電子の海で文字化けるティアラ

※69話時点での執筆。



「私も、お兄さまのデッキのサポートカードになりたいなあ……」
「……何?」

 MIK支部──冷たく金属質な内装をした廊下にて、些かその場には不釣り合いに見えるほどに和やかに。秘書たちに囲まれて楽しげに話し込んでいるトレモロをじいっと見つめるの目は、何処か羨望に満ちていて、──一体、何を恨めしそうにしていたのかと思えば、執務室に戻るなり、はそのようなことを言い出したのだった。

 ──トレモロが使用しているマキシマムモンスター、輝鋼超竜デヴァスター・オケアビスは、他でもない秘書の彼女たちを材料として作られたカードだった。何でも、彼女たちから強い希望があり、トレモロのマキシマムカードの材料は彼女たちに決まったのだと聞いているが、それだけでは飽き足らずに、アビスカイトの関連カードのモデルまでもを彼女たちが務めている。
 それらに関してはトレモロと彼女たちの問題であり、兄や総帥の立場であったとしても、その問題に対して私が口を挟むような理由もなく、トレモロの好きにさせているが、──オケアビスだけではなくアビスカイトとして、ある種、ラッシュデュエルの盤面に置いてもトレモロを支えることを許されている彼女たちのことが、──なんと、は羨ましくなってしまったのだと言うのだった。

「ねえ、お兄さま! アビスレイヤーの新カードとして、作りませんか? 私も、リヴァイアナイト達といっしょにお兄さまを支えたいです!」
「……私には、お前をカードにする気はないぞ……?」
「マキシマムじゃなくていいですから!」
「当たり前だ」
「モデルにするだけでいいですから!」
「しかしだな……」
「……もしかして、お兄さまは、私がモデルのカードじゃ嬉しくない? 使いたくない……?」

 近頃のはすっかりと私に対する我儘を覚えて、以前に比べると飛躍的に自分の意見を口に出してくれるようになった。──それ自体は、非常に喜ばしいことなのだ。──ならば、何が問題なのかと問われれば、私はどうにもに強請られると弱いからだという、命題はその一点のみである。……駄々をこねる姿は些か困った子だとは思うが、とはいえ、日頃から可愛くて仕方がないと思っているにそっと袖を掴まれて、挙句の果てに上目遣いで見つめられては、……嫌だと言えるはずもなかろう? これで、はと言えば無自覚なのだから、全く手に負えない。

「そんなわけがなかろう……だが、お前をカードにというのは、どうも心臓に悪いな……」
「何も、カードに封印するわけではないのに?」
「ああ……それでもだ」
「……だったら、私がお兄さまがモデルのカードを使うのはどうですか?」
「……まあ、それなら構わないが……」
「良いんですか!?」
「ああ、構わない」
「わあ……! それなら、デザインを考えます! どうしよう、竜の姿と、竜人の姿と、どっちにしましょう……!?」

 が私のデッキのカードになるか、私がのデッキのカードになるか。それが疑似的なものであるとは言えども前者に抵抗がある以上は、どちらがまだ良いかと言われれば、消去法で、私がカードになった方が余程良いと、私はそう思ったのだった。
 それに、のデッキはドラゴン族が主体のデッキだからこそ、宇宙ドラゴンの末裔である私をカードにした場合には、シナジーの面からも無理なく組み込むことが出来るだろう。それに、専用のカードを用意してやりたいと言う気持ちがもともと私にはあって、そう言った意味でもこれはいい機会であると言えた。

 こうして、すぐさま執務室のデスクに白紙の印刷用紙と筆記用具を広げて、の為の新カードデザイン会議が始まり、デザイナーの手でブラッシュアップを経た上で、実際にそのカードはラッシュデュエルに実装されたのだった。「一般流通させるのは嫌ですからね!」とから強く念押しされたこともあり、無論、私とて大衆の手に渡ることを望んでいる訳でもないため、一般流通はしていない限定品ではあるが。
 は完成したそのカードを大層に大事に扱ってくれており、デザインの段階から「竜形態をモチーフにしましょうお兄さま!」「カード名は何にしましょう!?」「光属性のドラゴンサポートがいいです!」と幾つも考案された彼女の要望を叶えて性能面も考えたからこそ、ラッシュデュエルにおいてもかなり活躍しているようで、青眼の白龍と並び立つだけの新エースとして、に重宝されているのだった。
 ──そうして、が楽しそうに嬉しそうにそのカードを胸に抱きしめているのを見ていたら、いつの間にか、……ああ、私はつまらない意地を張っていたのかもしれないと、……急に、私はそのように思ったのだ。

「……やはり私も、作らせるか……」
「? 何をですか?」
、……今でもお前は、私のデッキのサポートカードになりたいとそう思うか?」
「! なりたいです! お兄さま、それってもしかして……!」
「ああ。……ちょうど、リヴァイアナイトに合わせた墓地肥やし要員が欲しくなっていたところだ」
「はい! はい! 私、立候補します!」
「はは、……では、リヴァイアナイトのサポート役は、に任せるとするか」
「名前はどうしましょう? アビスレイヤー・じゃそのまますぎますよね?」
「そうだな……他のカードと揃えるなら、水神から名前を取って、例えば……」

 ──きっと、以前の私ならば、例え疑似的にであってもをカードとして従えるなど、決して良しとはしなかったことだろう。
 だが、があまりにも嬉しそうに笑っていたから。──ラッシュデュエルの最中にも、まるで傍らに私がいるような気持ちになるのだと、応援してくれているような気がするのだと、それが、勇気をくれるのだと、……そう、言ってくれたから。──それならば、私も同じものが欲しいなとそう思ってしまったのは、……結局のところ、私とトレモロは似たもの同士の兄弟、というところなのかもしれないな。 inserted by FC2 system


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