ねだって欲しがるなら奪ってあげるのに

※57話時点での執筆。竜宮兄弟が宇宙人で未来人というヘッドキャノン要素を含みます。マキシマムに関する個人的な推察もあります。



 ──マキシマムモンスター。その言葉通りに極限の力を持つこのカードたちは、この世界には本来存在し得ない代物である。
 今よりもずっと先にある未来にて、将来的にマキシマムモンスターは誕生し、極少数ながらも市場に流通する。遥か遠い未来でも稀少価値を誇るこのカードたちが、現在の世界に存在する理由。──それは、私自身が未来からの来訪者であり、マキシマム召喚をこの時代に持ち込んだからという、シンプルな答えに他ならなかった。

 私が暮らしていた、今よりも遥か先の未来では、地球には異星人が溢れ返り、我が物顔で闊歩し、今よりも遥かにこの星の静謐は穢されている。母なる星の美しい蒼さを護る為にこそ、私は過去の時代を訪れて、この時代にMIK──“迷惑異星人監視機構”という組織を布き、異星人を管理、取り締まる方向で地球の環境保全に努めたが、……やはり、異星人などは一掃してしまった方が地球、ひいては未来の為であると、私はそのように考える。
 よって、私は遂に、“異星人完全排除”へと舵を切った訳だが、……それもまた、遥か未来から時空を超えてまで成さんとする私の目的のためには、時には苛烈な手段とてやむを得ないというものだろう。

 過去の歴史に介入し、正史に置いては存在しなかったMIKを私が設立することにより、歴史を上書きして書き換える。それこそが私の目的で在り、これは地球人にとって正当な抵抗であり、当然の権利である。つまるところ、侵略に飛来する宇宙人への徹底抗戦を決して唱えない、この星に住まう貧弱な彼らの代行者として私は、この時代に降り立ったのだ。──例え、私がこの時代の人間ではないどころか、……この星に由来した清らかな生命体ですらなかったとしても、私の理想こそが真実であることだけは、揺るぎのない事実である。

 そうして、この時代の地を踏んでからMIKを創立し、我が組織がこの時代、この世界に住まう人々から受け入れられ始めた頃に、──私は、と言う少女に出会った。……否、正しくは彼女を見初めた、というのが正しい。
 私が彼女に目を奪われたのは、水の星を投影したかのように透き通るあの瞳の美しさこそが理由ではあったが、……彼女を保護しなければと強く思ったのは、──もまた、我々と同じくこの時代の人間ではないということを、私は知っていたからなのだ。

 ──彼女は、漂流者なのだと言う。
 あるとき突然に、何もない場所に彼女は倒れていた。警察に保護された後にも、を迎えに来る家族はひとりもおらずに、不法滞在者の宇宙人である線も疑われはしたものの、血液鑑定の結果、彼女は純然たる地球人だと既に判明している。
 その後も結局、彼女を迎えに来るものはひとりもおらずに、やがて彼女を引き取った家族こそが、後に私が厳罰を与えた愚かな異星人どもだったのだが、彼らに引きとられて日々を過ごしながらも彼女が、「自分はこの時代の人間ではない」「もっと未来に暮らしていたはずだ」と、……そのように主張を続けていたのは、当初だけのことで。いつの間にか彼女は、──何か、記憶を封印してしまうほどのつらい出来事があったのか──自分が未来からの迷子であったことも、共に暮らす家族とは血縁関係など存在していないことも、何もかもを忘れて暮らしているのだと、……そのように記録が残されていたからこそ、私は彼女を尚のこと放ってはおけずに、強硬策に踏み切ったのだった。

 この時代の人間ではない、というそれだけの意味ならば、彼女は、私と同じではあるが、……決して、私やトレモロのように、目的をもってこの時代を訪れた訳では無い。
 だが、同じ境遇であるからこそ、私には彼女の苦しみを理解出来る。私だけがを、異星人という害獣から正しく守ってやれるのだ。
 彼女の置かれた身の上は、なんと酷い話だろうかと、そう思わないか。未来から過去へと迷い込んで、家族の一人もおらずに、心細さに潰れて泣く少女に手を差し伸べたかと思えば、……彼女を利用して居ただけの異星人などに、を預けておけるものか。

 ──私は、言葉もまともに通じないヒトガタの獣などとは、全く違う。私には正統なる主張があり、そのためにマキシマムカードという切り札も用意している。──マキシマムモンスターは、私の生きていた時代においては、ラッシュデュエルのIDカードを用いて生成されていた。それも、確実に創造出来るとは限らない、運や覚悟と言った不確定要素も絡む代物であり、異星人を撲滅するための兵器としてマキシマムを組織で運用するためには、もっと確実な手立てを取る必要があったのだ。
 IDカードとは、ラッシュデュエルに参戦するためのデュエリストの権利の結晶であり、デュエリストの魂そのものである。──ならば、デュエリストの命とも呼べるそれを用いて尚、マキシマムカードは不完全であると言うのなら、そうだな。……もしも、本物の、“人間の命を用いたのなら”、どうなる? ……それは、さぞかし、未来に存在したカードたちよりも、遥かに精巧なマキシマムモンスターを作り上げられるのではないかと、……私は只、その実験に害獣どもを用いているに過ぎない。

 故に私は、をMIK本部に閉じ込めて、彼女が外など出歩けないように、徹底的に管理することにした。
 外を歩いてはいけないと彼女に何度も厳しく言い聞かせるのは、私がに愛と独占欲を抱いているからで、彼女が異星人に害されることを望まないからで、……それと同時に、外の世界はまだ未知の危険に満ちているからである。

 何しろ、外などを歩いていては、マキシマムモンスターにされても文句は言えないと言うことを、私は知っている。
 その手法を確立したのは私であるのだから、私の手元に居れば彼女だけは安全ではあるのだが、……忌々しいことに、異星人どもの中にもブレーン役は存在する。手段さえ判明しているのならば、猿真似が出来ないとも限らない。……事実、未来においてもマキシマムモンスターは普及していったのは、創造の手段が波及したというところが何よりも大きかった。

 私はを大切に思っており、もうじき彼女は私の妻になる。そんなをMIKの戦力として我々の戦争に投入するなど言語両断であるし、マキシマムモンスターなどという危険な代物を彼女に持たせる気も、私には更々ないが、今後、護衛用としてそれらが必要になったのならば、……丁度よく、カードに封印した後に保管してあるものが三枚ある。の里親は、確か彼女を除いて三人家族だったはずだからな。……まあ、お前は今後もこのように汚らわしいものなどは、使わなくていいとも。安心して私の陰に隠れ、私に身を委ねると良い、。……お前のことは、私が必ず、何者からも守ってあげよう。 inserted by FC2 system


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