053

 卒業記念パーティーの主役である親友たちの為に、僕は前々からこっそりと準備をして、白いドレスとタキシードを誂えていた。
 全体のカラーには純白をセレクトして、差し色にはロイヤルブルーを選び、気品があって威風堂々とした正装は、彼ら二人をイメージしてデザインしたものだ。
 白い制服を纏い、白銀のモンスターを操るオベリスクブルーの彼ら二人の為にチョイスしたその衣装は、それらの事情を加味しただけでも十分なほど彼らに相応しいものが作れたと、そう自負しているけれど、──その衣装に僕が込めた君たちの愛への願いなど、本人たちだって、ちゃんと分かっている筈だ。
 ──そう、分かっている筈なんだけどなあ。
 ブルー寮の主催で盛大に盛り上がった卒業記念パーティーの後に、──本日のメインイベント、皆が待ち望んでいたカイザー対レジーナの公式戦が、たった今幕を開けようとしている。
 異例の夜間開放が成されたスタジアムに立つ二人は、一秒一瞬でも時間が惜しいとそう言って、卒業記念パーティーがお開きの空気になった瞬間、デッキとデュエルディスクだけを手にすると、なんとそのままスタジアムに向かって飛び出して行ってしまった。
 
 ──そんなわけで、フィールドで向かい合う亮とは、特待生の白い制服──ではなく、白い正装で互いに佇み、其処に対峙している。
 ……デュエルアカデミア最後の試合なんだから、制服の方が良いんじゃないかと思う気持ちもあったけれど、……まあ、二人ともよく似合っているし、……それほど動きやすいと思ってくれたのだと思えば、……それはそれで、良いのかなあ……?
 とは言え、その衣装に“深い意味”を持たせたつもりだった此方としては、少し思うところもあるのだけど。
 ……まあ、彼らにとって最も神聖な儀式と言えば、──この瞬間、決闘の舞台しか有り得ないのだということは、僕が一番よく分かっているとも。

「「──決闘!!」」

 こうして幕を開けた、本年度のデュエルアカデミア本校、頂上決戦とも呼べるこの試合。
 異例のナイトスタジアムには、卒業デュエルや卒業パーティーの余韻で興奮した生徒たちが押し掛けており、平時ならば客席に随分と余裕のあるこのスタジアムが今日は満席で、立ち見の生徒までもが居る有様だった。
 ──それほどの人数が、今、僕の親友二人の一挙一動に注目している。
 アカデミアの頂点であるカイザーとレジーナ、只でさえ彼らは、常に生徒からの羨望を受ける“パーフェクトな決闘者”だったけれど、そんな彼らが二人揃ってプロの世界へと進むことに決まり、更には首席で卒業し、──それに、ライバルで親友同士だった彼らは現在、恋人という関係にあることも、既に学園中の皆が知っている。
 そんな彼らが、学園での最後にどんな決闘を見せてくれるのか、──そんなの、気にならないという生徒を探す方が、きっと難しいさ。
 先攻を得意とする決闘者であると、後攻を得意とする決闘者である亮。相手の動きを妨害すると言う意味では、は後攻を、亮は先攻を取るのが得策だろうけれど──きっと、彼らはそんな逃げ腰でこの決闘に臨んでいないのだろう。──案の定、先攻を取ったのはの方だった。
 
「先攻は貰うわ! 私のターン! ドロー! 私は正義の味方 カイバーマンを召喚し、効果発動! カイバーマンをリリースして手札から青眼の白龍を特殊召喚!」
「──初手から飛ばしてきたな! !」
「精々、振り落とされないでよね! リバースカードを2枚セットして私はターンエンド!」
「俺のターン! ドロー! 俺は手札からタイムカプセルを発動! 自分のデッキからカードを1枚選択し、裏側表示でゲームから除外する。発動後2回目の自分のターンにこのカードを破壊し、そのカードを手札に加える。俺が選択するのは──」
「聞くまでもないわ! 早くパワー・ボンドを除外しなさい!」
「……さすが、察しが良いな」
「何度、その戦術を見てきたと思ってるの? もう見飽きてるのよ、亮!」
「減らず口を……! 俺はパワー・ボンドを除外! 更にサイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚! そして手札から、魔法カード エヴォリューション・バースト発動! 自分フィールド上にサイバー・ドラゴンが存在する場合に発動できる。相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する! 俺が選択するのは──青眼の白龍!」
「リバースカードオープン! 真の光! このカードが存在する限り、1ターンに一度効果を1つ選択し発動することが出来る! 私は真の光、第二の効果を選択! このターン、自分のモンスターゾーンの青眼の白龍は相手の効果の対象にならない!」
「凌いだか……! エヴォリューション・バーストを発動したターン、俺は攻撃宣言が出来ない。カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 互いにアドバンテージを握りつつも、決して相手の攻勢に転じさせない亮との決闘は、互いの戦術とデッキを知り尽くし、彼らが何度も繰り返し戦い続けてきたからこそだ。
 亮がパワー・ボンドを握れば優勢が一気に傾くと分かっているからこそ、としては速攻で勝負を決めに行きたいところだろう。
 ──だが、亮もそれまでのターンを大人しく受け身で待っているような決闘者ではない。

「私のターン! ドロー! 私は手札から竜の霊廟を発動! デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る! 私は青眼の白龍を選択! 墓地に送ったのが通常モンスターだった場合、更にもう1体を墓地に送る。私は更に太古の白石を墓地へ! 更に真の光の第一の効果により、手札から二体目の青眼の白龍を召喚! ──バトル! 青眼の白龍でサイバー・ドラゴンを攻撃! 滅びの爆裂疾風弾!」
「リバースカードオープン! トラップ・ジャマー発動!」
「! そう来たか……!」
「このカードはバトルフェイズ中のみ発動する事ができる。相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する! 対象は──真の光!」
「真の光が墓地へ送られた場合、自分フィールドのモンスターは全て破壊される……やってくれたわね、亮」
「これで、お前のフィールドはガラ空きだな、
「ガラ空きのまま渡すものですか! エンドフェイズ時、墓地の太古の白石の効果が発動! このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動、デッキから“ブルーアイズ”モンスター1体を特殊召喚する! ──私はデッキから深淵の青眼龍を特殊召喚し、効果発動! このカードが特殊召喚に成功した場合、デッキから儀式魔法カード、または融合魔法1枚を手札に加えることが出来る! 私はカオス・フォームを手札に加える! ──これで、ターンエンド!」

 ──カオス・フォームは、亮にとってのパワー・ボンドと同じ──の青眼デッキの主軸とも言える、必殺のキラーカード。
 どうやらこの決闘、亮がパワー・ボンドを引く前にカオス・フォームを掴み取ったが些か優勢なように思えるけれど、──きっと、亮だってこのままでは終わらないんだろう?
 
「俺のターン! ドロー! 手札から強欲な壺を発動し、2枚ドローする。そして俺はプロトサイバー・ドラゴンを召喚し、手札から融合発動! ──出でよ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」
「! ようやく動いてきたわね……!」
「サイバー・ツイン・ドラゴンは、その効果により1ターンに2回攻撃することが出来る!」
「そうはいかない! リバースカードオープン! ブレイクスルー・スキルを発動! 相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする!」
「──だが、効果を無効にしても攻撃は行われる! サイバー・ツイン・ドラゴンで深淵の青眼龍を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」
「く……!」
「俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 ──ほら、やっぱりね。この決闘は、もうすっかりの優位かと思えば、互いに無傷だったライフに、最初に傷をつけたのは亮の方だった。
 の発動したブレイクスルー・スキルで効果を無効にされたことにより、サイバー・ツイン・ドラゴンはこのターン、一度しか攻撃宣言を行えなくなったものの、それでもサイバー・ツインの攻撃力は2800、対する深淵の青眼龍は攻撃力2500で、サイバー・ツインの方が上回っている。
 亮の攻撃が通ったことにより、深淵の青眼龍は破壊され──のライフポイントは300減って3700になった。
 対する亮のライフは未だ無傷だが、──次のターン、間違いなくは猛攻を仕掛けてくるはずだ。
 ──何しろ彼女の手の中には、あのカードがある。

「私のターン、ドロー! 私は手札からブルー・ポーションを発動し、ライフを400回復! 更にカオス・フォームを発動!」
「──来たか! お前の真エース!」
「レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、自分の手札・フィールドのモンスターをリリースする! 私は手札からブルーアイズ・ジェット・ドラゴンをリリースし、手札から“カオス”儀式モンスター1体を儀式召喚! ──完全なる敗北という鞭を振り下ろしてあげるわ、亮! ──出でよ! ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン!」

 そうして、フィールドに顕現した雄々しきドラゴンの姿を前にして、観客席からも声援が上がる。
 ──ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンは、ブルーアイズモンスターを中心に構築された彼女のドラゴンデッキの中で最も制圧力に優れた、の真エースだ。
 その高い攻撃力に加えて強力な効果を持つカオス・MAXは、サイバー・エンドに姿形や効果が少し似ているようにも思う。
 ──全く、君たちってば本当に、決闘者としての根っこが似ているんだろうなあ。……だって、お気に入りのカードの趣味まで、そっくりなんだもん。
 
「このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードは相手の効果では破壊されず、相手はこのカードを効果の対象にできない!」
「だが、自分フィールド上のモンスターが対象であれば話は別だ! リバースカードオープン! 巨大化! 自分のライフポイントが相手より少ない場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる! お前のライフは4100、俺のライフは4000。よって、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力は5600! ブルー・ポーションが仇になったな、!」
「いいえ、それは読めていたわ! 亮! ──速攻魔法、エネミーコントローラー発動! ライフを1000払い、コマンド入力! 効果により相手フィールド上の表側表示モンスター1体の表示形式を変更する! 更に、私のライフが下回ったことで巨大化の効果も変動する! 亮のライフが私より多いことで、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる!」
「! サイバー・ツインの攻撃力は、1400……!」
「ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンが守備表示モンスターを攻撃した際、守備力を攻撃力が超えた分の倍の数値だけ相手に戦闘ダメージを与える! ──ブルー・ポーションは巨大化を無駄打ちさせるためのブラフよ、亮!」

 が先ほど発動したブルー・ポーション。自分のライフポイントを400回復するそのカードは、豪胆な攻めを得意とする彼女には、些か似合わないカードだと不思議に思っていた。
 ──だが、ブルー・ポーションの真の狙いは亮のリバースカード──それが巨大化であることを読んだ上での、ブラフだったらしい。
 が猛攻を得意とする決闘者であるのと同じように、亮もまた猛攻を得意とする決闘者だ。
 更に亮は、攻撃力を倍増する効果を持つカードを多用する傾向にあり、それらは機械族モンスター──サイバー・ドラゴンたちと元々シナジーがあるカードも多いため、単純な攻撃力合戦ではに分があるとは言えども、更なる攻撃力の上乗せが始まると、一瞬で亮が優位に立つ。
 そんな高火力のサイバー・ドラゴン達を長らく相手取ってきたは、この決闘の為に対策を事前に立ててきていたようで、──亮は見事に、の策に乗ってしまった。
 エネミーコントローラーの効果でのライフは3100となり、対する亮は4000で無傷のままだが──それでも、巨大化を此処で無駄撃ちさせただけでも、のメリットが勝っている。
 ──攻撃力4000のカオス・MAXに対し、サイバー・ツインの守備力は2100。カオス・MAXの効果により戦闘ダメージが発生すれば3800で、──この攻撃が通れば、一気に亮は劣勢に追い込まれるが、──きっと、そう簡単には行かないんだろう?

「──先を読んでいるのがお前だけだと思うな、! 速攻魔法、強制転移を発動! お互いのプレイヤーは、それぞれ自身のフィールドのモンスター1体を選び、そのモンスター2体のコントロールを入れ替える! 更にこのターン、そのモンスターは表示形式を変更できない!」
「! そう来たか……!」
「俺はブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを効果の対象に取れないが……お前自身が対象に取る場合には、効果も適応される! 俺はサイバー・ツイン・ドラゴンを選択! ──さあ、モンスターを選べ! !」
「……私は、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンを選択するわ」
「サイバー・ツイン・ドラゴンがのフィールドに移ったことで、巨大化は俺のフィールドに残るが……効果はそのまま、サイバー・ツイン・ドラゴンに適応され、攻撃力も変動する。──だが、攻撃力が上がろうともサイバー・ツイン・ドラゴンは守備表示のままだ。どうする? 
「……私はバトルフェイズをスキップし、カードを二枚伏せてターンエンドよ」

 ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンは、相手の効果対象に取られない強力な効果を持つが、──しかし、強制転移でに選択させることで、その効果を無視してカオス・MAXのコントロール権を奪うことが出来る。
 ──ブラフで翻弄してきたも上手かったが、──やはり、頭脳戦が巧いな、亮!
 サイバー・ツインとカオス・MAX──亮と、二人を象徴するモンスターたちが、それぞれ普段は敵対する相手の元に並ぶ光景は、些か奇妙で──だが、驚くことに双方が、妙なほど様になっている。
 次の亮のターン、がサイバー・ツインを維持できれば強力な切り札にもなり得るが──きっと、自らに背いた竜たちをそのまま放置するほど、彼らは甘くない筈だ。

「俺のターン! ドロー! このターン、タイムカプセルの封印は解かれる……俺はプロトサイバー・ドラゴンを召喚し、手札に加えたこのカードを発動! パワー・ボンド!」
「──来たわね!」
「手札のサイバー・ドラゴン2体と場のプロトサイバー・ドラゴンを融合し、──サイバー・エンド・ドラゴン、召喚! パワー・ボンドの効果により、サイバー・エンドの攻撃力は8000となる! 更に、サイバー・エンドの効果発動! サイバー・エンドが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。──俺は、サイバー・エンドでサイバ−・ツインを攻撃する! ──エターナル・エヴォリューション・バースト!」
 
 が先ほど、カオス・MAXで狙った戦術をそのままサイバー・エンドでやり返す亮は、──なんだかんだで、本当に負けず嫌いな奴だと、そう思う。……本人には、そんな自覚も無いのかもしれないけれどね。
 この攻撃が通れば、には5900のダメージ──間違いなく瞬殺だが、の場にはまだ、リバースカードがある。

「リバースカードオープン! ダメージ・ダイエット発動! このターン、自分が受ける全てのダメージは半分になる! ……っくう……!」
「! 凌いだか……!」
「更に、私は墓地からブルーアイズ・ジェット・ドラゴンの効果発動! このカードが手札・墓地に存在し、フィールドのカードが戦闘・効果で破壊された場合、このカードを特殊召喚する! ──出でよ! ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン!」
「ならば、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンで、ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンを攻撃する!」
「墓地の深淵の青眼龍を除外して、効果発動! 自分フィールドの全てのレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力は1000アップする! ──これでカオス・MAXとブルーアイズ・ジェット・ドラゴンは共に攻撃力4000! 戦闘ダメージは発生しないわ!」
「……本当に、しぶとい奴だ……!」
「更に、自分フィールドの表側表示の“ブルーアイズ”モンスターが戦闘破壊されたことで、手札からディープアイズ・ホワイト・ドラゴンを特殊召喚する! ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンが召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体を対象として効果が発動! このカードの攻撃力はそのモンスターの攻撃力と同じになるわ! よって、ディープアイズの攻撃力はカオス・MAXを参照し、4000になる! 更にディープアイズ・ホワイト・ドラゴン、もう一つの効果発動! 自分の墓地のドラゴン族モンスターの種類×600のダメージを相手に与えるわ!」
「お前の墓地の、ドラゴン族モンスターの数は……」
「私の墓地には、青眼の白龍、太古の白石、深淵の青眼龍、ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン、ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンで合計5種類のドラゴン族モンスターが居る……よって、3000のダメージよ、亮!」
「く……!」
「更にあなたは、このターンの終了時にパワーボンドのダメージを受けるけれど……」
「──無論、このまま終わるものか! 速攻魔法、融合解除を発動! サイバー・エンドの融合を解除し、融合に使用したモンスターをフィールドに戻す! サイバー・ドラゴン2体とプロトサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」
「パワー・ボンドのコストは、融合召喚されたモンスターがエンドフェイズ時、フィールド上に存在している場合に払われる……」
「その通りだ、よってパワー・ボンドのコストは無効になる。──俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 ──流石に、も只ではやられないか!
 ダメージ・ダイエットで半減しても尚、には2950のダメージが通り、ライフポイントは一気に150まで削られたが──そのお返しとばかりに、ディープアイズの効果で亮に3000のバーンダメージを与え、亮のライフも1000まで減少した。
 ──場のモンスターが破壊された場合のケアとして、ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンを事前に墓地へと落としておくと。
 ──ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンの効果──ダメージ計算時、相手フィールドのカード1枚を対象に発動するバウンス効果を警戒し、から奪い取ったカオス・MAXの効果を活用して、ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンを処理した亮。
 ──更には、そうしてブルーアイズ・ジェット・ドラゴンが処理される可能性も警戒して、ディープアイズを手札に握っていた
 見事な読み合い合戦となったこの展開に、観客席の興奮は最高潮で──それでも、フィールドに対峙する二人は外野の声などは一切聞こえない様子で、強い眼差しでお互いだけを射るように見つめている。
 ……パワー・ボンドのコストが生じていれば、ディープアイズを召喚してバーンダメージを狙わずとも、今のターンで勝負は付いていた。
 ──だが、は亮ならば必ず、このターンで蹴りが付かなければ次のターンに繋げると信頼しているからこそ、ディープアイズを召喚したのだった。

「私のターン、ドロー! 私は究極融合を発動! 自分の墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをデッキに戻し、“青眼の白龍”を融合素材とする融合モンスター1体を融合召喚する! 青眼の究極竜、融合召喚! ──バトル!」
「リバースカードオープン! 速攻魔法、フォトン・ジェネレーター・ユニット、発動! 自分フィールド上のサイバー・ドラゴン2体を生け贄に捧げて発動する。自分のデッキからサイバー・レーザー・ドラゴン1体を攻撃表示で特殊召喚! そしてサイバー・レーザー・ドラゴンの効果発動! このカードの攻撃力以上の攻撃力か守備力を持つモンスター1体を破壊する。サイバー・レーザー・ドラゴンの攻撃力は2400! 俺は青眼の究極竜を破壊する!」
「バトル続行! ディープアイズでサイバー・レーザー・ドラゴンに攻撃!」
「更に俺は、アタック・リフレクター・ユニットを発動! 自分フィールド上のサイバー・ドラゴン1体を生け贄に捧げ、デッキからサイバー・バリア・ドラゴン1体を特殊召喚する!」
「……サイバー・バリア・ドラゴンは攻撃表示の場合、1ターンに1度だけ相手モンスター1体の攻撃を無効にする……」
「そうだ。つまりお前は、このターン俺のライフを削り切れない……」
「首の皮一枚、繋がったわね、亮! カードを1枚セットして、ターンエンド!」

 ディープアイズと青眼の究極竜をフィールドに並べたに対して、先程のターン終了時に亮のフィールドに残ったのは攻撃表示のサイバー・ドラゴン2体とプロト・サイバー・ドラゴンのみ。状況は圧倒的にの有利かと思いきや──亮はこのターンを凌ぎ切り、更に次のターンへと繋いで見せた。

「俺のターン! ドロー! 俺は手札から天使の施しを発動し3枚ドロー、その後手札から2枚捨てる。更に、魔法石の採掘を発動! 手札を2枚捨て、自分の墓地の魔法カード1枚を手札に加える。俺が手札に加えるのはパワー・ボンド! そして、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動! ライフポイントを半分払って発動! このターン、自分が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の墓地から選んでゲームから除外し、融合素材とする! 俺は3体のサイバー・ドラゴンを除外し、パワー・ボンド発動! ──出でよ! サイバー・エンド・ドラゴン!」
「……ほんっとうに、しつこいわね、亮!」
「此方の台詞だ、! 俺は更にリミッター解除を発動! サイバー・エンドの攻撃力は16000になる! ──バトルだ! ! ディープアイズに攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」
「サイバー・エンドの攻撃宣言時、私は手札からオネストの効果発動! 自分フィールドの光属性モンスターが戦闘を行う際にこのカードを手札から墓地へ送って発動する! そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする! これでディープアイズの攻撃力は20000! ──迎撃してやるわ! 亮!」
「甘い! 速攻魔法! 決闘融合−バトル・フュージョン発動! 自分フィールドの融合モンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に発動できる。自分のモンスターの攻撃力は、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする! サイバー・エンドの攻撃力は36000だ!」
「一度使った戦術が、私に通用すると思わないでよ、亮! リバースカードオープン! 威嚇する咆哮! バトルフェイズを強制終了させるわ!」
「……逃げ切ったか、!」
「当然よ! 他人に使った手で、私を倒せると思わないことね!」

 サイバネティック・フュージョン・サポートが発動されたことで、亮のライフは500、のライフは150──、この勝負は最早ほんの一撃が掠めただけでも勝敗が決すると言うのに、その一手がなかなか届かずに、ほんの少しを一体どちらが削り切るのか──そんな緊張に包まれて会場は固唾を飲んで見守っていると言うのに、──本当に君たちときたら!
 この期に及んでそんなに攻撃力を上げる理由なんてないだろうに、──本当に、負けず嫌いな親友たちだなあ!
 
 ──そのまま決着が着くかに見えた戦局も、威嚇する咆哮でがバトルフェイズを強制終了させ、亮の自滅を狙うものの、やはり亮は一時休戦を発動することでパワー・ボンドのコストを無効にし──そうして、息を呑む決闘は今にも決着が着きそうで付かなくて、──このままではデッキアウトも近いかと思われた。
 更に数ターン後、のフィールドには青眼の究極竜が再度召喚され、亮のターンに回ったそのタイミングで、のフィールドにはリバースカードが一枚。──この盤面には、見覚えがある。……これは、卒業デュエルで万丈目くんが、に負けたターンの……。
 
「リバースカードオープン! ラストバトル発動! 自分のライフポイントが1000以下の場合、相手ターンにのみ発動する事ができる。発動後、自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択し、そのモンスター以外のお互いの手札・フィールド上のカードを全て墓地へ送る! その後、相手はデッキからモンスター1体を表側攻撃表示で特殊召喚し、自分が選択したモンスターと戦闘を行う。この戦闘によって発生するお互いのプレイヤーへの戦闘ダメージは0になり、このターンのエンドフェイズ時、どちらかのプレイヤーのみがモンスターをコントロールしていた場合、そのコントローラーはデュエルに勝利する!」
「──確かに、素の攻撃力はお前のデッキが上だ、。良い戦術だな、ラストバトルは俺のデッキに対して有効な戦術と言えるだろう。──だが!」
「!」
「二度目は通用しないのは、俺も同じだ、! ラストバトルの効果により、俺はF・G・Dを表側攻撃表示で特殊召喚する!」
「!? どうして、亮がF・G・Dを……!?」
「採用していないとは、一度も言っていないだろう。今日の決闘のように、強制転移でお前のドラゴン族を奪うことは今までもあったからな。……今後も役に立つ可能性はあるかと、エクストラデッキに入れていたんだ。枠に余裕があったからな」
「……本当に……やってくれるわね! 亮!」
「──行くぞ、! F・G・Dで青眼の究極竜に攻撃! 戦闘ダメージは0だが……攻撃力はF・G・Dが上だ!」
「く……でも、青眼の究極竜が戦闘破壊されたことで、墓地のブルーアイズ・ジェット・ドラゴンが特殊召喚される!」

 ──ラストバトル、それは一撃必殺のキラーカードだが、──必ずしも、デュエルの決着を付けるものとは限らない。
 ……もちろん、その条件を満たせるのは特殊な状況が成立した場合だけだし、必殺カードのラストバトルが発動されて尚、勝敗が揺れ動く局面なんて、──殆ど起き得ないことだ。
 ──だが、今目の前で成立している決闘は、そんな一般論などを容易く打ち砕く。

「ラストバトルが発動されたこのターンのエンドフェイズ時、どちらかのプレイヤーのみがモンスターをコントロールしていた場合、そのコントローラーはデュエルに勝利する。けれど……」
「それ以外の場合……お互いのフィールドにモンスターが存在している場合、この決闘は引き分けになる」
「……まさか、ラストバトルが破られるとはね……ブルーアイズ・ジェット・ドラゴンでケアもしてあったのに。……全く、F・G・Dなんて何時から持ってたの? 全然知らなかったわ」
「いつか、役に立つような気がしたからな。それに俺も、ラストバトルの存在は今まで知らなかったぞ。──
「なに? 亮」
「俺は、お前に出会えてよかった、……今この瞬間に俺は、心からそう思っている」
「……ええ、私も。──決着は、プロの世界で付けましょう」
「ああ。──次はきっと、俺が勝つ」
「! ……やれば出来るじゃない! 亮!」
「? 何がだ……?」
「私、勝ちに貪欲な決闘者は好きよ! その調子で、プロの世界でも期待してるからね!」
「……ああ、そうだな。俺も、お前と戦い続けて行けば、……いつか、お前と同じ地平を──」

 ラストバトル──そのカードを発動した上で、更にはオネストやバトル・フュージョンの攻撃力合戦だってあったって言うのにさ、……この期に及んで勝負はまた引き分けだなんて、……本当に、妬けるくらいに仲が良いよなあ、君たちってさ!
 最高の決闘を見せてくれた卒業生二人に、観客は割れんばかりの拍手で湛えて──そんな声が聞こえているのかいないのか、主役である彼ら二人は、服装なんてまるで気にせずに、ハイタッチをして楽しそうに笑い合って、それから、流石にふたりも疲れ果てたのかその場に座り込んでしまうものだから、──流石に僕は少し焦って、観客席から飛びあがって、──そうして、彼らの元へと向かって駆け下りるのだ。
 ──でもさあ、せっかくの衣装が汚れるような真似はよしてくれよ、って──僕は、確かにそう言いたくて、駆け下りた筈だったんだけど、なあ。

「──吹雪! クロノス先生が記念写真撮ってくれるって!」
「吹雪、お前も入ってくれ」

 ぐいぐいと腕を掴んで背中を押されて、──どうして、デュエルに参加していない僕が主役を差し置いてセンターなんだい? って、なんだかもう、おかしくて仕方がなくってさ、──それで僕は、勢いよく二人と肩を組んで、満面の笑みでシャッターを浴びたのだ。
 ──ああ、これから先の未来もどうか君たちに幸多かれと、──僕はデュエルアカデミアで、君たちの門出を誰よりも見守っているよ。


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