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 ──から持ち掛けられた突然の提案に、即座に頷くことが出来なかったのは、……多分、男としてのプライドだとかそう言ったものだったのだろう。
 そんな陳腐な感傷などが、アンチリスペクトとまで呼ばれるようになった、今の自分にあるとは思っていなかったが、……実際のところ、あの瞬間に俺は、その葛藤を理由に彼女の手を取ることを躊躇ってしまった。
 ──それに、俺はこれ以上、に苦労を掛けたくなかった。……そんなもの、今までどれほど負担を掛けてきたか、分かったものではないが。
 あのが、ここまで恥やプライドをかなぐり捨てて、俺に生きろ、と縋ってくれた姿を見て、余計に、俺は。……ああ、このままと生き直せたら、どんなにいいことだろう、と。そう、思いはしたものの、──それでも、俺のためなどに、にこれ以上の辛い思いはさせたくないという、躊躇があった。
 此処まで言われては、易々と死んでやろう、等という気はまるで無くなってしまっていたし、……そもそも今は、裏デッキを翔に持っていかれてしまっている。
 俺は何も、今すぐ死にはしない、……とはいえ、現状ではこの先、俺の心臓がどうなるかなど分かったものではない。……それを、今。も、翔も。……俺の為にと奔走して、どうにか解決してくれようとしている。
 それは、本当に嬉しい、確かに嬉しいが。……余りにも大きく、の生涯さえ左右してしまうかもしれない大きな選択に、簡単に頷くことなど、とてもではないが俺には出来なかったのだ。
 ──少し考えてみてほしい、と彼女からはそう言われながらも、……もしも俺がもう少しだけでも、真っ当な男であったなら、ここまで苦労を掛けなかったのだろうな、と。……もしも薄らとした後悔が、脳裏で揺らぐ。
 決闘者としての己の人生には、後悔などしていない。あのデッキが望むなら、このままデッキと共に心中してやってもいいとさえ、本気で思っていた。……だが、そうだった。……それは、をまた置いていくことに、他ならないのか。……今、俺がこのまま死んだのなら、これで三度目になるんだな。
 何度繰り返したところで、いつも、をひとりで残してゆく、というそれだけは、人生観が引っくり返った今でも、俺に恐ろしいまでの罪悪感と後悔を与える。
 ……との約束を、次はもう破りたくない。……だが、あのデッキには、借りがある。彼女におかえり、と微笑まれるのは、自分だけでいい。……もう、彼女を苦しませたくはない。
 ──そうして、行き場を失くした葛藤ばかりがひたすらにぐるぐると渦巻いて、まるで答えが見つけられそうにない。……やがて、お互いが上手く言葉を繋げられなくなってしまったそのときに、……俺の病室へと、鮫島師範が訪れたのだった。

「──亮、くん、正直がっかりだ。……君たちがアカデミアで得たものとは、その程度だったのか?」
「……校長……?」
「……思えば君たちは、我が校の一回生で、それも特待生だったのだな……その主席ともなれば、まあ、周囲から頼られる立場だったというのは、非常に良く分かる」

 ──静かな声で、けれど強い口調で。俺たちを嗜めるように、師範は言葉を紡いでゆく。
 その言葉と、雰囲気で、自分たちが叱られていることは、良く分かった。……教師に怒られる、なんて経験は在学中にもあまり無かったし、ましてや俺たちはとっくにこの学園を卒業しているのだ。慣れないことに妙に緊張して、思わず背筋が伸びる。隣に座るも、それはどうやら同じだったようで、彼女は何処か緊張したような面持ちを浮かべていた。

「──亮、くん、私はきみたちの師だ、教師だ。それは卒業しても免許皆伝しても、同じこと……それとも、私はきみたちに教えられなかったのだろうか、……師とは、生徒を護るものだ、と。……それに、君たちはこの学園で、周囲の人間に助けられた、という経験が一度もなかったのか?」
「師範……」
「……何も、くんだけではないんだ。……私も亮に、回復してほしいと思っているよ。……それに、くんも、最近少し、顔色が悪いね。……きみが限界を超えてまで、一人で無理をする必要は、あるのだろうか?」
「でも、校長……!」
「……私は、きみたちの周囲の人間は、そんなに頼りないだろうか?」
「!」
「確かにきみたちは強いが……そんな君たちだからこそ、心配している人間もここにいるんだ、……例えば海馬オーナーも、くんの事情を知ったなら心配するだろうし、きっと相談して欲しいのではないか?」
「それ、は……」
「先程、私も医務室で面会したが、……なるほど、確かにあの医師は、私の力では見つけられなかったことだろう。様々な業界に通じた、くんだからこそ、彼を連れてこられた。……本当にありがとう」
「いえ、私はそんな……」
「だからこそ、私からお願いだ。……私では、君たちにとっては力不足かも知れない。……だが、この通りだ。私に、生徒二人を護らせてくれないだろうか」

 ──そうして、散々二人でヒートアップした此度の騒動は、……結局は、師範が俺達に頭を下げてみせたことで、……ようやく、決着が付いた。
 結果的には、師範にまで迷惑をかけることになってしまったが。師範の言葉に俺達は反論の余地もなく、……も俺も、師範の言葉に、甘えさせてもらうことになったのだった。
 ──こうして、互いに負担を掛けない形での結論が出たことで、俺も彼女もようやく落ち着きを取り戻した気がする。
 ──思えば、が尋ねてきてから、すぐにさっきの論争になってしまったため、今日は他の会話どころか挨拶さえもまともに出来ていなかった。
 ──久しぶりに、会えたというのに。……しかし良く考えてみれば、俺と彼女は毎回こうだったかもしれない。……いつも、暫く会えなかった後は、再会してもなかなか、会話らしい会話を交わさなくて。
 ただ、それでも、無言で傍に居るだけでも、喧嘩に発展しかけても、彼女の隣は、心地が良かったのだ。
 ──の体温が、俺の傍らにあること。それは底知れない充足を、俺に感じさせる。今、彼女が身を委ねているのは、俺だけなのだと。……優越感、庇護欲、情愛、独占欲、その何もかもを、隣の体温だけが俺に与えてくれる。
 だが、そのすべてを、いつでも与えてくれた彼女の傍から、俺の体温だけが消えたなら。……その時はきっと、いずれ違う誰かがその場所に座るのだろう。

 ──それは、海馬さんやモクバさんのような、家族かも知れないし、明日香のような同性の友人かも知れない。
 俺が居なくなった後のことなど、俺には分からなかったからこそ、俺が死んでも彼女には俺のことだけを好きでいて欲しかったのだが、──俺がそう望んだ結果が、焦燥しきった今のだと言うのなら、……流石に、二度同じことは望めない。──かと言って、他の誰かと幸せになってくれと言えるような器でもないのだ、俺は。

「……それは、やはり嫌です」
「はは、亮が気を取り直してくれたなら何よりだ。……いい子を選んだものだな、亮」
「……ええ、俺には勿体ないほどですよ」
「そんなことはないだろう、……きみたちは昔から変わらず、似合いの二人だよ」
「……ありがとうございます、師範」

 部屋の空気が大分穏やかになったことで、そのまま師範も交えて幾つか談笑していると、──ふと、師範が思い出したようにサイコ流の一件について触れた。
 そうして、師範から手短に事情を聞いたは、携帯で磯野さんへと電話を掛けると、すぐに駆け付けた磯野さんに、ベッド脇に立てかけてあったのジュラルミンケースを運ぶように指示するのだった。

様……! よかったです……! 鮫島校長、様を説得してくださって、誠にありがとうございました……!」
「いえいえ、私は何も」
「この磯野、様のお役にまるで立てず、心配するばかりで……!」
「ちょっと磯野! やめなさいよ! 恥ずかしい!」
「いいえ、いけません、様。……それに、丸藤様も、御無事で何よりです」
「ええ、おかげさまで」
様は、お転婆が過ぎるところはありますが、とてもお優しい方です。……どうか、今後ともよろしくお願いします、丸藤様」
「磯野! やめなさいったら!」
「当然です。……安心してください。彼女が優しい人だとは、俺も分かっていますから」
「な……」

 ──わあわあと声を張り上げて磯野さんを嗜めながらも、手渡したジュラルミンケースについて、磯野さんにいくつか指示を出した後で、は腰のデッキホルダーを確認してデュエルディスクを装着すると、ベッドから立ち上がる。
 ──そうして、そのまま磯野さんを連れて嵐のように去って行こうとするものだから、……俺は思わず慌てて、咄嗟に引き留めようと彼女の手を掴んでしまったが、……はというと、まるで悪びれもせずに不思議そうな顔をして、俺へと振り返るのだった。

「? 何よ?」
「……何処へ、行くんだ? せめて、もう少し……」
「は? どこにも行かないわよ。でも、翔くん一人で特訓してるんでしょ? 私、手伝ってくるわ」
「……翔を?」
「考えてもみなさいよ、私はあなたのデッキも決闘も、誰よりも知り尽くしてるの。私ほど、今の翔くんに適したコーチがいる? ……安心しなさい? ちゃんと戻ってくるし、私は亮と違って何処にも行かないわ」
「……分かった。翔を、頼む」
「任せなさい!」

 ──そうして、不遜な笑みでそう告げてから、彼女は嵐のように病室を立ち去ってゆく。……その立ち振る舞いからは、もう、無理をしているのではと心配になるような虚勢などは微塵も感じられなくて、……心底、安心した。
 ──やはりには、あんな風に晴れやかに、笑っていてほしい。……俺の為に怒ってくれるのも、泣いてくれるのも、もちろん嬉しいが、少なくとも、普段のあの笑みを崩して感情をむき出しに振る舞うのは、……俺の前だけにしてほしい、と。そう、思うのだ。
 気丈な彼女にあんな風に泣かれては、きっと誰だって可笑しくなってしまう。……限度を超えて戦って来たからこそ、脆くなってしまっていたのだろう、と思うと流石に罪悪感を覚えるものだ。……早く、もっと安心させてやりたい。お前が無防備になるのは、俺の前だけでいいんだ。

「……しかし、師範、負担にはなりませんか。……があのジュラルミンケースを持ち出すほどの、額なんでしょう?」
「そんなこと、亮が気にするものじゃない。私も伊達に長く生きてはいないんだよ」
「ですが……」
「……師としては、何もしてやれなかったんだ、このくらいは格好を付けさせてくれ。くんに頼るよりは、亮も恰好がつくだろう?」
「……何もかも、御見通しか」
「当然だ。……何、全快した頃にでも、礼として道場の復興を手伝ってもらえたなら、私はそれでいいとも」
「その程度、お安いご用です」
「はは、助かるよ。……だが君がその頃には、忙しくなってしまっていたのなら、ううむ、……そうだ、亮の子供を是非うちの道場に入れてくれ。いいね?」
「……俺の……?」
「別に今すぐにという話ではないさ、……だが、亮には素晴らしい伴侶がいる。きっと、一生無縁という話でもないだろう?」

 ──半分は俺を茶化すように、そう言って笑った師範が、誰の話をしているのかは知っている。
 ……だが、そうか。良く考えれば、俺たちは既に、……結婚できる年齢、ではあるのだった。
 アカデミアを卒業した際には今すぐに、なんて無責任は言えずに、恋人のままで、と確かに俺も思っていたが。……吹雪に茶化されても真剣に答えていたあの頃の気持ちは、俺の中では今も変わらない。
 ただ、卒業後は本当に、……俺もも怒涛の日々だったからこそ、……いつの間にか、踏み込んだ関係になろうという発想も、薄くなっていたかもしれない。
 ──或いは、俺達が世間の決めた形に収まることに、然程の意味を見出さなくなっていたから、だったのだろうか。
 卒業後は間違いなく、学生時代よりも彼女と深い仲になったし、決闘への価値観とて、俺たちの間では噛み合うようになった。……それで余計に、現状に満たされてしまっていたが、……それは寧ろ、俺たちの世界を、狭めていたのかもしれないな、と今になって思う。──先程、鮫島師範に窘められて、冷静さを取り戻した際に、その事実に俺はようやく気付いたのだった。
 アカデミアの外の世界に出て、プロリーグで戦い、見ている世界は昔よりもずっと広くなった。……だが、見知った顔ぶればかりに囲まれているわけではない、外の世界で、俺達が二人だけの世界を作り上げてしまっていたのは、事実だろうと、そう思う。……それは昔よりも、深く、狭く。
 それ自体は心地良かったし、決して悪いことでもないと思うが、……結果、そうして過ごしてきたからこそ、互いが未だに孤高であったのだろうな、と。……今になって反省する点が、一切無いわけではなかった。……俺を頼ってほしい、等と彼女に言えるような器量ではないのは分かっているが。……少なくとも、現状ではな。

「……師範、聞いてもらえますか」
「何かね? 亮」
「……昔、一度考えて、そのまま忘れかけてしまっていた、ことなんですが……」


「──さんがボクに教えてくれたんだ! 決闘者にとって、限界は超えるためにあるって! そしてそれはデッキも同じだった! ──このデッキは、進化を求めていたんだ!」

 ──翔の決闘は、正しく見事なものだった。……たった三日で、本当に最後は、あのデッキを使いこなしてしまっている。翔の手によって進化を促されたデッキは、使用者とデッキとが、力と力で殴り合いねじ伏せ合いながら、俺に使われ、俺に使わせようとしていた頃より、──ずっとずっと、眩く活きているように見える。

「……あいつ、いつの間に俺を追い越して行った……?」

 ──思わず洩れた喜びを、隣で観戦していたと十代は、しっかりと聞き取っていたらしい。二人が微かに笑ったのが聞こえて、俺は翔の決闘に、更に釘付けになる。
 ──翔の勝利で決闘に決着が着いたことで、俺のデッキは、そのまま翔に引き継がせることにした。……きっと、もうあのデッキは、使用者を蝕むことをしないだろう。翔の元で共に進化をし続けていくのが、あいつにとっても一番いい筈だ。……あのデッキに、翔ならばきっと、恩を返してくれることだろう。……俺はまた、一からデッキを組めばいい。
 俺にはまだいくらでも時間があって、……その未来にはが居る。ならば彼女と相談し合いながら、また新しくデッキを組むのも、それはそれで楽しそうだと、今の俺にはそのように思えたのだ。
 ──いつの間にやら姿を消していた十代を除いて、俺と、と、翔との三人で校舎までの道を戻るその道中に、翔に車椅子を押されながら、ぼんやりと思う。……そういえば、こうして三人で歩いたことなどは、今まで一度たりともなかったのだな、と。

「……お前となら、出来るかもしれない」
「え……?」
「……ずっと考えていたんだ、今までなかった、新たなプロリーグを一から作りたいと。……一緒にやろう、翔」
「兄さん……! うんっ!」

 この三人で並んで笑っていられることも、翔と兄弟らしくいられるようになったことも、……翔自身の成長を、この目でしっかりと見届けた今、……ずっと心の何処かで思い描いていた言葉は、簡単に渡すことが出来た。
 俺がプロリーグでマイナー落ちして、やがては地下へと転がり落ちていったあのときに、プロリーグのどうしようもない不条理や汚さだとか、そんなものは大分見てしまった。
 やがて俺は勝利に取り憑かれたことで、いつの間にかその時の想いも有耶無耶にしてしまっていたが、……もしも俺に新しい道があるならば、後援として、プロの世界を変えたい、と。……そう、思ったのだ。そしてそのときには、翔の力を借りたい、とも。

「あら、それなら私は、しばらくはこのままアカデミアに滞在するわ」
「……何?」
「だって、翔くんの卒業までにはある程度回復しておかないと、何かと困るでしょ? 術後のケア、手伝ってあげるわ」
「しかし、お前にはリーグでの試合が……」
「だって二人は、これから新リーグを立ち上げるんでしょう?」
「ああ。……そうだな? 翔」
「勿論だよ、兄さん」
「それなら、私はそのリーグに移籍するわ。それなら今のリーグを脱退しても、別に痛手ではないでしょ。……それなら暫くは暇になるし、仕方ないから私が亮の介護をしてあげる」
「なに……!? だ、だが……今のリーグで、お前が今、どれほど上の順位にいると思って……」
「だからこそ、その人気選手が移籍してくれたら、二人は助かるんじゃない? ……それとも、不満を感じるような現在のリーグに、私を置いていくつもり? ……ま、安心しなさいよ。兄弟水入らずに割って入る気はないわ、私は選手として、契約を提案してるの」
「ボクは賛成だよ、兄さん。さんがいてくれると、特訓でも心強かったし……これから先、協力してもらえたら百人力だと思うっス! 改めて、これからも宜しくお願いします!」
「ええ、こちらこそ。私が二人のリーグの一人目の加盟選手で、初代王者になってみせるわ。……なんでも頼ってね、翔くん」
「はいっス! でも、それは、さんもっスからね!」

 ──からの提案にも驚愕したが、……一体、いつの間に翔とは、こうも打ち解けていたものかと、そちらにも驚いた。
 ──確かに、俺たちのリーグにが選手として加盟してくれたのなら、それほどに心強いことは、他にないだろう。
 ……そして、彼女の言い分も尤もなのだ。腐敗の目立つ現在のプロリーグを抜けて俺の傍に居てくれた方が、俺とてあらゆる意味で安心出来る。……とはいえ、本格的にリーグが発足する前から、彼女を拘束してしまっていいものか、と。……そう思いながらも結局は、心の底から喜んでしまっている自分もいる。
 この先、俺たちのリーグが軌道に乗ったのなら、その時は。……には毎日、俺の隣に居てほしい。
 そう思っていた勝手な期待を俺から掠め取るように、はそれ以上のスケールをもって、俺の期待にそっと応えようとしてくれていた。……それが、嬉しくない筈が無いだろうに。少なくとも当面は数年前までと同じように、このアカデミアで、彼女と一日中共に過ごしていられる、と。そのように、保障されているも同義なのだ。
 ──だが、葛藤の理由は他にもあって、こうして喜んでいる自分が居るのと同時に、翔とが親しげに話しているのを、つまらないと思ってしまっている自分も居たからこそ。……仲良くしてくれるのは、良いことなのだが。思わず、不満が口を吐いてしまった。

「……お前達、いつの間にそうも仲良くなった……?」
「え……ちょっと兄さん、流石に弟に嫉妬はないよ……」
「しかしだな……」
「……なに? それって翔くんに嫉妬してるの? それとも私に?」
「……翔に、だ」
「……ほんっと、びっくりするほど嫉妬深いのねぇ……まぁ、悪い気はしないけれど……」
「な……」
「兄さん、流石にボクのことは許してよ。今後に差し支えるじゃないか……」
「しかしだな……」
「いいじゃない、亮。私だって翔くんと仲良くなりたいのよ、ちょっとくらい譲りなさい。私、ずっと翔くんと決闘してみたかったし」
「え、本当っスか?」
「ええ、翔くんと出会った頃からね」
「……おい、、翔」
「もー! 兄さんがそういうことを言うから、余計にさんが気を使わなきゃならなくなるんだよ!? 兄弟水入らずで、なんてボクは気にしてほしくないのに!」
「え? 何も私は、気を使ったつもりなんて……」
「ボクだって、さんと仲良くなりたいんだ! ……どうせいつかはボクの姉さんになるんでしょ? 今のうちから甘えたっていいじゃないっスか、全く、兄さんってば……」
「……え? それって、どういう……」
「……言うようになったな、翔。……分かった、お前の好きにしろ」
「やったー! ありがとう兄さん! ……あ、それとさ。もう二度とさんを泣かせないであげてよ。……ボクからも頼んでおくからね、兄さん」
「!? それは一体、いつの話だ……!?」
「ちょっと、翔くん!?」
「へへ、教えてあげないよー!」


「ところで、海馬さんには連絡はしたのか?」
「いえ、全部磯野に任せたわ」
「何……?」
「リーグ本部への対応も、父様への説明もね」
「……磯野さん、平気なのか……?」
「だって、電話口では説明しきれないし……父様、きっと、とにかく今すぐ帰って来いって言うもの」
「ならば、ひとまず今日は……」
「嫌よ、帰らないからね」
「しかしだな……」
「……父様に逆らってまで家出してやろうなんて思ったの、初めてよ。……大丈夫、数日中には当面の荷物を取りに行かなきゃだし、顔は出しに行くから」
「だが、海馬さんに叱られるんじゃないのか……?」
「そうでしょうね。……でも、今日は帰りたくない。……絶対嫌よ、亮のところにいるの」
「な……」
「……ねえ、いいでしょ? 亮」
「……分かった、ここにいろ……海馬さんには、後日俺からも謝る……」
「ええ、お願いね」
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