星を撒いたような世界だから笑ってしまうの

「……お前の瞳には、星が降っている」

 ──それは、この目で見たがまま、想ったがままでしかない、俺の率直な感想であった。

 初めて出会った頃からずっと、同じように、俺はお前に対してそのように感じているという、只のそれだけ。其処に特別な意味や賞賛はなく、只、個人的な好感だけが存在していた。──の瞳は宇宙の色をしていて、ひとたび目が合ったのならば、深く、深く、この女の何処までも奥深い場所に惹き摺り込まれてしまうかのようなまなざしを、その眼は湛えている。故に俺はその瞳を、まるで天の河のようだと、そう思った。銀河の海の色でありながらも、澄み渡る清らかさに宿る力強いまなざしは、目も眩むほどに星の光のようである、と。……そのように、思ったからこそ。この俺が、素性も知れぬ地球の小娘と、まっすぐに目を合わせたりなどしてしまったのだろう。……全く、もしもこの女が俺の懐に収まっていなかったのならば、この娘は俺にとって最大の障害になっていたのかもしれぬと、幾らか末恐ろしくさえ思う程に。瞳は言葉よりも雄弁に真実を語ると言うのに、大嘘吐きの俺はの瞳に吸い寄せられて、射貫かれてしまっていたのだという事実は、残念ながら代え難いのだ。
 ──俺のそのような評価を、当の本人に聞かせたことなどは、まあ、考えてみれば無かったのであろうが。自分の中では当然の事実であり、俺にとってはある種、を共犯者に選んだ理由の前提条件のようなものでもあった。何しろ、あの眼こそが、口で語られずともという異星人の人となりを物語っており、それこそが俺にとって好ましい類のものであったのだからな。……故に、改めてその評価を口にした際にも、俺には断じて他意などは無かったと言える。尤も、その賞賛には、……近頃、少々遠慮がなくなってきたを甘やかしてやろうという意図も、多少は含んでいたのかもしれぬがな。

「えっ、と……?」
「……なんだ、その顔は?」
「いやあの……だって、その……えっと……」

 そんな風に感想を零しながらも、改めてそう思ったのと同時に俺は、己がの眼を──他人の目を真っ直ぐに射抜けている事実に少し驚いて、やはり何を言ったところで、こいつは既に俺の唯一無二になってしまったのだろう、などという思考を反芻して、……それから、目の前に座る女の美しい瞳を見つめていた。それだけのこと、だと言うのに、……はすっかりとしどろもどろの有様で、赤くなったり、首を振ったりして、何か言いたげで、されど言葉を選んで、「──なんだと言うのだ……言いたいことがあるのならば、お前の言葉ではっきりと言え、俺が許そう」……お前がそのような素振りを見せるときなど、大抵考えているのは俺の為に言葉を選んでいるだとか、そのような理由なのだと相場が決まっているから、そう言って言葉を促してやると、──俺ととのそんなやり取りを見ていたソキウスが、首を傾げながらも徐に口を開く。

「……レボルト、お前は何を今更、を口説いているんだ?」
「……ハァ?」
「お前の瞳は美しい、などと……俺には口説き文句にしか聞こえなかったが……」
「何を言うのだ……俺は率直な感想を……」
「しかし、言葉を濁している辺り……とてそう感じたのだろう?」
「わ、私は! ……レボルトのは、そういうのじゃないって! ……そんなの私の思い上がりだって、分かってるから……で、でも、もうちゃんと夫婦なのだから、そうやって思い上がりだって身を引くのをやめろっていう風にも、レボルト、言ったし……だ、だから……」
「……だから?」
「……あの、私……思い上がってもいい? だめ? その……どっちなのか、分からなくて……わたし、ほんとに、察しが悪くてごめんね、レボルト……」

 ──なるほど。確かに今、そんな理由ではないのだとお前がかぶりを振って、必死で否定した瞬間に、俺は言い知れぬ苛立ちを覚えていた。……つまりこれは、そういうことに過ぎない、と言うのか。俺が何故にその評価を伝えてみる気になったのか、という自身でも気付かなかった極単純な答えのすべては、……要するに、其処にある──其処にしか、無いのだ。

「……ソキウス、席を外せ」
「何を言う、俺にも見せてくれても構わんだろう?」
「構うわ。とっとと出ていけ」
「やれやれ……二の舞は御免だからな、済んだら呼んでくれ」
「え、ちょっと、ソキウス……」
「お前の旦那の我儘だ、。聞いておいた方が良い、……お前にとっても、その方が得だろう」
「……?」

 不思議そうに首を傾げるこの分からず屋とて、最近では少しずつ、自身が俺に必要とされているのだという事実を受け止め始めている、……受け入れられているのだ、俺ばかりが、お前に。

「……、こちらに寄れ」
「……はい、レボルト……」

 ──ならば俺とて、お前には多少、報いてやらねばなるまいよ。対等の存在であることを許した以上、……お前にだけは俺の寵愛を受ける権利と、義務がある。

「……俺は、ただ……」

 ──お前と言う女を美しいと感じている、……これは、只のそれだけの話なのだろう。 inserted by FC2 system


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