175

「吹雪さんを、よくも……」
「──十代、ヨハン、下がって。優介との決着は、私が……」
「──待てよさん、一人で戦うなんて無しだぜ」
「! 十代……」
さん、俺とヨハンを恨んでないし、異世界でのことは気にしなくていいって言ったよな? ……あれが本当なら、一緒に戦ってくれ。俺たち三人で、みんなを助け出すんだ」
 
 優介と対峙して吹雪のデュエルディスクを構え、臨戦態勢に入っていた私は、自らがデュエルで優介との決着を着けるつもりで居たけれど、──他でもない十代にそう言われてしまっては、……流石に、そういう訳にもいかないか。
 先程、優介が揺さぶりの為か、私たちの心の闇を引き出すためかは不明だったけれど、私の異世界での顛末に触れたとき、……確かにヨハンは一瞬表情を曇らせて、私から目を逸らしていた。
 ──そんな気はしていたし、私はあの日から今まで一度もヨハンとは顔を合わせることも無かったけれど、──やはりヨハンは、自分の身体を使って行われた異世界での出来事に、大いなる責任を感じていて、──私がユベルにされたことは、彼自身の罪も同然であると、……そんな風に考えてしまっているのかもしれない。
 もちろん、私はヨハンに責任があるとは一切考えていないし、寧ろヨハンのその気持ちを取り除いてあげる責任が、私にはある。──と、そう思案を巡らせていたそのとき、……私の元から姿を消していたオネストが、十代の心の部屋から姿を現したのだった。
 
「! ──オネスト」
「マスター……」
「そうか……十代の中に……」
「オネスト、藤原は必ず俺が救い出す! ──デュエルで!」
「……オネスト、せっかく私を頼ってくれたのに、ずっと力になれなくてごめんなさい……でも、私はもう優介に背は向けない。──何が何でも、連れ戻す!」
「十代、……」
「ッフフフ……救い出す? 連れ戻す? 誰を? 何処から?」
「お前をだ! ダークネスなどという、まやかしの地獄から!」

 ──そうだ、このデュエルの本質は吹雪が示した通りに、優介を倒すというその結果だけに意味が在るわけじゃない。
 私たちは、──いや、私だけは絶対に、──優介のことを、助けてあげないといけないのだ。
 それが、あの日からずっと、優介との記憶を忘却の彼方へと追いやって、オネストに手を差し伸べることもなく、吹雪が敗北するのを黙って見届けて、ダークネスによって亮をも奪われてしまった──私の、責任。
 どんなことをしてでも、どんな形でも……、──私は、優介を正気に戻して、二人の元へと一緒に帰らなければならなかった。
 
「フフフフフ……勘違いするなよ、十代! ! 救い出されるのは、お前らだ!」
「何!?」
「フン……カードの精霊の戯言に耳を貸すなよ。現にはずっと自分の精霊に欺かれていただろう? 惑わされるんじゃない……」
「違う! カイバーマンは、私の為に……!」
「マスター……」
「おい……! オネストはなあ! お前を信じてこの世界にやってきたんだぞ!? 只々、お前を想って!」
「──俺は信じない、何者をも。ダークネスに身を委ねるだけ……」
「──十代、俺も戦うぜ!」
「……うん」
「良いだろう! 三人纏めて、ダークネスの世界に案内してやろう……ルールは四つ巴のバトルロワイヤル方式! 幾らでも協力して、かかってこい」

「──決闘!」

 ──そうして、幕を開けたバトルロワイヤルルールでの決闘──バトルロワイヤル方式とは言っても、此方には結託して優介と戦う理由があり、それが分かり切っているこの状況で、実質的に三対一になる勝負を優介の方から提案してきたというのは、──幾ら彼に自信があるのだとしても、些か奇妙だ。
 ──恐らく、このデュエル、優介には何か思惑と明確な勝機があると考えて、慎重に戦局を見極めるべきだろう。

「──先攻は俺、ドロー! クリアー・ファントムを攻撃表示で召喚。この一巡目、バトルロワイヤルルールによって攻撃は出来ない。カードを2枚伏せて、ターンを終了」
「──私のターン! ドロー! 私は手札から、青眼の亜白龍の効果発動! 手札の青眼の白龍を公開し、青眼の亜白龍を特殊召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンド!」
「……フッ、お決まりの初動だな、! まるで変わり映えのないデュエルだ!」
「あら、私のデュエルが久しぶりに見られて、懐かしくて嬉しいのね? それは良かったわ」
「チッ……」
「俺のターン、ドロー! 宝玉獣 エメラルド・タートルを守備表示で召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー! E・HERO ワイルドマン召喚! カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 バトルロワイヤルルールにより、最初の1ターン目は、全員攻撃できない。
 つまり、この決闘における戦局が動くのは二巡目──次の優介のターンからだ。

「──フッ、記憶に縋らなければ前に進めない愚か者ども。儚い思い出と共に、消し去ってやる。俺のターン、ドロー! ──フィールド魔法、クリアー・ワールドを発動する!」

 そのカードが発動された瞬間、闇夜には黒い水晶が浮かび上がり、日食ですっかり太陽が覆い隠された空には、結晶から微かな光が零れる。
 そして、発動されたクリアー・ワールドの効果により、地属性のワイルドマンを操る十代は、エンドフェイズ時にモンスター1体を破壊されるネガティブエフェクトを、水属性のエメラルド・タートルを操るヨハンは、エンドフェイズ時に手札を1枚捨てなければならない効果を、それぞれが受けるのだった。
 そして、──光属性のカード、青眼の亜白龍を操る、私は──。

「光属性のモンスターを操る、お前は手札を全て公開し続けなければならない」
「……っ」
「手札を公開……!?」
さんのデッキは、光属性デッキ……! このデュエル、さんはずっと手札を公開しなきゃならないってことかよ!?」
「──さあ、手札を公開しろ! !」
「……私の手札は、ドラゴン・目覚めの旋律と、光の導き、そして、青眼の白龍よ……」
「フッ、無様だな、? ──そして! 俺はクリアー・レイジ・ゴーレムを召喚! クリアー・ファントム、クリアー・レイジ・ゴーレムは共に表側表示の時、属性を持たない。──よって、クリアー・ワールドのネガティブエフェクトは、干渉しない。──クリアー・ファントムで、ワイルドマンを攻撃!」
「──馬鹿な!? ワイルドマンの方が攻撃力は上だぞ!?」
「クリーン・キル!」

 私の手札を確認した後で、優介は攻撃力1200のクリアー・ファントムで、攻撃力1500のワイルドマンへと攻撃を行う。
 当然ながら、クリアー・ファントムはワイルドマンによって返り討ちに遭い、優介のライフは300減少するが──間違いなく、その行動は何らかの算段があってのことだろう。

「どういうつもりだ……!?」
「──クリアー・ファントムの効果が発動。戦闘で破壊され、墓地へ送られたとき、相手モンスター1体を破壊する」
「何!?」
「更にデッキの上から、カードを3枚墓地へ送ってもらう! これでお前の場にモンスターは居ない。──クリアー・レイジ・ゴーレムで、十代にダイレクトアタック! クリーン・クルーティー!」
「くっ……!」
「このモンスターがダイレクトアタックに成功した時、相手の手札1枚につき、300ポイントの追加ダメージを与える」
「そうか、これが狙い……!」
「──リバースカードオープン! ヒーロー見参!」

 クリアー・レイジ・ゴーレムの攻撃力は1600、そして十代の手札は3枚で、この攻撃が通れば十代には合計2500のダメージが通ってしまう。
 ──しかし、十代はカウンターでヒーロー見参を発動することにより、反撃を試みるのだった。
 ヒーロー見参は、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる罠カード。自分の手札1枚を相手にランダムで選ばせて、それがモンスターだった場合は自分フィールドに特殊召喚し、違った場合は墓地へ送る。
 そして、十代は1/3の賭けに勝ち、優介の選んだカード──クレイマンを守備表示で召喚することで、クリアー・レイジ・ゴーレムの攻撃を防いだ。

「──リバースカードオープン! トラップ・ストラップ!」
 
 そして、更にヨハンが十代の動きに合わせて、場に伏せていた罠カード トラップ・ストラップを発動する。
 トラップ・ストラップ──相手が罠カードを発動した時に発動できる罠カード。発動後、相手の場にある罠カードは墓地へ送らずそのまま再セットされるという、本来ならば敵に塩を送る形になるハンデを、バトルロワイヤルルール──相手方に味方がいるというこの状況にてヨハンは逆手に取り、十代のアドバンテージへと変えたのだ。
 トラップ・ストラップの発動後、ヨハンは自分のデッキから“宝玉獣”と名のついたモンスター1体を特殊召喚出来る。その効果により、更にヨハンはサファイア・ペガサスを特殊召喚する。

「──クリアー・ワールドの効果発動!」

 サファイア・ペガサスは風属性──これにより、ヨハンは更に魔法カードを発動できないというネガティブエフェクトを受けてしまった。
 クリアー・ワールド──吹雪も苦戦したこのフィールド魔法は、本当に厄介なカードだ。
 ヨハンや十代のような属性混合デッキでは、複数のネガティブエフェクトを一度に受けてしまうリスクがあるが、それと同時に、モンスターを場から退けることさえ出来れば、効果を打ち消すことが可能でもある。
 しかし、私のように属性が統一されたデッキでは、クリアー・ワールドを打ち破るのは難しい。──よりにもよって、光属性は手札公開と言う戦略上の不利を負わされてしまった。
 私のデッキには闇属性モンスター──ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンもいるけれど、手札公開の影響で召喚前に思惑を見破られてしまうのが目に見えている上に、闇属性のネガティブエフェクトは、吹雪も苦戦していた攻撃封じである。
 猛攻型の私のデッキで攻撃を封じられるのは流石に痛い、──出来る限りは、光属性モンスターのみで応戦するべきだろう。
 ヨハンの場にサファイア・ペガサスが召喚されたことにより、クリアー・レイジ・ゴーレムが攻撃力で勝るモンスターがフィールドにはおらず、──このターン、優介はバトルでは場のモンスターを戦闘破壊することが叶わなかった。
 よってバトルフェイズを終了し、優介は続けて永続魔法 クリアー・ウォールを発動したところでターンを終えるが、──これで、次のターンに三人のうちの誰かがクリアー・レイジ・ゴーレムを破壊できれば、少し戦況は楽になる。

「私のターン! ドロー!」
「ネガティブエフェクトにより、引いた手札を公開してもらおうか、凛」
「……私が引いたのは、深淵の青眼龍……更に、ドラゴン・目覚めの旋律の効果発動! 深淵の青眼龍を墓地に送り、デッキから青眼の白龍とブルーアイズ・ジェット・ドラゴンを手札に加えるわ。──青眼の亜白龍で、クリアー・レイジ・ゴーレムを攻撃! 滅びのバーンストリーム!」
「リーバスカード、オープン! 威嚇する咆哮! このターン、凛、お前は攻撃できない!」
「く……! 私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 ──しかし、流石に優介は、この場で攻撃力の最も高いモンスターを操る私を易々と動かせる気は無いようで、恐らくは私用のケアとして伏せられていたらしい威嚇する咆哮でバトルフェイズは強制終了されてしまう。
 私のターンでクリアー・レイジ・ゴーレムを破壊できれば良かったものの、──残念ながら、破壊はヨハンのターンに持ち越しだ。

「? 優介……?」
「……なんだよ、何見てんだよ」
「──お前の、真実をだ!」
「──ヨハン! 気を付けろ! こいつは、俺達の心を読む力を持っている!」
「……ああ、分かってる……」
「フフフ……そうだろう、抗うことは出来まい……! これはお前の意志! 俺がお前の心を覗く! 同時にお前も、俺の目からダークネスの世界を覗いているのだ!」

 ──しかし、ターンを終えた直後に黙り込んでじいっとヨハンを見つめていた優介は、一体何をしているのかと思えば、どうやら、十代とヨハンのコンビネーションを目の当たりにしたことにより、それを脅威と捉え、二人の絆を断とうと考えて、ヨハンへと精神干渉を仕掛けていたらしい。
 優介の言葉を受けて呆然と立ち尽くすヨハンは一体何を見たのか、十代の呼びかけにも応じず、当然ながら私の声も届かない。
 尚も私と十代はヨハンへ声を掛け続けるものの、──残念ながら、ヨハンに語り掛けているのは、優介も同様である。

「──ヨハン!」
「ヨハン! しっかりして!」
「お前は遊城十代とよく似ている……それ故にお前たち二人の力が合わさったとき、奇跡にも似た力を発揮することが出来た……だが、似ていれば似ているほど、その存在を否定したくなるのは当然。いつしかお前の心に、十代との決着を望む心が芽生える。太陽を食らおうとする月のように……」
「……っ」
「ヨハン、しっかりしろ! 聞くんじゃない! 奴の言葉を!」
「無駄だ! 俺はヨハンの心に語り掛けているのだ……お前こそ、真実に耳を塞ぐな!」
「……っ、ヨハン!」
「俺は……俺は……!」
「──ヨハン! お前の望みを、俺は叶えてあげられる! 俺がこの戦いを、何故四つ巴にしたか分かるか? ……ヨハン、お前を勝たせてあげられるからだ、十代に!」
「……このデュエルは、俺の為に……?」
「──そうだ! 十代を倒すのは俺じゃない、ヨハン、お前にこそ、その権利はある! ……さあ、戦って良いんだよ。十代に、勝て! 倒せ! 食らい付け!」
「……俺は、十代に……十代に勝ちたい!」
「ヨハン!?」
「……フッ」
「……優介……!」

 ──ああ、やっぱりそういうこと。
 バトルロワイヤルというルールを持ちかけられた時点で、優介には何かしらの思惑があるのだろうと、そう思ってはいたけれど、──どうやら彼は最初からこれを、──十代とヨハンを争わせる展開を、狙っていたらしい。
 このままクリアー・レイジ・ゴーレムを破壊すれば、戦況は私たちに傾くと言うのに、──なんとヨハンはアメジスト・キャットを召喚し、その効果を使って十代へとダイレクトアタックを仕掛けようとするものだから、──流石に、黙ってそれを見過ごすわけにも行かずに、私は優介に未だ知られていない、伏せカードの内の一枚を発動する。

「──リバースカードオープン! 攻撃誘導アーマー、発動!」
「何……!?」
「自分または相手のモンスターの攻撃宣言時に、その攻撃モンスターを破壊する! アメジスト・キャット、破壊!」
「く……!」
さん……!」
「──十代! こうなったら仕方がない……何に変えても、私があなたを守る!」
「……っ」
「しゃんとしなさい、十代! ──相手が親友だろうと、戦わなきゃいけないの! ……私だって、それは同じなのよ!」

 攻撃誘導アーマーの効果は、任意選択式──本当は、攻撃対象を移し替えて、他のモンスターと強制戦闘を行うことも出来るから、青眼の亜白龍に攻撃対象を移し替えてもよかったし、元はと言えばその使い方で、十代とヨハンを優介の攻撃から庇うために伏せていたカードだったけれど──今此処でその使い方をしたのでは、ヨハンのライフを大幅に削ることとなってしまう。
 敗北が死のリスクをも孕むこのデュエルで、……如何に敵に回ったとは言えども、無意味にヨハンのライフを削ることは出来ない。
 ──こうなったら、ヨハンを牽制しながら十代を守り、何としてでも、優介のライフを十代と私のふたりで削り切るしか……!
 
「……ああ、分かってる……! だがヨハン、どうしてお前が……!」
「フフフ……心に一点の影も無いものなどいない……その陰に、やがて不安と恐れが付け入る。未知なる未来への恐怖に身悶え、絶望し、やがてゼロを求め始める……戦いから降りることを欲する。──お前らの仲間たちのように!」
「……俺は……俺は、負けたくない……!」
「こいつも例外ではなかったようだな……お前に勝つことを望んでは居ても、闇に、影に、不安が巣食い、絶望が纏わり付く。──人はねえ、しょうがないんだよ。考えることを辞められない生き物だから……だからこそダークネスの世界はある……十代、ヨハンを楽にしてあげたらどうだ?」

 苦しみながらその場に崩れ落ちるヨハンは、──何もこの場で、十代を攻撃したかった訳ではない筈だ。
 だが、親友だから、ライバルだからこそ──何よりも近しい十代と言う存在に、デュエルで勝ちたい。──その感情は、私もよく知っているし、誰にだって否定など出来る筈もない。
 そして、優介がその一点を突いてヨハンの心の闇を引き出せると確信したのは、──きっと、身近にそのサンプルがあったからだと、私はそう気付いてしまった。
 ──そうだ、優介は、──先程からずっと、彼が見て感じて実際に体験した物事を、事実に基付いて語っているに過ぎない。
 ダークネスの理想と言う常人の感性とかけ離れた領域にある思想を語りながらも、──その実で彼の語る言葉は、……常に、地に足を着けている。
 だとすれば、──優介が語る言葉は、客観的な見解、ダークネスによって得られた天啓などではなく、元から存在した優介の主観であり──そのすべてが、彼の、彼自身の──。

「──優介、あなたもそうだったの?」
「は……? 一体、何を言って……」
「あなたも、……不安だった? 苦しかった? 考えるのを辞められなくて……未来への恐怖に怯えていたの……?」
「……何を言っている? ! 俺はダークネスと一体になることで、全てを克服し、超越者となったのだ!」
「だったら、──どうして、私に攻撃してこないのよ。手札も晒されて、抵抗なんて初動で仕込んだ伏せカードくらいしか許されない……それも、今、十代の為に1枚を使ってしまったわ。……大体、あなたは私のデッキも戦略もよく知っている……このデュエル、手札なんて晒さなくても、……ずっと急所を晒し続けているのは、ヨハンや十代じゃなくて、私なのよ」
「……何が言いたい、?」
「……いや、俺には分かるぜ、藤原。──お前、さんなら自分の味方になってくれるとそう思って、バトルロワイヤルに彼女を誘ったんじゃないのか? ……さんを敵に数えていないからこそ、さんに攻撃しないんだろ、お前は」

 ──十代の放ったその言葉に、優介の表情が凍り付くのを、確かに私は見た。
 そうだ、──ずっと、可笑しいと思っていた。
 優介が真っ先に十代へと攻撃したことも、相手モンスターを確実に破壊できるクリアー・ファントムの効果を、攻撃力が高い青眼の亜白龍を相手に切らなかったことも、──公開させた手札を捨てさせずに、握ったままにしていたことも、……卓越したデュエルタクティクスを持ちながらも、まるで非論理的な彼の行動の全てが妙で、不可解だった。
 ──連携の取れた親友同士である、十代とヨハンの絆を断ち切らせるよりも先に、三人の中で一番コンビネーションが取れない筈の私の行動を阻害する方が、余程簡単だったはず。
 精神攻撃を仕掛けるにしたって、ヨハンよりも、彼自身がよく見知っている私の方が、付け入る隙だって多かった筈だ。
 ──それでも、私を真っ先に潰したり、自分の側に付けようと精神操作を試みなかった理由は、──もしかして、とそう思い願いながらも、当事者であるからこそ、この状況で自惚れるほどの自信がなくて、私には断言できなかったその言葉を、──十代は冷静な口調で、優介へと突き付ける。

「藤原、……お前は自分でも自覚できていないだけで、……今だって、さんだけは自分の味方だと、……そう信じている、そう信じたいんじゃないのか?」


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