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 彼女が駆け付けたその瞬間、眼前の男──藤原優介の目が大きく見開かれたのは、僕の場所からでもよく分かった。
 ──ああ、やっぱり君は今でも、彼女のことを、気にかけているのか……。
 それに、──、君は……、例え、僕がどんなに遠ざけたところで、……結局、あいつのことを思い出して、駆け付けてしまうんだな。

「──吹雪! どうして、優介と決闘を……!?」
、君も無事だったのか……!」
「そうか、さんには青眼の白龍が居るから、ダークネスの干渉を弾けたのか……!」
「ええ。──尤も、うちのナイトが過保護なせいで、ダークネスから逃れるのが遅れてしまったけれど……それで、これはどういう状況なの? ──優介?」
「……フッ……久しぶりだな、……」
「あれが、藤原優介……」
「ダークネスの世界を、自ら望んだ男……!」

 カイバーマンの先導の元、世界の命運が掛かった決闘を行っていると言う、その現場に駆け付けてみれば、──其処では、吹雪が決闘をしていて、──その正面には、行方不明だった彼──藤原優介が立っていた。
 ……此処に来れば、きっと優介に会えるのだろうということは、なんとなく分かってはいたけれど、その相手が吹雪と言うのは些か想定外で、──と言うよりも、私は力づくでも優介を連れ帰るために此処へと駆け付けた訳だったものの、どうやらその役目を、私よりも先に吹雪が執り行っていたらしい。

「……藤原、僕はあのとき、君は死んだと思っていた……だからこそ、にはダークネスの侵攻について、教えられずに居たんだ……」
「え……」
「もしもが藤原のことを思い出して、君が死んだと知ったなら……は悲しむに決まっていると、そう思ったから……」
「……ッハハ、とんだ見当違いも良いところだったな、吹雪。……は俺が死んだくらいでは、動揺なんてしないだろ?」
「っ、何を言うのよ、優介! 私が、一体どれだけ──!」
「──どれだけ……? 俺のことなんて、全て忘れて生きていた癖に?」
「っ、……そ、れは……」
「待て、──が貴様を忘れていたのは、オレが手出しをした所為だ。は貴様の精霊──オネストと共に、ずっと貴様の身を案じていた」
「! カイバーマン……」

 ──私たちの対話に割って入ったカイバーマンの口から、優介の精霊であるオネストの名前が挙がったことで、彼は一瞬だけ、ピクリと微かな反応を見せたように思えたものの、──しかし、それ以上に言及することもなく、優介は冷たい眼で、私と吹雪をじいっと見つめるのだった。

「そうだ、君は死んだと思っていた……だが、生きていてくれたんだな……」
「フッ……もちろんさ、ダークネスに身を委ねることは、自滅するわけじゃない」
「なら、何故こんなことをする!? 藤原! 捕らえられた人々を解放しろ!」
「捕らえられた、人々……?」
「今、明日香や万丈目くん、翔くんたちはダークネスによって捕らえられている……藤原は、恐らくその首謀者だ……」
「! 翔くんたちが……? じゃあ、まさか、……亮が居なくなったのも、優介が……?」
「丸藤? ……ああ、どうだったかな……そういえば、その中に居たかもしれないな……?」
「何を考えているんだ、藤原! 皆を解放して、記憶を元に戻すんだ!」
「……俺は、ダークネスと一体化することで分かったんだよ、ダークネスの世界には勝者も敗者も無い。寂しさも苦しみも無い。あるのは、それらの煩わしさを突き抜けた一体感だけだ」
「……優介……?」
「すべての知性がひとつになり、全ての感情……苦しみも喜びもすべてを皆で分かち合う。それこそが生きる上での勝利! 戦うことなく得ることのできる、究極の勝利だ! 素晴らしい世界だと思わないか!?」
「……何を言ってるんだ、奴は……!?」

 ──駄目だ、目の前の優介とは、全く会話が成立していない。
 吹雪の語ったことが事実なのだとして、状況を鑑みれば恐らくこの島には既に、この場に居る五人──私と吹雪、十代にヨハン、そして、優介しか残っていないということになる。
 優介はダークネスの力を使って、親友の弟や妹、──それどころか、友人である亮のことまでをもダークネスへと取り込んだ彼は、──間違いなく、この場に残った四人を始末する為──捕らえる為に、ダークネスの使者として再びデュエルアカデミアへと舞い戻ったに過ぎないのだと、──残念ながらこれは、そういうことなのだろう。
 ……そうだ、何も優介は、彼の意志で私たちの元に帰って来てくれた訳なんかじゃないのだと、そう分かり切っていて、──それでも、そんなことを言われたところで、……このまま黙って、はいそうですかと引き下がれる筈もないでしょう。
 
「──優介! 御託は良いから、早く帰るわよ!」
「……
「私はあなたを迎えに来たの! 言いたいことがあるなら、後から幾らでも聞くから……だから!」
「幾らでも聞く? ……嘘だな、お前は俺の話なんてまるで聞いちゃいなかった……」
「優介、何を言って……」
「お前は一度だって俺の忠告を聞かなかったじゃないか、……お前は昔から、勝利だとか敗北だとかに馬鹿みたいに拘って! その結果にが得たのは地獄のような寂しさと苦しさの中で痛みに貫かれて死ぬ、孤独な最期だった! 酷い絶望だっただろう!?」
「……一体、何の話をしてるの……? 優介……!」
「忘れたとは言わせない! ──、お前は確かに、異世界で死んだ! いや、死ぬよりも苦しい想いを味わっただろう!?」
「……っ、どうして、そのことを……」
「……俺は、ずっとお前を見ていたんだ、知ってるさ……やっぱり、だけはダークネスの元に連れて行くべきだった、そうすればは、あんな目に遭わなかったんだ……俺は、何度も言ったのに、どうしてお前は……」
「……優介、私は……」
、……居るべき場所に帰るのは俺じゃない、お前の方だ。──来るんだ、。……俺と共に、ダークネスの元へ」
 
 恐らく、このデュエルは互いの命が賭けられた、闇の決闘──でも、私の大切な親友二人がそんなことをする必要なんて何処にもない筈だと、必死になって止めに入ろうと優介に向かって呼びかけるものの、──優介は私の言葉を聞き入れるどころか、──スッ、と私に向かって手を差し伸べるのだった。

「──おいで、……」

 ──私が異世界で、誰にも看取られずに死んだ、って。
 ……どうして、優介がそのことを知っているの?
 ずっとダークネスの元に居た彼から、突然その言葉が出たことで、──ハッ、と咄嗟にヨハンが表情を曇らせて小さく俯くのが、視界の端に見える。
 ……今、その話題を持ち出したのは、私とヨハンに対する、揺さぶりのつもり? 私たちから心の闇を引き出すため? ──もしも、そうだとして、これが巧妙な罠だとしても……、誰にも見届けられることもなく私が一人で散ったあの瞬間のことを、──どうして、あなたが、知っていると言うのだろう……?

「──さん! そいつの言うことに耳を貸すな!」
「! 十代……」
「藤原! 捕らえられた人たちをどうした!?」
「フッ……彼らは彼らの望む世界を生き、やがて、自らの存在の無意味さを知る……そして、本当の意味で大いなるダークネスの扉を開き始める……」
「何だと!?」
「吹雪! 恐れることはない! これが最後の敗北だ、そしてお前の苦しみは、すべてダークネスが受け止めてくれる……俺のターン、ドロー! ──フィールド魔法、クリアー・ワールド発動!」

 フィールド魔法 クリアー・ワールド──その発動宣言と共に、空間に現れた水晶によって瞬時に世界は青く染められて、やがて見慣れた校舎の姿は遠ざかり、──その場には、見果てぬ先まで続く、青く透き通った空間が展開されていた。
 まるで、俗世の一切と隔たれたかのようなその空間で、──私の説得も虚しく、吹雪と優介の決闘は再開されてしまう。

「これは……!?」
「クリアー・ワールドの中では、モンスターの属性ごとに、プレイヤーへネガティブエフェクトが与えられる」
「何……!?」
「真紅眼の属性は闇……そのモンスターをコントロールしているプレイヤーは、攻撃宣言を出来ない!」
「何だと……!?」
「吹雪……!」
「個性を持つから影響を受ける、そんなものはいらない……個を失くし、すべてをダークネスの元に!」

 クリアー・ワールド──お互いは、コントロールしている属性によって別々の効果を受けるという、そのフィールド魔法の発動により、闇属性モンスターである真紅眼の黒竜を操る吹雪は攻撃を封じられて、一気に劣勢へと立たされる。
 その後、優介は魔法カード クリアー・サクリファイスの効果──自分が“クリアー”と名の付いたレベル5以上のモンスターをアドバンス召喚する場合、必要な数だけ自分の墓地の“クリアー”と名のついたモンスターをゲームから除外し、生贄の代わりとするカードの発動により、クリアー・ファントムとクリアー・レイジ・ゴーレムをゲームから除外して、最上級モンスターであるクリアー・バイス・ドラゴンを召喚した。
 クリアー・バイス・ドラゴンの攻撃力は0──しかし、属性を持たないクリアー・バイス・ドラゴンはネガティブエフェクトの影響を免れる上に、更なる特殊効果を持つ。

「──吹雪! お前が絆を信じる個性を持つデュエリストだということはよく分かった。確かにお前は、ダークネスの力を得る前から、友だ、仲間だと煩い奴だったからな……だがその煩わしい考えも、もう必要ない。クリアー・バイス・ドラゴンの攻撃力は0。だがこいつには、相手の個性を倍返しにする力がある……つまり、相手モンスターの攻撃力の2倍が、クリアー・バイス・ドラゴンの攻撃力となるのだ」
「相手モンスターの、2倍の攻撃力だと!?」
「それじゃあ、どんなモンスターでも、その力を上回ることは出来ない! ……まずい、この一撃で勝負がついてしまう……!」
「……くだらない……」
「ん? なんだってぇ? せっかくのお前の最期の言葉が、聞き取れなかったなぁ?」
「くだらないと言ったんだ!」
「……!」
「君は、究極の力を手に入れると、ダークネスの世界へ足を踏み入れた……僕には、君の純粋さが眩しかった。只、頂点を目指す君の姿勢が、美しく思えた……だが、何だこの世界は!? こんなもののために、孤高の天才だった君は、ダークネスに堕ちたのか!?」
「吹雪……」
「個性を棄てる? 皆とひとつになれ? 敗北することのない勝利を得る? ──くだらない! 君は! 人の無限の可能性に気付いてないだけだ! 君は人を越えたんじゃない! ダークネスの世界に、自分の心を棄てただけじゃないか!」
「……仮にも、ダークネスの一端を得たお前が、その程度の理解とは悲しいね!」
「藤原!」
「お前には、世界の一面しか見えていない。希望や可能性が無限の未来へ広がると信じる、愚かな思考から脱していない。──見るがいい! 人々の本当の苦しみを!」

 そう言って優介がダークネスの権能を用いて私たちに見せたのは、──翔くんと準、明日香の心の闇が生み出した、彼らの思い浮かべる最悪の未来のビジョンだった。
 ──その中には、翔くんが想像する将来への不安──“もしも”、亮と二人で新たに立ち上げるリーグの運営に難航して、“もしも”、亮の病状が今よりも更に悪化して、“もしも”、翔くんにそれらの負担が全て降り注いで、“もしも”、──翔くんには、亮の夢を叶えてあげられなかったのなら、と。
 ……そんな、彼が心の何処かに抱いていたらしい未来への恐怖もまた、映し出されていて、──私は思わず、それを目の当たりにして、絶句してしまった。
 だって、──私の知る限り翔くんは、ちゃんと希望に向かって歩んでいて、亮だって近頃では病状は安定していて、彼ら兄弟の未来にはそれは苦難だってあるかもしれないけれど、──だとしても、それは決して、こんな絶望の未来などではない筈で。
 だから、こんなものはダークネスが見せている幻覚に過ぎないと、空想に過ぎないと私はそう思ったし、吹雪や十代たちもそう吠えるけれど、──彼らの心に未来への不安がある限り、その可能性は真実であり、必ず実現するのだと、……優介は、そう語るのだった。

「──だが、もう、良いんだ……戦いに疲れたお前達を俺が認めよう。──俺と共に、ダークネスの世界へ!」

 ──そうして、優介が見せていたビジョンからクリアー・ワールドのフィールドへと戻った瞬間、──ぞわり、と背筋が泡立つほどの異様な感覚を、全員が体感していた。
 ──今の嫌な感触は、一体……?
 そう思って身構える私たちに向かって優介は、恐ろしい言葉を口にする。──たった今、皆の意識が途切れ、彼らは既にダークネスと同化したのだ、と。

「悩む者よ、苦しむ者よ、悲しむ者よ……すべてを認めよう! 俺がその心の闇を受け止めてやる! ダークネスと、ひとつになるのだ!」
「──藤原……!」
「さあ吹雪、お前の心の闇も見せてみろ! 俺が受け止めてやる……!」
「──僕は負けない! 希望を棄てない! 人の可能性をお前に教えてやる! このデュエルに勝ち、彼らを……そして、お前をダークネスから救ってやる!」
「フッ、無理だよ! 今更! ──クリアー・バイス・ドラゴンの攻撃! クリーン・マリシャス・ストリーム!」

 幻惑を前にして動揺を振り切りながらも吹雪は、罠カード・バーストブレスを発動し、自分フィールドのドラゴン族モンスター1体をリリースすることで、リリースしたモンスターの攻撃力以下の守備力を持つフィールドのモンスターを全て破壊する効果により、クリアー・バイス・ドラゴンの破壊に成功した。
 そして、次に吹雪のターンでハウンド・ドラゴンを召喚したものの、闇属性のネガティブエフェクトによって、吹雪は攻撃を封じられており、優介に反撃することは叶わずに、吹雪はターンエンド。
 次の優介のターン、優介は罠カード・虚無の召喚術を発動し、クリアー・レイジ・ゴーレムを特殊召喚、その装備カードとした。
 虚無の召喚術は、ゲームから除外されている自分のレベル4以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する効果を持つ。
 このカードの効果によって特殊召喚されたクリアー・レイジ・ゴーレムの攻撃力は0になるものの、優介は更に、魔法カード アトリビュート・マスタリーをクリアー・レイジ・ゴーレムへと装備させるのだった。
 アトリビュート・マスタリーは発動時に、属性を1つ宣言することで効果を得るカード。このカードを装備したモンスターが宣言した属性のモンスターと戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊することが出来るようになる。
 ──つまり、闇属性を宣言することで、アトリビュート・マスタリーの効果によりクリアー・レイジ・ゴーレムはダメージ計算を行わずにハウンド・ドラゴンを破壊出来るだけではなく、この後に吹雪が再度、真紅眼を召喚したところで、クリアー・レイジ・ゴーレムによって戦闘破壊されてしまうのだ。
 更に優介は、装備魔法 アトリビュート・ボムをクリアー・レイジ・ゴーレムに装備し、その効果──発動時に属性を1つ宣言し、装備モンスターが宣言した属性のモンスターを戦闘によって破壊した場合、相手ライフに1000ポイントのバーンダメージを与える効果で、吹雪に追い打ちを掛けるのだった。

 ──優介の操るクリアー・ワールドやアトリビュートのカードパワーやシナジーも、もちろんあるけれど、……やっぱり、優介は強い。
 私と亮、吹雪、優介は、皆揃って特待生きっての天才などと周囲から持て囃されていたけれど、──それでも、優介はあの頃から別格だった。──彼のデュエルタクティクスは、才能などと言う平凡な言葉で形容出来るような次元ではないのだ。

「……ありがとう、藤原……」
「ん……?」
「君がどう変わろうと、生きていてくれて……」

 ──それでも、圧倒的な劣勢に立たされながらも、吹雪の眼はまだ死んでいない。──それどころか彼は、この期に及んで優介へと穏やかに語り掛けている。
 吹雪は次のターン、魔法カード・闇の量産工場を発動し、真紅眼を手札へと回収した後に、黒竜の雛を召喚し、その効果で真紅眼の特殊召喚に繋げる。
 クリアー・ワールドによる闇属性の攻撃封じと、闇属性キラーと化したクリアー・レイジ・ゴーレムの二枚の壁により阻まれる吹雪は、最早碌な反撃が叶わないと思われたものの、──吹雪は魔法カード・黒炎弾を発動し、真紅眼の攻撃力分のバーンダメージを与えることで、優介のライフを一気に200まで削ったのだった。

「──すまなかった、藤原……」
「なに……!?」
「ずっと、謝りたかった……あの時……あの時、君を救ってやれなかった。──だが、今度は僕も一緒だ! ……それで、みんなを救えるのなら、それが僕にとっての勝利だ……」
「──吹雪!」
「すまない、真紅眼……! 罠発動! レッドアイズ・バーン!」
 
 更に次のターン、吹雪はクリアー・レイジ・ゴーレムの攻撃に対して罠カード レッドアイズ・バーンを発動し──自分フィールドの表側表示の“レッドアイズ”モンスターが戦闘・効果で破壊された場合、お互いのプレイヤーはそのモンスターの元々の攻撃力分──即ち、真紅眼の攻撃力分2400のダメージを受けるその効果を使い、この決闘を引き分けに持ち込もうとする。
 決してデュエルには勝てなくとも、──それでも、優介を助け出して皆をダークネスから解放することが、自分にとっての勝利なのだと。
 勝利や敗北と言う言葉に背を向けた優介に向かって、そう言って吹雪は手を差し伸べて、──迷うことなく我が身を、差し出したのだった。

「──さあ、一緒に行こう、藤原。君も……ボクの掛け替えのない絆のひとり……すまなかった、だが、これからは一緒だ……」
「っ……やめろ! やめろーっ!!」
「──吹雪! 優介……!」

 ──この決闘、恐らく敗北した方は、ダークネスによって消滅する。
 優介は、ダークネスの干渉下に居るから、無事で済むかもしれないけれど、──恐らく、吹雪はその限りじゃない。
 身を挺して優介を助け出そうとする吹雪の決死の覚悟に、私は咄嗟に手を伸ばして、──しかし、決着が着いたかと思ったその瞬間、──周辺が急激に歪み、景色が遠退き──今より数ターン前、クリアー・バイス・ドラゴンが君臨していたそのフィールドへと、時が遡っていた。
 
「……え……?」
「──これが真実のラストターンなんだよ! 吹雪!」

 ──そして、クリアー・バイス・ドラゴンの更なる効果によって、優介は手札を一枚捨てることでバーストブレスの発動を無効にすると、──彼は、クリアー・バイス・ドラゴンによって吹雪を葬り去り、──ライフの尽きた吹雪は、デュエルディスクだけを残して、──その場から、消えた。
 
「……ふ、ぶき……?」
「見ただろう……? これ以上傷付く前に、お前も早く行こう、……」
「……優介、あなた……今、吹雪に何をしたの!?」
「……何、って?」
「とぼけないで! ──今、確かに吹雪はあなたに勝っていた! それなのに……!」
「ああ……青眼の白龍の加護とやらは、そんなに強力なのか? まさか、今の記憶が残っているとは……」
「答えなさい、優介! ……どうしても、私の言葉が聞けないって言うのなら……」

 ──吹雪が残したデュエルディスクを拾い、腕に装着して、──デッキケースから引き抜いた自分のデッキをセットする私を見て、優介は眉根を潜めながらも、──再び、臨戦態勢を取るのだった。
 
「──優介、決闘よ! ──私があなたの目を覚まさせる! それで、亮と吹雪と……そして、藤原優介を、私に返してもらうわ!」
「減らず口を! ──では、最後の戦いを始めようか。ダークネスこそが世界の真実……それを証明するために!」


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