エデンが先か、陽炎が先か

 ネポスへの残留が決まった私も、それから、先の騒動で自宅を派手に破壊してしまったレボルトも、取り急ぎの帰る家がないということで、その後の数ヶ月の間はソキウスの屋敷に身を寄せていた。なんでもないことのように、俺の屋敷に来てはどうだ、と提案してきたソキウスの言葉を、当初レボルトは一笑に付してきっぱりと断ったけれど、私がソキウスの家に厄介になることが決まった頃に、なんだか少し考え直しただとかで、レボルトも一緒にソキウスの家に暮らすことになったのである。私は当時、どうしてだろう、と、レボルトの決断が不思議でならなかったけれど、ソキウスはその限りではなかったようで、全く素直ではないな、なんて言って、レボルトを怒らせていたのを、昨日のことのように思い出せる。

 ネポスへの残留が決定した私の待遇は、地球のボーン研究所から派遣された親善大使、というお役目で、レボルトとソキウスは私に、どうせ行く宛もないのだろう、なんて言っていたけれど、実際、評議会や研究所に相談すれば、現地で私が住む家くらいは、手配してもらえたのだと思う。けれど、私がそれをしなかったのは、結局、少しでもレボルトの近くに居たかったからだ。私は、レボルトの部下じゃないし、エクェスですらなくて、かつて彼の理想に賛同して地球を見限った共犯者、ではあったけれど、今となっては、そんなよすがさえも過去のことになってしまって。それでも、私はやっぱりレボルトが大好きだったから、どうにかして傍にいる理由が欲しくて、そして、その最適解がソキウスの近くにいることだったのである。

「……薄情なものだな、お前は。だが、そう正直に話してしまう辺りが、お前があいつの隣人足り得る所以なのだろうな」
「……? 何の話?」
「まあいい。俺も同じだ、を俺の近くに置けば、レボルトは俺の目の届く範囲に居てくれるからな。少しは、なにかをしてやれるだろう」
「……なにそれ? 別に、私が何処にいようと、レボルトは気にしないと思うけれど」
「……本当に難儀なものだな、お前たちは」
「……?」

 この奇妙な同居が始まった日に、ソキウスには嘘偽りない私の本音を伝えてあるし、彼に対する後ろめたさだとか、そういうものは一切なかった。そもそも、地球を見限り遠い異星の地を踏んで、以来、レボルトの元で客人とも捕虜とも言えない曖昧な立場に身を置いていた頃から、ソキウスとは、それなりに気心知れた仲だったから、私の本心を明かしたところで、ソキウスは怒らないと知っていたし、文句を言われるとも思っていなかったのだ。この男は、これで案外情に厚く、友人想いな性質をしているから、私に声を掛けてくれた理由のひとつに私との友情があることも、私には分かっていたし、同時に、私がレボルト第一主義だということを、ソキウスはきっと、誰より一番に知っている。
 ……だって、私は。
 一度は、レボルトが彼の手を放り投げるのを、甘んじて見つめていたのだから。

 ソキウスの屋敷での三人生活が続く日々の中でも、私は親善大使として、レナードが取り仕切るボーン研究所のネポス支部と、地球の本部とを行き来し、時には地球の戦士として、評議会に顔を出したりと、忙しなく過ごしていた。評議会を退き半ば隠居生活を送るソキウスとは違い、レボルトは監視の意味、彼への反省を促す意味でもエクェスとして評議会に残留しているから、屋敷を出払っていることも多々あったし、彼と顔を合わせない日も、珍しくはなかったと思う。
 私がネポスに残留したのは、端的に言えばレボルトの傍に居たかったからで、同時に、彼に引き止められたからだ。今更お前と離れて呼吸なぞ出来るか、と。……そう言ってくれたレボルトの真意を、私の都合で解釈して良いのかが、私には今でもよく、分からない。けれど、お前は、俺がいなくとも生きていけるのか? と、そう問われた言葉には、瞬時に答えられたのだ。それは、無理だ、と。もう私にとっての酸素はあなただけで、それ以外の何処に行っても宇宙の何処もかしこも真空でしかなく、水の星ではきっともう、溺れてしまって呼吸なんてできない、あなたの隣でしか、もう生きられない、と。……そう言って泣きじゃくった私を、あの日、わたしのかみさまは、ぎゅっと強く、抱きしめてくれた、けれど。

 ……それでもやっぱり、レボルトの真意が分からなかった私は、きっと、致命的に。人として大切なものが、欠け落ちているのだと、そう思う。

『……、ネポスでの生活はどうだ?』
『? 特に変わりは、ないけれど……』
『その……、すまない、私はもうの気持ちを尊重すると決めたんだ。今更、帰ってきてくれとは言わない』
『ルーク……?』
『……だが、やはり心配なんだ。きみにとってネポスが、……レボルトの隣が、心地のいい場所だと、そう願っているが。……私は、君のことが好きだから』
『…………』
『願ってしまうんだ、には、どうか幸せであって欲しい、と』

 地球の研究所に顔を出す度に、幼馴染の彼は、決まって私にそう言った。それに翔悟も、タイロンも、アントニオも、……私の離反を、裏切りだと責め立てていたギルバートですら、近頃は顔を合わせる度に私の心配をして、皆が口を揃えて、言うのだ。レボルトに、何か嫌なことをされたりしていないか、って。……彼らは、どうしようもなく、善人なのだと思う、ヒーローで、戦士なのだと思う。だから、裏切り者の私のことを、今も仲間で友人で隣人だと信じてくれているから、そう言っているのだと、頭ではそう分かっている。……でも、私はどうしようもなく人でなしだから、彼らにレボルトの話をされる度に、心臓の奥が、痛かった。私を庇う彼らの言葉はまるで、レボルトを糾弾しているようで、そうではないのだと分かってほしくて、その度に、私以外の誰にも、レボルトを理解できなければいい、そうして、私が唯一であったなら、いつか、もしかすれば、……と。そんな風に考えている、自分の醜悪さを突きつけられているようで、恐ろしくてならなかった。

 皆が、私の幸せを願ってくれても。
 私には、幸せというものの定義が分からないから。
 ……本当に、現状の生活を、私は幸福だと感じている。レボルトの傍に居ることを、拒絶されていない、それだけが。私にとっての幸福なのだと、……そう、以前の私は信じていた。


「……何をしている、
「あ、レボルト……」
「……眠れんのか」
「うん……だから少し、お茶でも飲もうかと思って……」
「ハァ……ならば、とっとと俺の部屋に来ればよかろう」
「でも、レボルト今日忙しかったでしょ? 帰りも遅かったし」
「構わん。……それとも、お前にとって俺は今更遠慮などする仲か? 言ってみろ」
「……あの、いっしょにいても、いい?」
「よかろう。とっとと戻るぞ」
「……うん」

 帰る場所など、自分で棄てたも同然だった。そもそも、この旅の終着点に辿り着く時には、元々私は死ぬ予定だったし、私自身、それを良しとしていた。そんな日々に、何の恐れを抱いていたのか、と考えれば、きっと私が怖かったのは、レボルトに会えない明日が来ることだったのかもしれない、と今は思う。そんな不安だって既に解消されたはずなのに、初めてネポスを訪れてから、今までずっと、私は夜になると不安で、上手く眠れないのだ。……そして、あるときに、眠れずに居るのをレボルトに見つかって、まさかホームシックか? と嘲るように放たれた彼の言葉に頷いてからというもの、私は、レボルトの寝室、彼の寝台での共寝を、他でもない彼に許されている。
 それは、単なる気まぐれだったのかもしれないけれど、当時の私にとっては、これ以上にない救いだった。……だってあの日から、一人で眠ると、同じ夢を見るのだ。当時の私は、地球の皆に裏切りを責められて、必死で彼らから逃げる夢を見ては、毎晩うなされていたけれど、……レボルトと共に眠るようになってからは、怖いくらいに安眠できた。彼の隣は、すべてを捨てた私が選んだ場所。その場所を、他でもない彼に許されていると思ったら、嘘みたいに安心したのだ、それと同時に、違う意味で胸が高鳴って落ち着かなくもあったけれど、それを差し引いても、レボルトの隣に居ると安心できた。
 でも、最近はもう、裏切りの罪悪感に苛まれることも減ってきて、……その代わりに、近頃、別の夢を見る。

「……レボルト」
「……なんだ」
「……もう少し、寄ってもいい?」
「…それも、散々言っているであろうが……下手な気を使うな、不愉快だ。くだらん遠慮などいらぬわ、此方に寄れ、
「……ありがと」

 元々、二度と会えなくなる予定、だったのに。そうじゃなくなってしまってから、というもの。……あなたに、永遠に会えなくなる夢を、わたしはみるのだ。私は地球に強制送還されて、あなたは暗い塔に幽閉されて、そしてもう、死ぬまでレボルトに会えない夢を、何度も何度も見ることが、怖くて。
 ……それで、私は、自覚してしまった。
 理想を追うあなたの背を見つめていられたなら、その背を護れたなら、あなたの盾に、剣になれたなら、側に置いてもらえたなら、それで、……それだけで、いい。私は全身全霊であなたに恋をして、宇宙ごとこの身を投げ出せるくらいには、愛しているけれど、あなたの気持ちは私に向いていなかったとしても、それでいいんだって、本当にそう思っていたんだよ。あなたが持っているものはあまりにも少なかったから、その幾許かを私に分け与える必要なんて無いって、……そう、思っていたんだよ? でも、明日が手に入ってしまった途端に、私は強欲になってしまった、みたいで。……私、気付いてしまった。
 本当はずっと、……あなたに、私を愛してほしかったのだと、いうことを。

 灯りの落ちた寝室、広い寝台の中央で、私を後ろから抱きかかえてシーツに包まるレボルトの表情は、私からは伺えない。もう眠っているのかな、と思いながら、忙しない心臓を落ち着けようとしていると、耳元に少し掠れた声で、、と静かに名前を呼ばれた。なあに、と返事をすると、レボルトは眠たいのか、何処か、ぼんやりとした声色で、

「……もうじき、俺の屋敷が再建する。お前はどうするつもりだ、いつまでもソキウスの屋敷に居座る気か?」
「……そう、だね……そろそろ、私も、出ていったほうがいいよね……」
「ならば、俺の屋敷に来い」
「……え?」
「元々お前は俺の屋敷に身を寄せていたのであろうが。戻るのも当然であろう?」
「で、でも……それじゃ、レボルトに迷惑なんじゃ……」
「……ああ、良いことを思いついた。、お前、本籍はまだ地球だったな? 何かと不便なのではないか?」
「え? まあ……そうだね」
「ならば俺がネポスに本籍を移しておいてやる。そして、俺の屋敷を移住先ということにすればいい。それでいいな?」
「え? そ、そんなことできるの?」
「何、ネポスでは他星からの移住などそう珍しいものではない。地球人にとっては、そうでもないであろうがな」
「そうなんだ……? え、でもレボルトの屋敷を、本籍する理由って、」
「単純な話だ。俺はエクェスで議員だがソキウスはそうではない、俺の元に籍を置いたほうが、審査が通るのも早かろう」
「あ、なるほど……」
「では決まりだな。来月までには荷を纏めておけ」
「わ、わかった。……あの、ありがとう」
「何がだ」
「……ううん、ただ、レボルトといっしょにいられて、うれしいだけ……」

 彼と一緒に眠るようになった頃に、遠慮して寝台の端で丸まっていた私を、不機嫌な表情で強引に引き寄せた彼に、抱きかかえられるようにして眠るのがそれからの常で、……だけど本当に、それだけだった。私は、レボルトのためなら自分のすべてを差し出して投げ出そうと決めているから、……もしも、彼が私に対してそういう気になってくれたのなら、従ったと思う。でも、実際には本当に何もなくて、毎晩、いろいろな話をしながら、一緒に眠っているだけ。彼にとって、心の内を明かせる相手が希少であることなど、私にも理解できていて、それは本当に光栄だと思っている。……でも、だけれど、やっぱりきっと、女としては見てもらえていないのだな、と。そう、思ってしまった。私はレボルトからすれば小娘だろうし、彼をその気にさせられるほどの魅力なんて無いし、当たり前だと、そう思うけれど。この先もきっと、そんなことにはならないのだろうと、そう思ったら、……少しだけ、悲しくなってしまったのだ。



「……あの、レボルト、戸籍を移すって……?」
「ハァ? 俺は説明したはずだが? 俺が戸籍を移しておいてやると言ったであろう」
「で、でも、移民って……?」
「地球人のお前が戸籍を移すには、ネポス人の家庭に入るのが手っ取り早かろうが」

 は俺を盲目的に見つめすぎている、ということには、気付いていた。好意を向けられていることも、分かっていたし、俺とてそれを煩わしく思っていたわけでもない。只、俺が野望を貫く以上、どう足掻こうとも、俺ととは、最後に離別を迎える予定だったのだ。だからこそ、俺はに必要以上の情を持ってはならなかったし、計画の妨げとなり得たその情動の名前を、そもそも以前の俺なら知りもしなかった。だからこそ、突き放していられたのだ。……それは、突き放したところで、こいつは着いてくると知っていたからこそ、で、あったのかもしれないと、今は思う。

 そうして、その計画が狂ったとき、……こいつは、俺の為に捨て身で、命を投げ出してでも俺を庇おうとした。そのときに、初めて。……は本気で、俺に殺されても本望だと、本心から笑えたのだろうということに気付いて。俺を恨まなかったそのたった一人が、あのまま、目を覚さなくてもおかしくないほどの死の淵をも、他でもない俺のためだけに彷徨って、……再び、広い銀河にたったひとりに、なりかけたあの時に。俺はようやく、己が狂おしいまでにこの女に執着していたことに、気付いたのだ。
 俺は、これまで他人と寄り添ってなど来なかったから、その執着に正式な名前を付けるのに、またしばらく掛かってしまったが。その結論は既に出て、最早こいつを突き放す意味もなく、素直に繋ぎ止めておくことに決めた、……にも、関わらず、こいつは。

「……でも、それだったらわざわざレボルトじゃなくても良いんじゃ? って思うんだけど、そう言ったら、それもそうだ、って部下に押し付けられちゃうのかな……」
「……お前達は阿呆なのか?」
「私は真剣に相談してるんだけど!?」
「阿呆なのだな……」

 この女は間抜けにも、俺に直接問わずに、ソキウスなどにそうもくだらん問いなどを投げかけるのだ。俺はそれを影から見つめながら、……なぜ皆まで言わねば分からぬのか、と。そう言えば今度は俺が、それは分からんだろう、とソキウスに呆れられて。

「……俺は、部下や戦士としてお前にネポスへと留まれと言ったわけでない。お前はもう少し、身勝手になってもいい、とも、言ったはずだが?」
「……?」
「……チッ、まあ、俺とて所帯持ちの方が、社会的信用が得られるであろう? 議会の目が煩わしい今、尚のこと動きやすくなってなァ、丁度良かったわ」
「……で、も、本当に私で良いの? 地球人なんだよ? レボルト、嫌じゃないの?」

 戸籍をネポスに移してやるとそう言って強引に頷かせ、……訳も分からずに居るに黙って、俺は勝手に、この女を俺の伴侶とすることで強引にネポス籍の人間に仕立て上げた。これでもう、の帰る場所は地球などではなく、くだらん悪夢を見ることもなくなる。そうして、俺から離れる理由を、無理矢理にでも壊してしまえば、こいつのこんな調子で、……俺を尊重しすぎるばかりに、俺の本心に愚鈍すぎる節も、……どうにかなるかと思ったのだが、な。

「……、お前はこの俺が、率先してしたくもないことをすると思うのか? 慈善活動などするとでも?」
「え? まあ……それは、無いと思うけれど……」
「……其処まで理解できていて、何故分からんのだ……」

 抱き締めて、引き止めて、同衾を赦しても伝わらん奴には、……そうだな、例えば、口でも塞いでやらん限りは伝わらんのか? と、……そう思って伸ばした手を、寄せた顔を、焦った様子のに抑えられて、……流石に、頭に血が上ってきた。驚いた顔で頬を真っ赤に染める程度には、悪い気はしていないのだろうに、何を拒む理由がある、この女は。……何故俺を、あと一歩受け止めんのだ、この女は。

「な、なに!? いまの、なにしようと……」
「……キスのひとつでもくれてやろうと思ったのだが、何が不満だ」
「きっ……そ、そんなことしてもらう理由がないよ!」
「ハァ!? あるであろうが!? お前は俺の伴侶となったのだぞ!?」
「形式上はでしょ……!? 無理しなくて良いよ、そんなの、私にしか得がないし……」
「ハァ!? 無礼な奴だ、誰も無理などしておらぬわ!」
「だ、だって仮面夫婦なんでしょ?」
「……誰がそんなことを言った!?」
「えっ」
「良いか!? ……この俺が! わざわざ嫌いな奴を伴侶に選ぶ訳がなかろうが!」

 ……お前はいつも言葉が足りない、と。俺に散々そう言って居たのは、ソキウスで。俺は、そんなものは俺には関係がないと、そう本気で思っていて、そしては、俺にとって、言葉に出さずとも真意など大抵伝わる相手だったから、散々言語化を怠って、……話が拗れに拗れてしまったのは、そのためだ。……仕方がなかろう、まさか俺とて、此処まで盲目的に愛されているとは思わなかったのだ。それこそ、自分を何処までも蔑ろにして、俺だけを尊重しようとするほどに、この女の世界が俺を中心に回っているものとは、思わなかったのだ。……俺を此処まで受け入れられる人間が居ると、思わなかった。……だからこそ、尚のことお前を逃がすわけには行かなくなったのだ、が。

「単純な話だろうが、……お前は、俺をどう思っている」
「え、……す、好きです。宇宙で一番、あなたがだいすきだから、あなたには幸せで居てほしくて、無理とか、させたくなくて……」
「……俺も同じだ。最初からそれだけの話であろう? それでも、お前には俺の本意が分からぬのか」
「……え、……あの、そ、それって……」
「なんだ」
「……あのね、その、……私の、都合よく受け取っても、いいの……?」
「……俺は最初から、俺の都合でしかお前の言葉を受け取っていない。お前も好きにすればよかろうが。……それで?」
「……?」
「……お前が嫌だというのなら、ま、俺も譲歩してやらんこともない。まあ、今更嫌がったところで、籍は抜かせぬがな。……どうだ? お前は、嫌なのか」
「……いやじゃ、ないです……あの、……わ、わたし、うれしい……」
「……最初から素直に、そう言えば良いのだ。……そら、帰るぞ、
「……うん、あの、レボルト」
「なんだ」
「……ずっと、いっしょにいてもいい?」
「……ハッ、当然であろうが? 勝手に俺から離れてみろ、地獄の底まで連れ戻しに行ってやろう。覚悟しておくがいい」
「……うん!」

 そんな脅し文句に、馬鹿みたいに嬉しそうな顔で笑って、強引に引いた指先を控えめに、絡めて、握って、……阿呆みたいにまなじりを下げるこの異星人のことが、……最近、妙に輝いて見えるのは。どうやら、これが俺の最後のよすがであるから、というだけでは、無いらしい。そんな事実を、否定する気も起きなくなってきたとは、……全く我ながら、度し難いものだ。 inserted by FC2 system


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