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 ──レインボー・ドラゴンを異世界へと転送し、デュエルアカデミアを此方の世界における元の座標に戻す作戦は、現地の十代たちの奮闘によって無事に成功し、行方不明になっていた生徒や教師たちと共にデュエルアカデミア本校舎は、見慣れたこの孤島へと戻ってきた。
 ──しかし、それらも決して一切の犠牲無しにとは行かずに、──此度の騒動の発端であったプロフェッサー・コブラは行方不明になり、そして、──アークティック校からの留学生、ヨハン・アンデルセンと、イースト校からの留学生、アモン・ガラムは異世界から帰ってこられなかった。

 私は、ヨハン、そして、アモンと言う少年と会ったことがない。
 だから、私が彼らについて知る情報は非常に少なく、彼らがアカデミアの海外校における今年度のチャンピオンであることだとか、そういった書類上での知識しか、私には、彼らについて語れることがない。
 ──きっと、後輩たちにとって大切な学友だった彼らのことを、──何も知らない私では、代わりに連れ戻してやることさえも叶わないのだ。

「──アンデルセンボーイは、精霊と心を通わせた決闘者デース……レインボー・ドラゴンを託すだけの実力が、宝玉獣を導くに相応しい資格が、彼には備わっていました……」
「……そう、でしたか……」
「海馬ガール、……いつかあなたにも、紹介してあげたいと思っていました。……とても、残念デース」
「……そうですね、私も話してみたかったです。……心中お察しいたします、ペガサス会長」

 突如、漂流した異世界での日々の中では、限られた備蓄を少しずつ切り崩して凌いでいたという彼らの為に、今回のプロジェクトのスポンサーでもあったI2社によって、帰還したデュエルアカデミアには大量の食糧が運び込まれ、現在、ブルー寮の大広間で盛大なパーティーが行われていた。
 その席には、キャンプ地に参加していた私たちも招かれていて、──けれど、生還を喜び合って楽しげにご馳走を頬張る生徒たちからは少し離れた場所で、──鮫島校長とクロノス教諭は、帰らなかった生徒たちを想い、生徒を護り切れなかった不甲斐なさからか、酷く暗い顔で頬に影を落としているのだった。
 ──そして、ペガサス会長や鮫島校長への挨拶という目的があって私はこの席に一応は出席していたものの、……やはりと言うべきか、良く知る後輩たちや吹雪の姿は、パーティー会場の何処にも見当たらなかった。
 ──当然だ、幾ら腹ぺこで帰還したのだとしても、──今の彼らには、ご馳走を前にはしゃぐような元気は残っていないことだろう。
 
 アカデミアでは今までも、生徒が失踪するような事件があったものの、それらはすべて此方側の世界でのみ完結していた出来事で、主犯だった影丸理事長が失踪した生徒たちをちゃんと生かしておいてはくれていたから、既に彼らは全員、アカデミアの学び舎へと帰ってきている。
 ──かつては、吹雪もそのうちのひとりで、……もしかすれば、私や亮だって、失踪した特待生のひとりに含まれていた可能性が、あったのかもしれない。
 
 ──けれど、今回の事件に関しては、今までとは訳が違う。
 確かに、引き金を引いたのはプロフェッサー・コブラというウエスト校の教師ではあったものの、──どうやら彼は、異世界へとアカデミアを導いた何者かの尖兵に過ぎなかったようで、彼自体は決して事件の真相を握ってはいなかったのだ。
 それに関しては、ペガサス会長がウエスト校からの留学生であるオースチン・オブライエンという生徒を、プロフェッサー・コブラの懐にスパイとして事前に潜り込ませていたこともあり得られた情報という話なので、……恐らくは、プロフェッサー・コブラから得られる見聞は既にそのすべてを洗い終えた後なのだろう。
 つまり、現状の彼らには、──既に、ヨハンとアモンを取り戻すために出来ることなど、何ひとつとして残っていないのだ。
 異世界の彼らを連れ戻すためには、なにひとつの手がかりも無い状況であるからこそ、鮫島校長とクロノス教諭がこれほどに落胆しているのだということも分かり切っていて、……肩を落とす恩師ふたりの姿を見ていれば流石に私も心が痛んだし、ペガサス会長には幼少期から世話になっていることもあり、ヨハンという少年に対して彼がどれほどの期待を寄せていたのかは、私の目にも明らかだった。

 ──そして、私は彼らとは違い、異世界に行く方法を知っている。
 ……いや、正確には、“恐らく、カイバーマンは異世界に人間を導く方法を持っている”筈なのだ。
 けれど、カイバーマンが有するその能力が、それほどの再現性や自由度を持つのかも分からないこの状況では、私から無責任な発案が出来る筈もない。
 それに、異世界というのは此方側の私たちにとっての広義であり、一つの世界を指し示すのではないということも分かっている。
 カイバーマンが私を連れて行っていたのは、恐らくはアカデミアが漂流していた危険地帯とはまた別の場所だったのだろう。まさか、あの忠騎士が私を好んでそんな場所に連れ込むとは思えない。
 だからこそ、「もしかすれば、ヨハンとアモンを連れ戻すことが出来るかもしれない」──だなんて、そんな甘言を軽々しく口にすることは、私には出来なかった。
 それに、──亮と約束していることもある。……本当に、腹立たしいし、許せないけれど、私は亮の介錯を務めるともう決めたのだ。向う見ずに突っ走ったのでは、あいつとの約束を反故にすることにもなりかねない。……少なくとも、亮を殺すまで私は生き急がないことを、既に亮と約束しているのだ。
 ──とはいえ、知っていることを黙っている気にもなれないから、ペガサス会長に挨拶をする前に、現在も調査を続行しているツヴァインシュタイン博士の元に顔を出して、私の持ち得る異世界についての情報は、再度共有してある。
 異世界への行き方については、──現状、カイバーマンが黙秘している為、“この島に特異点が発生した際に、アカデミアの校舎は異世界の何処かへと流されていた”ということしか分かっていなかったけれど。──特異点の発生という状況が再度起こり得るのか、また、人工的に同じ状況を起こすことが可能なのか、──その点に、事態解決の鍵は眠っている。

 多くの生徒たちは、此方の世界に生還したことを喜び合い、島全体はすっかりお祭りムードだったけれど、──盛大なパーティーが行われていたブルー寮とは違い、レッド寮はすっかりと静まり返っていた。
 吹雪や翔くんがその場に居るのが分かりきっていたからか、亮はレッド寮に足を向けようとせずに、私は仕方なく、エドとふたりでレッド寮の様子を見に訪れていたものの、──異世界での事件にて、その最前列に立たされた彼らの心の傷は、どうやら、想像を絶するほどに深いらしい。
 異世界で彼らが邂逅した、ユベルという精霊。──どうやらその精霊こそがプロフェッサー・コブラを操っていたようで、──その上、ユベルの真の標的はプロフェッサー・コブラでもヨハンでもアカデミア全体でもなく、──十代だったのだと、彼はそう証言しているそうだ。
 故に、自分のせいでヨハンが異世界で犠牲になったと考えている十代はすっかり塞ぎ込んだまま立ち直れずに、……現在は、準や翔くんたちが、十代を心配してレッド寮に集まり、皆で待機していた。
 
 ──そして、レッド寮にて彼らから話を聞いている最中に訊ねてきた鮫島校長から、ユベルという精霊の正体についても、既に私は聞き及んでいる。
 ……なんと、ユベルという精霊は、海馬コーポレーションとも因縁を持つ存在だったのだ。
 
 十代は幼少期からずっと、デュエルモンスターズの精霊と心を通じ合わせており、──そんな彼は幼少期に、ユベルというモンスターのカードを一等大切にしていた。
 しかし、ユベルもまた主人である十代を大切に思っていたからか、──その行き過ぎた愛情からか、ユベルは十代とデュエルを行った対戦相手を次から次へと病気や衰弱状態へと陥らせたのだった。
 当時、それは偶然だと周囲の大人は考えたようだけれど、──それは偶然などではなく、ユベルの仕業なのだと、きっと幼い十代は気付いていたのだろう。
 ──そしてその話を聞いた私も、確かにそれは間違いなくユベルの仕業なのだろうと、そんな確信を抱いていたのだった。
 ──何故ならば、私自身、彼の立たされたその状況に似た現象には、心当たりがあるから、だ。
 幼少期、私は十代と同じようにデュエルモンスターズの精霊が見えており、当時身を置いていた孤児院でも私はよく周囲と決闘をして遊んでいたけれど、──ある時期から、私と対戦した相手は皆、私との決闘を怖がるようになってしまった。
 私は十代──ユベルのように、何か周囲に対して目に見える実害をもたらしていた訳ではなかったけれど、「ちゃんと決闘するのは怖い」「みんながそう言ってるからちゃんは決闘しちゃダメ」とそう周囲に釘を刺され、私は、デュエルモンスターズから距離を置いた幼少期を、その後、海馬家に引きとられるまでの間、ずっと送っていたから、──だからこそ、私の周囲では実害が起きていなかっただけという、それは、それだけの話だったのかもしれないし。
 カードの精霊は、私や十代のような決闘者にとっては、何時だって味方だけれど、──同時に彼らは、人智を超越した存在でもあるのだ。
 人の理など通用しない生命体が、主人を想う余りに、人間からすれば度を越した行動を取る可能性など、──きっと、全ての精霊がその脅威を手に握っている筈だ。
 ──或いは、私に傅くあの騎士にも、──やろうと思えば、きっと“そういったこと”だって、簡単に出来てしまうのだろう。

 ──その後、海馬コーポレーションが当時行っていた、宇宙からのパワーを取り込んで、子供の自由な発想で新たなデュエルモンスターズを作ろうという企画に十代は参加し、──その際に、彼の強い希望で、ユベルは衛星に乗せられて、宇宙へと打ち上げられた。
 ──ユベルを宇宙に送って、正義の力を与えてください、と。
 当時、海馬コーポレーション宛ての手紙に、十代はそのように書き記していたのだと言う。
 この実験により宇宙の波動──正しき闇の力を得て、十代の描いたネオスはデュエルモンスターズとして、──カードの精霊として誕生することに繋がったものの、──或いは、ユベルは当時、それとは別の力の影響を受けてしまったのかもしれない。
 ──正しき闇の対極にある力には、私もよく覚えがある。……それは、決して好ましい存在ではなく、ユベルを豹変させる要因になりかねないこともまた、……私は、よく知っていた。

「……お前、まさかそのユベルというカードに興味を抱いているのではあるまいな?」

 ──鮫島校長の話を聞き終えてから、その場の皆よりも先にレッド寮を出て、寮の外で待っていると言っていたエドの元に戻ると、いつの間にか亮もレッド寮の前まで来ていたようで、ふたりは何やらユベルについて話し込んでいるところだった。

「……まさか。異次元に存在する精霊などに?」
「……フン、ならいいがな……ぬ、ぐあ……」
「! どうしたんだ? ヘルカイザー?」
「──なんでもないわ、エド」
、なんでもないということはないだろう? きみは気にならないのか?」
「あらかた、キャンプ地に居すぎて風邪でも引いたんでしょう? あとは私が見ておくわ、悪いけれど亮は返してもらうわね」
「おい、……ふん、まあ、どうでもいいけどね……」

 ──そう言って、私はそのまま亮の手を引くと、少し腑に落ちない表情をしたエドをその場に残して、レッド寮を離れる。そのまま本校舎の宿泊棟──私が借りている部屋まで亮を連れ込み、ベッドに座らせると、私は黙って亮の脈を測り背を擦り、ともかくその場に横になるよう促すのだった。

「おい、……」
「……言っておくけれど、これは何もあなたに情けを掛けている訳じゃないわよ、亮」
「……ほう?」
「その首は私が貰うと決めたから……まだ周囲に露呈しても困るし、倒れられても困るの。……だったら、そのときまでの延命──応急措置の権限だって、私に在る筈よ、亮」
「……分かった、お前の好きにしろ」
「言われなくとも、そうするわよ。……まだ、痛むの?」
「……少し、な」
「……そう」

 他に何かして欲しいことはあるか、欲しいものはあるかと聞こうとして、──その答えは既に本人から得ているのだと思い出した私には、結局、それ以上の看病らしいことが出来る訳でもなく、──只そのまま、寝台にて亮の隣に座り、まるで病人のように青ざめた手を握っていることくらいしか出来やしない。
 亮の異常に勘付いたエドの指摘を前に、きっと亮には大した言い訳や方便などが言える訳もないと知っているから、──彼の真相を知っているのは私だけで良いという、歪な独占欲が働いたからこその私の行動は、愛や真心と言ったものに分類されていいような感情ではないのだろうなと、──そんな風に、自分でもこれが歪だと言う自覚がある。
 ──歪、そうだ。……本当に歪だと、そう思う。
 先程、エドと話していた亮を見ていて、私も気付いてしまった。
 ──亮はユベルという精霊に、己の最後の対戦相手としての可能性を見出し、きっと幾らかの期待を寄せている。
 ……在学中も、それに、プロリーグに進んでからも。鮮やかな決闘の腕前と、恐らくは端正な顔立ちを持つこの男は、異性からの視線を受ける機会も少なくはなかったけれど、それでも、私はそのことを嫌だと感じたり、忌々しく思ったことがなかったから、自分は嫉妬はしないタイプなのだと、恋人への独占欲が強いのは亮の方だけなのだと、……ずっと、そんな風に、思っていたな。
 ……だったら、今私が感じているこの気持ちは、──顔も知らないユベルというモンスターに抱くこの激情は、一体、何だと言うのだろう。
 ──ああ、そうか。私は今まで、亮の視界に入る異性の中ではきっと、私が一番デュエルが強かったから、ライバル足り得るのは自分だと言う自負があったからこそ、誰にも嫉妬したことがなかったのだと、……きっと、これはそれだけの話だったのだ。
 でも、亮の方は違った。デュエルの世界はどうしたって男社会でもあるから、私の視界に入る異性の中には、亮と拮抗しかねない程に決闘の腕前が優れた人間だって、幾らでも居た。──そうか、……亮ってば、いつもこんな気持ちで、……私に文句を言って、嫉妬ばかりしていたのね。
 確かに、これは、……腹だたしいと、そう感じるかもしれない、なあ。気が多すぎるんじゃないかと咎めてやりたいとそう感じてしまうかもしれなくて、──けれど、何よりも思うのは、悔しいのは。……私以外の誰かが、あなたのラスボス足り得る資格を持っているというその事実の方だった。──今の私では、亮を満足して逝かせてやれないのかもしれないという、自分の力不足の方が余程、私は憎らしかった。

「──今のところ、状況はこんなものね。すべての鍵は特異点と、ユベルという精霊が握っているけれど、此方から起こせる行動は少ない……」
「……随分と熱心だな、俺達は当事者という訳でもないだろう」
「……流石にそれは、ちょっとブラックジョークが過ぎるわよ、亮。……十代たち、酷く落ち込んでいるみたいだったわ」
「……そうか」
「ええ、ヨハンとは随分、仲が良かったらしいから……大切な友達が取り戻せないほど遠くに行ってしまう経験は、良く知っているでしょう、私たち」
「……まあ、それは、そうだな」
「……でも、違うのね? 亮……あなたの関心は、ユベルの方にある……」
「……、俺は……」
「言わないで、……幾ら私でも、浮気の言い訳なんて聞きたくないわ」
「……浮気? 何の話だ、俺は只、ユベルとのデュエルを望んでいるだけで……」
「まあ、いいわよ。……そういうことなら、私もユベルと決闘するから」
「……何? 、お前は何か、思い違いを……」
「うるさいわね……あなたのラスボスが誰なのか思い知りなさい、亮。……精々、ユベルを倒した後で私と戦う余力を残しておくことね」
「……言ってくれる、俺は元よりそのつもりだ」
「あら、そう? それは、殊勝なことだわ」

 ──私だって、十代のことが心配だと、本気でそう思っているのに、──だと言うのに、彼を救ってやることよりも十代が大切にしていたという精霊を私の手で叩き潰してやることこそが、この瞬間から私にとっては余程大切な目的になってしまったのだから、……後輩想いだとかよく言われるけれど、私は結局、自己本位かつ身勝手な人間で、──流石は、正しき闇ではなく、破滅の光に選ばれるだけのことはあると、そう思う。
 ──そして、そんな私は何よりも、丸藤亮というこの男のことが、悍ましいまでに好きなのだった。
 心臓のひとかけら、血液の一滴であっても、私はこの男を他の誰にも渡したくはないのだと、知らぬうちにそれほどの独占欲を抱えていたのだと、──それこそ、顔も知らない精霊を相手にして、本気で嫉妬に狂うほどに愛しているのだと再確認できたこの宿敵を、……それでも私は、これから、見送らなければならない。……この手であなたを、殺してやらなければ、ならない。
 それが、私に向ける亮の望みだから。──最後の瞬間まで、私との決闘を目に焼き付けて生き様を刻みたいのだとあなたが言うのなら、……答えてやるのが私の愛なのだと、私はもう、決めてしまった。
 故に私は、……十代の為に彼や他者を傷付けるユベルという精霊と、本質的には何も変わらないのかもしれない。

 ──そして、その夜。
 事態は、終わりに向かって大きく動き出したのだった。

 王家の墓の付近に、再び特異点が開き、──それだけならば、無視をするという選択肢もあったのかもしれないけれど、……生憎、亮にはこの好機を見なかったことにするような選択肢はないようで、──ユベルを倒すと決めた私もまた、王家の墓へと足を向けたのだった。
 事前に異変について気付いたら伝えるように言い聞かせてあった、私のカードの精霊──青き眼の一族たちから特異点の情報を聞いた私と亮──それから、やはり私たちの行動を不審に思い様子を伺っていたのか、絶妙なタイミングで姿を現したエドを連れて、三人で特異点の開いた現場へと向かうと、……その現場には、当然のように、既に十代の姿があった。

「──あの空間の歪みは?」
「異次元への扉……」
「ええ、間違いないわね……」
「まさか、十代ひとりで?」
「……まだ奴には分かっていない、自分の行動の結果に責任が生まれることを」
「いや、分かっているからこそ、自らの手でヨハンを助け出そうとしているんじゃないのか?」
「……お前も、まだまだ子供だな」
「なに!?」
「もし十代が異次元へと戻ることを知ったら、周りが放っておくと思うか?」
「……まあ、それも、私たちだけで済めばよかったのだけれどね。……やっぱり、そうはならないわよ、……だって、あの十代だもの」

 ユベルの起こした凶行を、──そして、ユベルを宇宙へと送り出した幼い日の自身の行動にも強い責任を感じていた十代は、ヨハンの失踪はすべて自分の責任だと考え、──単独でヨハンを迎えに、ユベルとの決着を付けるため、異世界まで飛び出してゆくことだろう。
 ──特異点が再び開く可能性があることをツヴァインシュタイン博士から聞き及び、そして、亮と共にユベルを討ちに行くと決めた時点で私には、きっと訪れるのであろう十代の旅路に同行する覚悟も決まっていたけれど、──でも、“十代への友情”を理由に彼の後を追ってきたアカデミアの友人たちは、……一体、どうなのでしょうね。

「……結局、そう言うことになる」
「十代が動けば、みんなが動く……もうそれだけの影響力を持つ人間になっているってことか」
「そう、ね……それが、良い方向にだけ作用していた今までは、それで良かったのでしょうけれど……」
「……既に、それを自覚していないのは、十代自身だけだ」
 
 ──もしかしなくとも亮には、そのとき既に、悲劇の結末も粗方の予想がついていたのかもしれない。
 だって、友情に起因した騒動の結末には悲劇が待ち受けているのが定石だということを、──私たちは昔、何処かで経験していたような気がするのだ。

「……美しい友情、それが、どんな結果をもたらすか……」

 ──光の柱に飲み込まれる直前、亮の零した言葉は何故か奇妙なまでの既視感を私に抱かせて、──けれど、光が晴れた向こうに異世界の知らない景色を見初めた頃には、──私は既に、先程の既視体験の感覚さえも、再び忘却してしまっていた。


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