048

 アカデミア本校舎から緑色の光の柱が打ち上がったかと思えば、更には、森の中から地面を貫いて現れた七本の柱に、準の持ち出した七星門の鍵が共鳴し、──やがて、柱の中に鍵が吸い込まれて、──そうして、七星門の封印が破られてしまった際には、──本当に、頭が痛くなった。
 ……仮にも、私は長作さんと正司さんから準を託されている立場だと言うのに、準の暴走を止められずに、この様である。
 ──確かに私は、準が凶行に及んだ昨夜は結局、アカデミアまで帰ってこられなくて、本日に予定よりも一日遅れで帰ってきたところ、──昨日は待ちぼうけを食らわせてしまったと言うのに、めげずに今日も港まで迎えに来てくれる──と、昨夜そのように電話で話していた亮の姿が見当たらないので探していたら、砂浜に皆の姿を見つけて、──それで吹雪が、ラブ・デュエルがどうこうと騒ぎ出したことでようやくこの騒動の一端を把握したので、──まあ、私には今回、どうあれ準を止めようがなかったとは、思うけれど。
 ──それでも、皆で必死に戦って守り抜こうとしていた七星門の封印が、準の暴走で破られると言うのは、──何とも、嘆かわしい話で、……思わず、一瞬だけ目を逸らしてしまいたくなった。

 しかし、七星門の封印が破られて、三幻魔が解き放たれたと言うのなら、黙って見過ごすわけにも行かない。
 私たちは、光を辿って森の中を駆け抜け、──そうして、封印が解かれたことで地上に現れた三幻魔のカードを回収しようと試みたものの、──三幻魔は、改造人間と化していた影丸理事長によって回収され、そのまま三幻魔復活の儀式が執り行われたのだった。

 突如として、この島へと現れた影丸理事長によると、──三幻魔のカードがこの島に埋められていたのも、七星門の鍵を鮫島校長が持っていたのも、すべては影丸理事長の仕組んだマッチポンプで──私たちはどうやら、知らず知らずのうちに。三幻魔復活の片棒を担がされていたらしい。
 つまり、私たちだけではなく、セブンスターズ──大徳寺先生やカミューラも、影丸理事長に欺かれ、利用されていたのである。
 
 今から数年前──不老不死を求めた影丸理事長は、三幻魔のカードを手に入れて、その力に縋った。
 しかし、当時の三幻魔はまだ覚醒に至っておらず、影丸理事長の願いを叶える為には力が足りずに、──三幻魔のカードに眠る力を蘇らせるためには、決闘者の闘志に満ちた空間が必要だった、らしい。
 ──影丸理事長は、三幻魔のカードと七星門の鍵を餌に、この島に決闘者の闘志を蔓延させようと目論んだ。
 その為にと、影丸理事長はこの学園──デュエルアカデミアを作り、三幻魔のカードを覚醒させようと暗躍していたのだ。──きっとその過程で、真実はオーナーである私の父にさえ、姑息にも隠し通していたのだろう。
 そして、三幻魔復活に利用できるだけの決闘者を育て上げ、──満を持して今、影丸理事長は収穫に乗り出したと言う訳である。
 
 ──ということは、七星門の封印など、最初から在って無いようなもので、影丸理事長はいつでも彼の任意のタイミングで、封印を破ることが出来た訳だ。
 ──つまり、何も準の仕業でこの事態が引き起こされたわけではないのだと判明したことで、些か安堵したくもなるが、──それよりも、まずは影丸理事長を倒すのが先決だった。

「──ならば、お前の野望を打ち砕く為、俺が相手をしよう! オベリスクブルーのカイザー、丸藤亮が!」
「──いいえ! 我が父、海馬瀬人への狼藉、決して許してはおかない! このレジーナ、海馬が相手よ!」
「──いいや! この決闘は、この僕! デュエルアカデミアの……ブリザードプリンス! 天上院吹雪がお相手する!」

 なんだか、三沢くんが影丸理事長に向かって何かを言わんとしたのを、亮が遮ったような気もしたけれど、……ともかく、その真相を聞かされた今、七星門の鍵を守り抜いた決闘者たち、それから、恐らくは影丸理事長の依頼で不老不死を研究していた、錬金術師・アムナエル──大徳寺先生の実験に巻き込まれた吹雪も、──この場の皆が闘志を燃やし、影丸理事長へと勝負を叩き付ける。
 
 ──しかし、影丸理事長は、精霊の力を誰よりも強く持つと言う十代を対戦相手に指名し、──そうして、影丸理事長と十代によって、三幻魔を巡る最後の戦いが幕を開けたのだった。

 ──三幻魔を操る影丸理事長と十代との闇の決闘は激しく、罠カードの効果を受け付けず、魔法カードの効果は発動ターンのみ有効であるという強力な三幻魔の能力を前にして、一瞬でも気を抜けばライフを抉り飛ばされかねない戦局に、十代は傷付きながらも全力で挑み、食らい付いていった。
 更には、三幻魔専用のフィールド魔法である“失楽園”が発動されてからは最後、三幻魔を効果の対象に取ることも、効果で破壊することも叶わない状況に十代は追い込まれてしまい、更に“失楽園”は三幻魔がフィールドに居る限り、追加でカードを二枚ドローできると言うアドバンテージまでをも併せ持っており、十代は更なる苦戦を強いられる。
 
 三幻魔のカードは、──なんと、他のモンスターの生気を吸い取って力を発揮すると言う特殊な能力を持っており、それが理由でこれら三枚のカードは長らく封印されていたのだと言う。
 三幻魔のこの能力により、十代以外の決闘者のカードからは、モンスターの気配が少しずつ消えてゆき、──それは、私の青眼やカイバーマンたちも例外ではなく、──十代の決闘を見守るだけの状況に、どうしようもなく、歯痒さばかりが募る。
 私と準は、十代と同様に精霊と心を通わせた決闘者だけれど、影丸理事長の語る“精霊を操る力”の素養は十代が最も大きく、──それこそが、大徳寺先生の語った“錬金術師としての素養”のことだったのかはどうかまでは、私には分からないものの、──ともかく、三幻魔を操るために、影丸理事長は十代の力を求めた。
 
 ──そうして、精霊を操る力を得た上で、世界中のデュエルモンスターズの精霊をすべて三幻魔に食わせて、その力を元に、影丸理事長は永遠の命を得て、──この世界に君臨する、神となろうとしたのだっだ。
 ──つまり、十代の敗北は、世界の破滅と同時に、──デュエルモンスターズの消滅をも意味する。

 ──そんなにもバカげた野望などを、──デュエルモンスターズを愛するが故にデュエルアカデミアへと集ったこの場の誰一人として、決して許せるはずもない。
 故に、──精霊と繋がり、誰よりも決闘を愛した十代は、──その野望を、何が何でも叩き壊そうと、決して諦めずに戦い抜いた。
 
 ──やがて、死闘の末に、十代は大徳寺先生から託された“エメラルド・タブレット”に眠っていたカード──賢者の石−サバティエルによって戦局を切り拓いて、遂には三体の幻魔を倒した。
 影丸理事長が倒されたことで、デュエルモンスターズの精霊たちにも無事に命が戻り、──私のパートナー達も、私の元へと帰ってきてくれた。
 そして、十代に敗北した影丸理事長にも、どうやら決闘を通して十代の心が届いたようで、理事長は改心してくれたものの、──決着後、互いの健闘を讃えて十代と抱き合った際に骨折してしまったらしい影丸理事長は、そのまま病院へと搬送されて行ったのだった。

 ──こうして、三幻魔のカードは再び島の最深部へと封印されて、──三幻魔の脅威は、ようやく世界から去った。
 七星門の鍵と三幻魔を巡る私たちの戦いもようやく終わり、平和が訪れた──かと思いきや、この一年、デュエル漬けで碌に勉強してこなかったらしい十代には進級試験という真のラスボスが立ちはだかり、──そして、主席争いを繰り広げ続けた私と亮にも、──最後の戦い、卒業試験が待ち受けている。
 卒業時の成績で、無事に主席となったものには、卒業模範デュエルの代表という栄誉を贈られるのが、この学園での伝統的なルールで──私には、既にその舞台で指名したいと考えている在校生が居た。──それに、きっと亮も、既に対戦相手を決めている筈だ。
 ──ならば、私たちには互いに、──最後の勝ちを譲る理由は、これっぽっちも無かった。

「亮、悪いけれど……卒業模範デュエルの権利は、私が貰うわ」
「望むところだ、……これが最後の勝負だな、

 ──私と亮はこの学園での四年間、決闘以外の場でもずっと競争を続けてきた。
 例えば、新しいカードパックを開ける際の引きの良さだとか、ドローパンでどちらが黄金のタマゴパンを引けるかだとか、はたまた、男女合同の体育の授業があれば、その度に競ってみたりだとか、──きっと、学園のカイザーとレジーナとしての私たちしか知らない生徒たちにとっては、まるで想像も付かないような、子供の喧嘩のような争いまでもいつだって本気で、──ずっとずっと、私たちは凌ぎを削り合ってきたのだ。
 だから、試験での成績だってそのうちのひとつだったけれど、──その戦いも、いよいよ卒業試験で蹴りが付く。
 
 ──思えば、亮と私のライバル関係は、入学時に揃って主席の成績で学園の門を潜り、ふたりで新入生代表の挨拶に登壇し、──その後、創立記念式典も兼ねた入学式にて、主席同士のエキシビションマッチの代表にも選ばれて、──新品の制服、まだ慣れないフィールドの空気の中、皆の前で戦ったあの日から、──ずっとずっと、続いていた。
 けれど、そんな日々も、──これから、戦いのフィールドを新たなステージへと移す前に、──学園での総決算は既に近く、──この四年間の決着は、もうじき結論が出ようとしている。


「──そうだ、。海馬さんとは、一体どんな……」
「──あーっ! そうだ、! 亮!」
「どうした、吹雪? 俺は今、に大切な話が……」
「僕の方が絶対に大切な話だから! ──君たち! いつの間にそんな関係に……愛を語らう間柄になっていたんだい!?」
「……あ」
「語らったりしないわよ、吹雪じゃあるまいし」
「それはそうだな……」
「そういう問題じゃなくて! どうして、帰ってからすぐに教えてくれなかったんだ!? 真っ先に祝いたかったのに!」
「別に、隠すつもりはなかったのよ? でも、タイミングがね……」
「ああ……」
「タイミングを逃した決闘者に勝機は巡ってこないぞ!? 分かっているのか、ふたりとも!」
「タイミングを逃したのは、一体誰のせいだと思っているんだ……? 吹雪……」
「というか、吹雪! ……あなた、結構前から亮に相談されてたんですって?」
「いや、それは、吹雪が無理矢理聞き出してきただけで……」
「だって亮、分かりやすいし、じれったいんだもん……ほらね、やっぱりだって君を好きだったんだろう?」
「ねえ吹雪、……亮って、いつから私のこと好きなの?」
「な」
「え、……知らないの!?」
「知らないわ」
「亮! ……君、あのことをまだに話していないのか!?」
「いや、それはだな……」
「あのことって何よ?」
「……何でもないぞ」
「何でもあるわよ! ちょっと! なんで私にだけ教えてくれないのよ!? 亮!」
「それよりもさ……ふたりの恋は一体、何処まで行ったのかな?」
「何処まで? ……本土までは何度か二人で出掛けたな」
「いや、そういう意味じゃなくてさ……」
「ええ。本土まで出向いて……亮のご両親に挨拶しに行ったりしたわ」
「……ええ!? 其処まで!? 其処まで行ってるの!?」
「俺の実家との実家までは、ふたりで行ったぞ」
「ええ」
「え!? の実家にも行ったのかい!? ……えっ、海馬瀬人に挨拶したの!?」
「ああ」
「……それは、凄いね……!? 亮……」
「? そうか? まあ確かに、海馬さんは優れた決闘者で……」
「だーかーら! そういう話じゃないんだってば!」


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