああ」

 ……稼業から身を引いたのも、再びこの大学に身を置いたのも、……此処で教職の道を選んだの傍にいるためで、……まあ、結局は、すべてエルヴィンの計算通り、だったのだろうな、と。作業服の下、首元に掛けられた揃いの指輪に衣服越しの手で触れながら、学生時代に思いを馳せる日々も、……やはり、悪い選択ではなかったなと。今の俺は、そう思っている。 inserted by FC2 system


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