アンリミテッド・イルミネート

※過去捏造



 というトレーナーは、私が昔に見つけた一縷の光だった。──そう、彼女は確かに、私にとって一筋の光、だったのだ。

「……私は、オモダカのライバルには、なれないよ……」

 ──かつて、今よりも私が若く、世界の現実を知らなかった頃。……知った上で、世界を革命することまでは、考えていなかった頃。在学中のグレープアカデミーにてというトレーナーに私は出会い、私と彼女は日々、凌ぎを削り合って過ごしていた。アカデミーの同窓であった彼女は、私と同様にジムテストを受けて回り、その末に私と彼女はチャンピオンランクの資格を手に入れることに成功したが、資格を得るまでの道のりはあまりにもあっさりしていて、……ああ、チャンピオンになるとは、この程度のものかとは多少、拍子抜けしながらも、──それでも、これからはライバルとしてが、私の目の前にいてくれるのだからと、きっと今以上の最高の瞬間を、輝きを、ふたりでならば更新し続けていけるものだと、……そう、私は信じていたのだ、……あの頃は、本心からそう思い願っていたものの、彼女から私へと突き付けられたのは、紛れもない拒絶の言葉だった。

「……何故ですか? 私とはチャンピオン同士、対等なライバルでしょう?」
「違うよ、……オモダカ、私、試験に受かったのも、本当にギリギリだったの。……面接は緊張したし、四天王戦はかいふくのくすりを何個も使ったし、トップとのテストでは、手持ちが五体倒されて、それでもどうにか勝った……」
「…………」
「でも……オモダカは、そうじゃないでしょ。……私、これでもね、オモダカ以外にバトルで負けたことないんだよ。……でも、オモダカは今でも誰にも負けたこと、ないでしょう……? 私、一度もオモダカには勝てなかった……」
「……ですが、次に戦ったなら、あなたが勝つかもしれません」
「ううん。……私じゃ、あなたにはいつまでも勝てないよ、オモダカ。……あなたの光に、私はなれない。……ごめん、私、もう、バトルは……」

 ──あの日、彼女と言う光を絶やしたのは、私だったのだろう。……あの頃、彼女の才能を私は愛していた、そんな彼女に寄り添って、水を与えているつもりで、私の期待と愛で彼女を溺れさせて枯らして殺してしまったというのに、私は結局、自分の在り方を変えることは出来なかったし、自分の掴み取った手段、課せられた使命を私が突き進む限りは、と私との道が再び相まみえる筈もなく、──このまま、二度と彼女は私のライバルにはなってくれないし、私が関わっては彼女が死んでしまうだけなのだと、そう、自分に言い聞かせて、……そうだ、私はどうにか自身にそう言い聞かせていたのですよ、本当に。私には果たすべき宿願があり、あなたには今の生活があるということだって、知っていたから。あなたは導く側ではない、導かれる側になることを望んだのだと、自身に言い聞かせ続けてきた。──ですが、パルデアに新たな光が満ちたあの日。チャンピオン・アオイが誕生したあの日に、私はパルデアという土地で自身が探し続けていた光を、彼女の中に見つけたような気がした。──それで、急に肩の荷が下りたような気がして。私は、自分の理想に限りなく近い世界を、彼女の中に見つけて。──すると、不思議と。……、あなたに会いたいと思ったのです。あなたともう一度、バトルをしてみたいと。もう、嫌と言うほどに思い知りました。……やはり私は、……あなたを諦めきれなかったようなのです。

「……で、それが、私を一方的に表舞台に引きずり出した理由ですか? 理事長殿?」
「──まさか。此度の学校最強大会は、チャンピオン・ネモを中心に学園の皆さんで考えられた催しですよ、私は彼女たちに誘われて、出向いたまでのことで……」
「ハァ……私も一応、教師ですからね、教え子に頼まれてしまっては、仕方ないので大会には出ますが」
「ええ、そうでしょうね」
「……まあ、まさか理事長が、私を目当てにしていると自惚れるほど、私も馬鹿じゃありません。チャンピオン・ネモや新チャンピオン・アオイと戦いたかったのでしょう? あなたは」
「…………」
「……あの、冗談でしょう?」
「……冗談に見えますか……? これでも、あなたに本気なのですよ、私は……」

 ──かつて、ライバルに限りなく近かったふたりは、今では学園の理事長と一教師。は私とは違い、教師として生徒たちと真剣に向き合う日々を過ごしている。……私と向き合うことを、放棄して。そんな彼女の姿勢を、上司としては素晴らしい教員だとそう思ったが、……私個人としては、生徒に妬いてしまうことだってあるのですよ、と。そう言ったところで、はいつも本気で取り合ってはくれずに、……彼女は、私が本気で未だにへの未練を募らせているなどとは思いもしないのだ。……そう、今の今まで、そんなことは思いもよらなかった、らしい。

「……なんだって、私なの……あなたには私よりも、もっと」
「いいえ、私にはあなたしかいません、。──チャンピオン・ネモにチャンピオン・アオイと言う光が必要であるように、……、私には……」
「……オモ、ダカ……」
「あなたが必要なのです、。……私は、パルデアで探し続けた光を彼女たちのバトルの中に見つけて……その光に当てられてしまいました。……やはり、私はあなたを諦められない、もう一度あなたの輝きが見たいと思ってしまった。あなたともう一度凌ぎ合いたいのです……、どうか」
「…………」
「私と共に、輝いてくれませんか。……どうか私を照らす光に、なってください。私があなたを、きっと輝かせてみせますから」
「……あー、もうっ! ……あのねえ、オモダカ!」
「はい?」
「……それじゃあ、プロポーズみたいだから……ライバルになってください、でいいのよ! そういうのは!」
「つまり、そう申し上げれば、ライバルになっていただけるということですね?」
「な、そうは言ってないけれど……!」
「仰りましたよ。……では、改めて伝えましょうか。……
「……なに……?」
「私のライバルで……恋人になってくださいますか?」
「ばか……それならそれで、最初からそう言ってよ……!」

 赤くなった頬を隠そうと俯くあなたの瞳が、きらきら、きらきら瞬いて、──ああ、なんてきれいなのだろう、と。どうしようもなく欲しくなって、思わず白い頬へと手が伸びた。──私の、私のひかり、私の宝石、……私の、かわいいひと。あなたは素晴らしい、私だけのライバル。

「……これからも、どうぞ末永くよろしくお願い致しますね、
「……仕方ないなあ、もう……がっかりしても、知らないからね……」
「あなたが私を落胆させるはずがありませんから、どうぞお気になさらずに」
「……そういうところが、さ」
「はい?」
「……昔は、苦手だったよ。オモダカはいつも、私の話なんて聞かないから……私の気持ちなんて、知らないんだって」
「……今も、苦手ですか?」
「正直、苦手。……でも、それがないと、それはそれで……ちょっと、寂しいみたい」
「……
「あのね……好きよ、オモダカ。……私、今からでも本当に、あなたのライバルに、なれるかしら……?」
「……ええ、きっとあなたなら。……さて、ではまず手始めに、学校最強大会にて、我々の戦いを再開しましょうか!」
「……ええ、望むところ!」 inserted by FC2 system


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