月の海でなら裸足になれたね

※「電子の海で文字化けるティアラ」からの派生。あちらのフェイザーと夢主が前提。リヴァイアナイトの口調やアビスレイヤーの世界観などは全て捏造。



 アビスレイヤー・ティアラと言うカードは、私の為に用意された専用のサポートカードだ。
 ──否、私の為、と言うのは些か語弊があるかもしれない。元はと言えば彼女は、私の使い手の為に用意されたカードなのだ。墓地の海竜族の数分だけ攻撃力を増す効果を持つ私をサポートするための性能──墓地のコントロールに特化したカードであるティアラは、まごうことなき私のパートナーではあるが、……きっと、“彼女が誰を祝福する存在であるのか”を、……私は、履き違えてはいけないのだろう。

「ナイトさま!」

 にこにこと朗らかに微笑んで私へと微笑みかけるティアラは、海の底の竜宮城にて、私の姿を見つけるや否や嬉しそうに私に駆け寄ろうとするものだから、我らの姫たる立場でありながらなんということかとそう考えて苦笑を漏らしつつも、ひらひらと装飾の多いその服装で転んではいけないとそう思い、私はすぐさま彼女に歩み寄って腕を貸してやる。
 すると、ティアラは、私に凭れて寄り添いながらもくすくすと笑って、「……私は、人間ではなくて海竜なんですよ? ナイトさまは、心配しすぎです」と困ったように囁いている。
 ──ああ、確かにその通りだ。そんなことは私とて分かっていると言うのに、何故だか私は、どうしようもなく彼女に対して過保護になってしまう。──小さな王冠を頭に載せた彼女のことを、己が騎士として守る存在だとでも思っているのだろうか、私は。──きっと彼女は、私と共に戦う者であって、……きっと、それ以上では無いはずなのに、──私はどうしてだか、彼女に対して互いの関係からは逸脱した慕情を覚えているらしいのだ。

 鋭い指先で彼女を傷付けないようにと手を伸ばしてみると、薄っすらと鱗に覆われた蒼白い頬は冷たくて、されど、海底深くのこの竜宮城においては、彼女の肌だけは幾らか熱を帯びているような気がした。しかしながらそれは決して不快な熱さではなく、ゆっくりとまどろみのように沁み込んでは、心臓のおくでざわざわと海潮音を響かせている。そうして私がじんわり、じんわりと、逃れ難い衝動に襲われているこのときにも、──お前はまるで何も知らずにか、安心しきった顔で私に身を委ねて、目を細めているのだった。
 ──ああ、きっと、私は、お前を愛してしまったのだろう。……お前こそは、私を祝福するための存在なのだとそう信じたいのだ、私は。
 ──だが、そんな想いを抱えながらも同時に私には、しっかりと現実が理解できている。──確かにティアラは、私をサポートするための効果を持った存在かも知れないが、デッキから墓地に海竜族を送る、──或いは、墓地の海竜族をデッキに戻すというその効果は、私に合わせてのみ設計されたわけではないと言うことも、──それは、我々を使う主君のために考案された効果であることも、──彼女が誰の姿を模していて、……それが、彼女が誰への祝福を意味しているのかも、すべてを理解した上で、……それでも、私は。

「ナイトさま、次のラッシュデュエル、絶対に勝ちましょうね!」
「……ああ、そうだな、
「きっと、フェイザーさまにも喜んでいただきましょう!」

 ──だとしても、どうしても、……お前という姫君の守護者が私であることを願ってしまうのだ、……まるで、人間の真似事か何かのようにな。 inserted by FC2 system


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