042

「──何処行っちゃったんだろうなあ、大徳寺先生……」
「まさか……闇の決闘者にやられたりしてないわよね……?」
「それは考えにくい」
「吹雪先輩を闇の世界へ送り込んだのは、大徳寺先生なわけだしな」
「だからと言って、敵側と決めつけるべきじゃない」
「そうね……何か事情があった可能性も、まだ捨てきれないわ」
「俺は信じてるぜ、大徳寺先生を……」

 ──タイタンとの闇の決闘の後、私たちはすぐさま大徳寺先生の元へと向かったものの、──レッド寮の彼の部屋は既にもぬけの殻で、それどころか、学園中のどの場所を探し回っても、大徳寺先生の姿を見つけることは叶わなかった。
 ──そうして、彼が失踪してから、既に一週間以上が過ぎているものの、今だ大徳寺先生の行方に関する手掛かりは見つからず、状況は手詰まりになってしまっている。
 それでも、そんな私たちの焦燥などはお構いなしに、学園での日々はいつも通りに過ぎてゆき、──気付けばいつの間にやら今年も、学園祭の季節が近付いてきていたのだった。
 ──学園祭では毎年、亮や吹雪と三人で各寮の出し物を周っていたから、──去年、吹雪が居なくなったことで、初めて亮とふたりで学園祭を見て周った際には、……なんだか、寂しくなってしまって、あまり盛り上がらなかったな。
 だから尚のこと、今年の学園祭を吹雪と共に迎えられるのは喜ばしいところでもあるけれど、そうは言ってもこの状況では、──到底、学園祭などに参加する気にはなれずに、各寮では少し前から催し物の準備が進められていたものの、私たちはそれぞれその準備には参加しておらず、結局はこうして、不参加のままで学園祭の当日を迎えてしまった。
 オベリスクブルーでは喫茶をやるようだったけれど、まず関心のなさそうな亮はともかく、平時であればそう言ったイベント事には積極的に参加しそうな吹雪も、流石に今回ばかりは乗り気ではないらしい。
 私と明日香も、女子寮の出し物に関しては他の生徒たちに任せ、皆との話し合いを優先し、……それに、今は誰一人として軽率な単独行動をするべきではないとそう考えて、──学園祭の当日、私たちは皆でレッド寮へと集まっているのだった。

「──コスプレデュエル!?」
「隼人くんに教えてもらった、レッド寮伝統の出し物!」
「そうなのか……」
「そうなんだな」
「楽しそうだなあ」
「知らないんすかぁ?」
「イエローの縁日には行ったことあるが……」
「此処まで来たことはないなあ」
「ね。私も知らなかったわ」

 そうして、十代たちと皆で相談している間にも、翔くんや隼人くんたちは学園祭の準備を進めている。
 ──しかし、隼人くんはつい今ほどまで看板に絵を描いている様子だったけれど、……もしや、レッド寮の準備は其処まで遅れているのだろうか? とお節介が過ぎるけれど、私は些か心配になってしまった。
 一体、翔くんたちはこんな土壇場まで、何の出し物を用意しているのだろうと思いきや、──レッド寮では、“コスプレデュエル”という出し物をするらしい。
 なんでも、デュエルモンスターズの仮装をした決闘者同士でデュエルをする、見世物としての要素の強い小規模大会……と言ったところのようだ。
 ──でも、レッド寮にそんな伝統……といっても、デュエルアカデミアが創立されてからの年数を考えれば、……それは伝統と呼べるのだろうか? という疑問も些か残ったものの、──ともかく、レッド寮が毎年そういった出し物をしていたとは、私たちも知らなかった。
 上級生の私たちですら存在を把握していない“伝統のコスプレデュエル”に対して、十代はどうやら懐疑的な様子だったけれど、──対する翔くんは、……なんだか、とてもやる気に満ち溢れているみたい。
 
「ええ……」
「そこなんスよ! レッドの出し物に誰も来ないのは、レッドには女の子が居ないからっス!」
「いや、イエローにも女子は居ないし……」
「そこでボクは考えた!」
「聞いてないし……」
「こういうもんには、華がないと! ──そこで、明日香さん! さん!」
「……ん?」
「え、……私たち?」
「!? 翔くん!? ど、どうしたの? そんな、土下座なんてやめてちょうだい……!」

 ──突然、翔くんから名指しで呼ばれたことに驚いて、一体何かと思いきや、──なんと彼は、私と明日香の前で地面に手と膝を突き、土下座の姿勢を取っているではないか。
 流石にこれには驚いて、慌てて私もその場にしゃがむと翔くんの肩をそっと叩いて立ち上がることを促すものの、普段は消極的な翔くんが何故だか今日は妙に頑なで、まるで私の言うことを聞こうともしない。
 亮や明日香も翔くんの行動には驚いている様子だったけれど、──この場で一番驚いているのは、きっと私だったと思う。
 だって私は、つい最近にカミューラとの決闘で私が彼に代わって命を懸けた為に、……翔くんに多大な責任を感じさせてしまっていることを、知っていたから。
 あのときは、上級生だから庇っただけだと思ってくれていい、とそう伝えたけれど、……きっと、翔くんは私のことが怖いのだろう、苦手なのだろうなと言う自覚があるからこそ、──突然、彼に土下座されるなんて、……流石に私も、……まさか、其処まで苦手に思われていたのかと不安になるし、焦りたくもなる。

「レッド寮を助けると思って……お願いします!」
「……え?」
「コスプレデュエルに、参加してください! さん!」
「……あ、ああ……そういうこと……?」
「ちょ……ちょっと翔くん! やめてよ! それに私たち、ブルーだし……」
「良いんじゃないか?」
「え?」
「うん……?」
「明日香のコスプレなら、僕も見たいぞ。亮ものコスプレ、見たいだろう?」
「兄さん……」
「いや、俺は……」

 一体どうして、翔くんは私に頭を下げているのかと思いきや、──彼は私と明日香に、コスプレデュエルに参加して欲しいのだと言う。
 ……ああ、なんだ、そんなこと……? ──と、私は正直なところ、翔くんの言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろしてしまったし、……まさか、どうあれ翔くんが私を頼ってくれるなんて、思いもよらなかったし、……そう考えると、ちょっと嬉しく感じるところでもある。……もしかすると、彼にとっての私は、只、苦手なだけの上級生ではないのかもしれないと、……少しだけ、そんな風に思えたからだ。
 ──しかし、明日香は少し気恥ずかしそうにもじもじしているし、亮もなんだか言い淀んでいる様子で、歯切れが悪い。
 ──コスプレデュエルって、デュエルモンスターズの格好をしてデュエルをするだけなのでしょう? ショー的な要素もあるのかもしれないけれど、私は割と、そう言った立ち振る舞いも得意だし、翔くんの頼みならやってみてもいい。
 吹雪が何故かやたらとにこにこ楽しげにしているのは気になったものの、……まあ、別に私は引き受けても構わないと、──そう、思って、翔くんに声をかけたのだけれど。
 
「翔くん、頭を上げてちょうだい。そんなに困ってるなら、私でよければ協力するわ」
「おい、……」
「──やったー! さんがオッケーしてくれた! それに、明日香さんもお兄さんのお許しが出たぞー!」
「……んん?」
「やったー! やったー! やったー!」
「あれ……?」
「……騙されたわね、さん。……もう、しょうがないわね……」

 ──翔の我儘に振り回されて、レッド寮の十代や同級生の三沢はともかく、と明日香までもがレッド寮の催し物へと巻き込まれることになってしまった。
 流石に翔を止めようかとも思ったが、……まあ、翔は楽しそうだったし、吹雪も明るい顔をしていたし、明日香とて満更ではなさそうで、──それに、に至ってはまるで気にしていないような素振りだったから、俺が強く制止すると言うのも少し憚られて、……とは言え、こういった賑やかな催しに積極的に混ざるのは苦手だから、俺自身は今回、デュエルには参加せずに観客へと徹することにしたのだが、──どうにも、翔に連れられて衣装を選びに行ったきり、がなかなか戻ってこない。
 明日香や十代たちは、既に着替え終わって向こうに集まって話しているようだが、はその輪の中には居らず、──一体、は翔に何処まで連れて行かれたのだろうか……。
 
「──は、一体何の仮装を……」
「ほら、やっぱり亮だって気になるんじゃないか! のコスプレ! うんうん! 分かるよ、男のロマンだからね!」
「そうではない。翔の我儘に付き合わせてしまっているんだぞ、気にかかるのも当然だろう……」
「そんなこと言っちゃって……そうだ、そういえばとは何か進展はあったのかい?」
「……ああ、そうだったな、……実は……」
「──ねえ、翔くん……この衣装って、着方はこれで合ってるの……?」
「バッチリっス!」
、ようやく着替え終わったの……か……」

 背後からと翔の声が聞こえて振り返ると、──なんとそこには、ハーピィ・クィーンの仮装をしたが、不思議そうな顔で衣装の羽根飾りを触りながら、翔に連れられて戻ってくるところだった。
 ──ハーピィ・クィーンと言うと、身に付けている装飾は到底、衣服とは言い難い、何とも形容が難しい……ともかく、一見すると着用の仕方など分からない、紐のような衣装を手渡されたために、はこれほど着替えに手間取っていたということだったらしい。……なるほど、戻りが遅かったのは、そういう訳か。
 そうして、苦戦の果てにどうにか衣装を身に纏って戻ってきたものの、はあまりしっくり来ていない様子で、首を傾げながらも確かめるような手つきで衣装のあちこちに触れているのだった。

「おお! はハーピィ・クィーンか!」
「明日香に合わせて、私もハーピィ・レディにしようかと思ったんだけど、翔くんが……」
「いやいや、さんは学園の女王っスよ! ハーピィ・クィーンがぴったり!」
「うんうん! 似合ってるよ! !」
「そ、そう……? まあ、翔くんと吹雪がそう言うなら……」
「……いや、待て…………」
「? なに? 亮?」
「……流石に、露出が多すぎるだろう……?」
「ええ。だから私も、サイバー・ボンテージを借りたかったのだけれど、サイバー・ボンテージはハーピィ・レディの衣装から取り外せないらしくて……」
「……いや、そういった問題ではなくてだな……?」

 明日香の衣装も大概だとは思うが、ハーピィ・クィーンの仮装を身に纏うは、──その、どうにも、目のやり場に困るほどに露出が多い。
 明日香の身に付けているハーピィ・レディの衣装にはサイバー・ボンテージの鎧があるものの、のハーピィ・クィーンにはそれに該当する甲冑部分のパーツが存在せず、白い肌が惜しげもなく晒されてしまっているのだ。

「ハーピィ・クィーンはフィールド上でハーピィ・レディとして扱われるのだから、サイバー・ボンテージが装備できないとおかしいでしょうに……レッド寮の衣装班は、カード効果について少し勉強不足ね。亮もそう思うでしょう?」

 ──そう言って、真剣な顔では俺に同意を求めてくるものの、──俺が言っているのは、断じてそう言う問題ではない。「これじゃ攻撃力1900のままなのよ? サイバー・ドラゴンにも届かないじゃない、私も攻撃力2400になりたかったわ……」と肩を落とすは、明らかに気にすべき点がずれていると、──流石に俺も、些か頭が痛くなってきた。

「──翔、なんでにあのような格好を……」
「え? ああ……最初は、マジシャンズ・ヴァルキリアのコスを着てもらいたかったんスけど、衣装がなくって……」
「そういった問題ではないだろう、翔……」
「でも、似合ってるっスよ?」
「そうではなくてだな、……いくらなんでも、露出が多すぎる」
「でも、さんは気にしてなさそうに見えるけど……」
「……それは、そうかもしれんが……」
「もしかして……お兄さんが気になるの?」
「…………」
 
 気になるかならないかと問われれば、──それはもちろん、気になるに決まっているだろう。
 ──しかしながら、まさか弟相手にはっきりとそうは言えず、思わず黙り込む俺を見上げて、翔は不思議そうな顔で、「お兄さんでも、そういうの気にするんだ……」と感嘆を漏らしているものの、……俺とて、恋人が不特定多数の前であんな格好をしていれば心配もするのだが、……俺は一体、弟になんだと思われているのだろうか。
 そうこうしていると、シャッター音が響き、──思わずフラッシュの光った方を見ると、其処にはいい笑顔でカメラを構えている吹雪が立っていた。──そのカメラのレンズは、間違いなくと明日香の方を向いている。

「……兄さん?」
「いやあ、ちょっと見ない間に、妹がこんな美人になってくれて、兄さんは嬉しいよ!」
「兄さん? その写真……」
「明日香のファンクラブのメンバーに配ろうと思ってね! あ、安心してくれよ? の写真は亮だけに渡しておくから!」
「──待ちなさい、兄さん!」
「嫌なこった〜!」
「写真返して! さんにも迷惑かけないで頂戴!」
「……吹雪さんって……」
「ああいうキャラだったんだ……!?」
「……ええ、ああいうひとなのよ、吹雪って……」
「ああ……」

 俺はそうして、どうにかを止めて翔を窘めようと考えあぐねていた訳だったが、……楽しげに走り去っていく吹雪と、それを追う明日香を見ていたら、──なんだか、急激に脱力してきたな。
 この後でレッド寮の出し物に観客が集まれば、間違いなく学園の女王である彼女は注目されるだろうし、にはやはり、せめて違う衣装を着て欲しいとは思ってしまうが、……しかし、これも彼女が翔の為に善意でやってくれていることなのだと思うと、……只、俺の独占欲だけでこれ以上を咎めると言うのも、幾らか気が引けるのは事実だった。

「……、その恰好、お前は嫌々着ているわけではないんだな?」
「え? ……まあ、私も本当はカイバーマンの仮装が良かったのだけれど、衣装がなくて……」
「……そうか……」
「ハーピィは舞さんのモンスターだし、結構楽しいわよ! ……でも、似合わないかしら? 私、鳥獣族使いではないし……」
「そう言った問題ではないと思うが……まあ、似合っていると思うぞ」
「あらそう? それなら、今日はこの格好のままで過ごすことにするわ」
「そうか。……ありがとう、
「え?」
「……翔の力になってくれたこと、俺からも礼を言わせてくれ」
「……ええ。翔くんが頼ってくれたの、嬉しかったわ。……羨ましいでしょう? お兄ちゃん?」

 ──羨ましい、か。……そうだな、確かに、そうなのかもしれないな。
 苦手意識を持たれているのかと思えば、案外あっさりと翔に頼られたのことも、……それから、自分の選んだ服をに着せている翔のことも、……俺は幾らか、恨めしく感じていたのかもしれない。……無論、ふたりの前では言わないが。

 そうして、幕を開けたコスプレデュエル大会では、初戦で十代が登壇し、──対戦相手には、ブラック・マジシャン・ガールの仮装をした女子生徒が名乗りを上げたのだった。
 その場の全員が見覚えのない女生徒は、特に誰の知人や友人という訳でもなさそうだったが、彼女は見事なパフォーマンスで瞬時にその場の空気を掌握してしまった。
 彼女に対峙する十代が、ブラック・マジシャン・ガールに向かって反撃を繰り出すだけで、十代に対して観客からのブーイングが飛び交う状況に、……俺とは観客席で顔を見合わせながら、思わず苦い笑いが漏れる。
 
「……やりにくいだろうな、十代」
「当然ナノーネ!」
「しかし、あのブラック・マジシャン・ガールも抜け目がない」
「ええ……あれほどの腕なら、ブルー女子寮でも見覚えがありそうなものだけれど……」
「……も知らないのか?」
「ええ……あの子、ブルー寮では見たことがない筈だわ」
「……何?」

 ──俺はてっきり、ブルー女子寮の生徒だと思っていたからこそ、ならば見覚えくらいはあるのではないかと思っていたが、──なんと、ですらもブラック・マジシャン・ガールに扮する彼女には見覚えが無いのだと言う。
 ──ならば、彼女は学園祭に合わせて訪問した、外部からの一般客なのだろうか?
 いずれにせよ、腕の立つデュエリストであればデッキさえ判明すれば、その素性にも見当くらいは付くだろうとそう思ったが、──なんと彼女は、ブラック・マジシャン・ガール──伝説の決闘王・武藤遊戯だけが持つ筈のそのカードを召喚してみせたのである。

「ブラボー! ブラマジガール!」
「ブラマジガールは、伝説の決闘王・武藤遊戯のデッキにしか入っていない筈だが……」
「もしかして、あの子……」
「……案外、本物だったりしてな」

 召喚されたブラック・マジシャン・ガールを見た俺が思わず漏らしたその言葉に、は此方を見上げてふっと微笑む。──きっと、には俺の言わんとしていることが伝わったのだろう。
 は、やはりデュエルモンスターズの精霊と心を通わせた決闘者なのだと言う事実を、……つい先日に、俺はようやく彼女自身から打ち明けてもらった。
 俺には精霊が見えなかったが、その際にからある程度の事情は聞き及んでいたため、……デュエルモンスターズの精霊というものにはどうやら自立した意志があるらしいということも、特定の条件下では、彼らが実体を得ることも可能であるらしいとも既に知っている。
 ──であれば、目の前で決闘を繰り広げるあの少女は、……もしかすれば、本物のブラック・マジシャン・ガールなのかもしれないと、──俺が零した“本物”という言葉をに否定されなかったことそのものが、俺にとっては何よりの証明で、──恐らく、俺の予想は粗方当たっていたのだろう。
 
 その後も、“ブラック・マジシャン・ガール”が繰り広げた決闘は見事なもので、マジシャンズ・ヴァルキリアを複数展開する“ヴァルキリアロック”戦術までをも披露してきた際には、いよいよもって十代の劣勢かとも思われたが、最後には十代が局面を持ち直して、──大歓声の中、決闘は十代の勝利で幕を閉じた。
 しかし、“ブラック・マジシャン・ガール”は最後までこの決闘を盛り上げて、──観客の声援は、敗北して尚も彼女に注がれているのだった。
 そうして、大盛り上がりの会場と、心底から楽しげに笑って司会進行を務め、皆に掛け声をかけて客席を煽る翔に、──思わず、苦笑もしたくなる。 
 まさか、翔があんな風に笑っているところを、この学園で見られるようになるとは、……つい一年前までは、考えもしなかったな。
 ……きっと、もあの笑顔の為、翔に手を貸してくれたのだろう。
 
「……参ったなあ、これじゃ俺、悪役だ」
「そんなことないんじゃない? 楽しいデュエルだったんでしょ?」
「ああ! 最高!」
「それなら、良かったじゃない」
「きっと彼女も、そう思ってるさ!」
「うん、正体は謎だがな」
「ああ、そうだな──ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」
 
 ──そうして、結局は陽が落ちるまで、俺達はその日、レッド寮で学園祭を満喫して過ごしたのだった。
 その後も白熱したデュエル大会が終わると、レッド寮ではキャンプファイヤーが焚かれて、現在はデュエル大会参加者の写真撮影会が行われている。
 明日香はブルー女子の同級生二人と共にハーピィ・レディ三姉妹に扮してカメラに囲まれており、いつの間にやら楽しそうに笑っていて、その撮影に混ざる吹雪もまた、──本当に楽しそうに、笑っていた。

「……今日は、翔くんとブラマジガールのお陰で、みんな、良い気分転換になったわね」
「……ああ、そうかもな」

 と共に、皆から少し離れたところで、キャンプファイヤーを囲んで楽しげに笑い合う後輩たちや吹雪の姿を眺めて、──俺もまた、近頃は気を張り詰めすぎていたのかもしれないと、彼女のその言葉を聞いて、ふとそんなことを思った。
 こうも周囲を巻き込み過ぎたのはどうかと思うが、……確かに翔の主導で、今日は皆が笑って過ごしていた。──デュエル大会が始まる前は、大徳寺教諭の行方を巡り、皆が暗い顔をしていたというのに、だ。翔本人にそんなつもりはないのかもしれないが、……今日の一件は、確かに翔の手柄だったかもな。

「吹雪と明日香も、楽しそうだし……」
「……ああ」
「私も結構、楽しかったけれど……亮は? どうだった?」
「そうだな……俺も案外、楽しかった」
「……そう。それは良かったわね、お兄ちゃん」
「……ああ」


「──まあ、悔いがあるとすれば、せっかくのハーピィ・クィーンなのに、デュエル大会でハーピィを使えなかったことね……」
「うん……? は元からハーピィデッキは使っていないだろう?」
「……実は、デッキだけは持っているのよ……」
「……それは、初耳だが……以前に使っていたか? 青眼を使い始める以前も、お前はドラゴン族を使っていたと思ったが……」
「? 私、亮にそんなの話したことあったっけ?」
「あ、……いや、俺の予想だ」
「そうなの? まあ、実際に以前もドラゴン族デッキだったのだけれどね、……舞さんに憧れて、真似して組んだデッキだけは持っているのよ」
「ほう、使わないのか?」
「……私、普段からドラゴン族のハイビートでしょう? デッキのタイプが、その……」
「ああ」
「……ロービートって、苦手なのよね……火力が物足りなくなっちゃって、使いこなせないと言うか……」
「まあ、気持ちはわからんでもないが……」
「でしょう? 今日くらいは使っても良いかと思ったけれど、それで負けたら格好悪いじゃない……」
「……しかし、気にするところはやはり其処なのか……そうか……」
「え? 何の話?」
「いや……もう何も言うまい。実際、今日のの決闘は鮮やかな立ち回りだった」
「そうそう! 今日のはすっごく綺麗だったよねえ! 亮!」
「ああ、実に見事な戦術で……」
「いや、そういう話じゃないんだけど……ところで、撮影会には混ざらないのかい? 皆がきみのハーピィ・クィーンを撮りたがっているよ!」
「……ああ、それなのだけれど、私はちょっと……亮が……」
「? 俺がどうした?」
「大丈夫! 亮の分は僕がたくさん、の写真を撮ってあるからね! 現像したらきみにあげるよ! 嬉しいだろう!? 亮!」
「吹雪、の許可もなく撮影するのは……」
「これとか、凄く綺麗に撮れてると思わないか!?」
「……吹雪、聞いているのか?」
「何枚現像しようか? 一枚ずつで足りるかい? いや! 足りないよね、こんなに可愛いんだから!」
「──吹雪!」

 ……私は、「亮が妬くから他の生徒に写真は撮らせないわ」って、そう伝えようと、……吹雪にも、亮と付き合っていることを伝える良い機会だと思ったのだけれど、……これはどうにも、タイミングを逃したみたいね……。


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