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「──藤原! !」
「……う、うん……」
「二人とも、大丈夫か!?」
「……ふ、ぶき……?」

 ──聞き慣れた声に名前を呼ばれて意識を取り戻したとき、力の抜けた指先にぎゅっと懸命に力を込めてみると、意識を失っている間も私の手は、隣に倒れていた優介のてのひらを必死で握り締めていたようで、──ああ、絶対に二度と離すまいと、意識を手放す直前の私は余程そう思っていたのだなあと思って、その執念が自分でもよく分かったものだから、なんだか少しだけ可笑しくて、笑ってしまった。
 そんな風に、吹雪に支えられながら起き上がったときに、私が自然と笑えたのは、──私たちが気を失っている間に十代がダークネスと決着を付けてくれたのだと、暗闇の中で確かにその戦いを見届けて、此度の結末を知っていたから、だった。

「十代……」

 ──私は今回も、碌に先輩らしいことをしてあげられずに、……また、彼に助けられてしまったなあ。
 遊城十代、──正しき闇の担い手として、彼の戦いはきっとこれからも続く。
 その旅路は、時に孤独で険しいものになるのかも知れなくて、これからデュエルアカデミアを巣立つ彼に、──それでも私は、やはり幾許かでも力になってあげたいと思うのだ。
 だって私は、彼の先輩だし、何よりも十代には、何度も助けられてしまった。……そしてこれからも、きっと彼はヒーローとして、皆を助け導こうとするのだろうから。
 ──でも、今は、ダークネスを退けて再会を喜ぶ級友たちに十代が囲まれている今は、……先輩である自分たちが我先にと押し退けて彼に駆け寄るのは、少し無粋か。

「──藤原、大丈夫かい? 立てるか?」
「あ、ああ……」
「無理はしない方がいい、……君はもう何年も、ダークネスに取り込まれていたんだから……一度、保健室で鮎川先生に見てもらおう」
「ありがとう、吹雪……」
、君も怪我をしているんだろう? 藤原と一緒に保健室に……」
「……そうだ、……俺はお前に、思い切り攻撃を……痛かったよな……? 本当にごめん……」
「いえ、このくらい大したことないわ、そんなことより優介を保健室に、……それに……」

 それに、──亮は? ……そうだ、姿が見えないけれど、亮は何処に居るの……?
 ──この場には、優介と吹雪、ヨハン、翔くんや明日香、準、レイちゃん──他の生徒も皆が揃っている様子だったけれど、きょろきょろと辺りを見渡してみても亮の姿が見当たらなくて、……ダークネスの侵攻時、職員寮で充てがわれた彼の病室で亮は消えたのだから、順当に考えれば部屋に戻っているのだろうか?
 ……早く、亮がちゃんと戻ってこられたのかを確認しないと、……だって、亮の無事を確かめるまで、私は……。

「……私、行かなきゃ」
「行く? 何処に?」
「亮が見当たらないの……きっと部屋にいるから、無事を確認しないと……だってあいつ、まだ身体の自由が効かないのに……私が居ないのに気付いたら、這ってでも私を探そうとするに決まってるもの……」

 ──けれど、亮の元に戻るとそう溢しながら、どうにかその場から立ち上がって、──はた、と私は一瞬固まってしまう。
 ……果たして、このまま優介を此処に置いて、亮の元に向かってしまっても大丈夫なのだろうか、と。
 何も優介を疑うつもりはないけれど、……でも、それでも、数年間行方不明だった彼から目を離すのは不安で、かといって、亮を放っておくわけにも、衰弱しきっている優介を連れて亮の元まで走って行くわけにもいかないし、──と、そんなことを考えてその場で躊躇し立ち竦んでいたら、……恐らく、優介自身にその葛藤を見破られてしまっていたようで、……彼は困ったように笑いながら、私の背をそっと押すのだった。

「……大丈夫だよ、。……丸藤のところに、行ってやってくれ」
「……優介、でも……」
「何も、そんなことでお前を恨んだりしない。……俺は、吹雪に付き添ってもらって保健室に行くから平気だ、……だから……」
「……そうだよ、。行っておいで、……ああ、でも、君だって傷付いているのは同じなんだから、亮のところに戻ってから、二人で保健室に来るんだよ? 其処で、もう一度落ち合おう」
「……分かった! ありがとう、吹雪……優介を頼むわね! ──優介! すぐに戻るから!」
「もちろん! ……気を付けてね、!」
「慌てて走って、転ぶなよ!? !」

 ──その手を離すのは、やっぱり、少し不安だったけれど。
 不器用に笑って指先を解き、優しく背を押してくれた優介に向かって必死で手を振り、吹雪に後を任せて、──私は弾かれたようにその場から駆け出して、職員寮の方角へと走る。
 当然ながら、先程のデュエルにて受けたダメージで身体中のあちこちが痛むし、正直に言えば、私だって今すぐにでも保健室のベッドで横になりたかったけれど、──でも、今は何よりも、無事を確認したいあいつのことが最優先だ。

「──亮!」
「! 、無事だったか……!」
「それはこっちの台詞よ! 毎回毎回、心配させて……! ──ちょっと! 無理に起き上がろうとしないの!」
「すまん、今の俺にはデッキが無いから、抵抗も碌に敵わなくてな……」
「……じゃあ、何もあなたは、未来に絶望してダークネスに呑まれていた訳じゃないのよね? ……只、デュエルが出来ないから、ダークネスにも抵抗出来なかっただけなのね……?」
「? それは当然だろう? お前と翔と共に未来を見据えている今、不安に思うことなど、何かあるのか……?」
「……もー! ほんっとにあなたって、そういうところ!」

 職員寮の亮の病室に辿り着いて勢いよく扉を開け放つと、ベッドの上に座っていた亮は案の定、私を探しに行こうとしていたようで、どうにか立ち上がって部屋を出ようとする亮をベッドに押し戻しながらも、きょとんとした表情で不思議そうにそう言い放つ亮に、──もう、どうしたって安堵が溢れ出して泣きそうで、寝台に思いっきりダイブするように彼の元に飛び込んでぎゅうっと亮を抱き締める私を受け止めながらも、──彼はまだ事態がよく飲み込めていない様子で、少し不思議そうな顔をして、私を見つめている。
 ──翔くんが、深層心理下で未来に不安を抱いていると、優介からそう突きつけられた時、──本当は、私だって、少し自信を失くしてしまっていたのだ。
 だって、もしも翔くんと同じように、……亮が、この先の未来に希望を感じることが出来ずにいるとしたら?
 只、私の我儘に付き合って、必死に未来を見据えた結果が、新たなプロリーグを作ると言うその夢だったなら、どうしよう、と。
 彼と共に歩む未来に、無限の希望を抱いているのが私だけだったなら、一体どうしようかとそう思っていたのに、──この分だと、そんなのは、只の杞憂だったみたい。
 ……そうよね、あなたって昔からずっとそういう奴で、……私はあなたの、常に前だけ見据えているところが、ずっとずっと大好きなんだもの。

「──言っておくけれど……私と翔くんだけじゃないわよ? あなたの未来に居るのは……」
「? どういう意味だ? ……?」
「優介が帰ってきたの! 藤原優介よ! 分かるわよね!?」
「藤原……藤原だと? まさか、本当に……? あいつ、一体今まで何処に行っていたんだ……!?」
「優介のこと、ちゃんと覚えてるのね!? ──亮ったら! もう! 大好きよ! 亮!」
「おい、どうした……? ……順を追って、落ち着いて説明してくれないか……?」
「あのね、……あなたに話したいこと、たくさんあるのよ! まずはね……!」

 ──どうやら、亮はダークネスに取り込まれている間も、完全に意識を失っていたわけでは無かったらしいけれど、──それでも、現実世界で起きたことを全て把握できている訳でもない様子で。
 それで私は、──ダークネスに優介が取り込まれていたことと、ダークネスの使者として現れた彼が吹雪と、そして私や十代とヨハンとも戦ったこと、優介が帰ってきてくれたこと、ダークネスは十代に斃されたことを一気に話して、──デュエルのことになると異常に頭の回転が早い、私の愛しの宿敵は、案の定ですんなり事情を理解してくれたけれど、──しかし、冷静に話を聞いていた亮はその辺りで、「──待て、。お前手足に傷があるが、……まさかとは思うが……」──と、じとりと険しい目で、私の無茶と無謀を咎め始めたものだから、──私はその追求を必死で誤魔化しながらも、亮を車椅子に乗せてやってから、私の傷の手当てと休養、──そして何よりも、感動の再会のために、亮を連れて保健室へと向かうことにしたのだった。
 ──まあ、保健室に着くなり親友たちの口から、今回の私の蛮勇を全て、亮に密告されてしまったのだけれど。

 
 ──そうして、そんな美しい黎明の日から少しの日々が過ぎ、あっという間に吹雪たちが卒業する日はやってきた。
 亮は相変わらず車椅子に乗っているけれど、私と彼も大分体調が戻ってきて、今日は卒業パーティーへとお呼ばれしているから、車椅子に座る亮のネクタイを締めてやっていると、……亮は少し驚いた様子で、私を見上げている。

「──、俺のスーツなど、いつの間に持ってきていたんだ……? これは、俺の自宅に置いてあったものだろう?」
「ああ……吹雪からね、卒業パーティーには絶対に出席してくれって言われてたのよ。だから持ってきたの」
「……まさか、その為だけに俺の家に?」
「ええ。……だって、吹雪のことだもの……自分たちで用意しておかないと、またドレスやらタキシードやら用意されるわよ? 今回は私たち、来賓であって主役じゃないって言うのに……」
「……確かに、吹雪ならやりかねんか……流石に今回ばかりは、それは避けたいな……」
「でしょう? ……あなたがそんな格好で出席したら、目立って仕方ないわよ。……只でさえ、こんなシンプルなスーツでも様になるんだから……」
「…………」
「……なに? どうしたのよ、変な顔して」
「いや……珍しいと思ってな……が、そうして俺の見てくれを褒めるのは……」
「そう? ……プロ入り後に、あなたが時々このスーツを着るようになった頃から、よく似合ってると思ってたわよ? ……でも、清濁合わせ飲んだ今だからかしら? なんだか、あの頃よりも余計に格好良く見えるわね」
「……そ、そうか……?」
「ええ。白も黒も良かったけれど……結構似合ってるじゃない、グレーも。……ねえ、リーグの代表として人前に立つようになったら、似た色味で新しいスーツを仕立てましょうよ?」
「……ああ、そうだな……お前がそう言うのなら、それも悪くない」

 ──確かに、言われてみればよくもまあ、普段から言い慣れていないような甘ったるい賛辞が出てきたものだと自分でも思ったけれど、──いつの間にか、まるで気恥ずかしさを覚えることもなく、亮に向かってこんな言葉を吐けるようになっていた自分の変わりようには、私が一番驚いていたものの、……まあ、亮だって私に褒められるのは満更でもない様子で、……亮はなんだか少し得意げにしていて、可愛かったな。
 既にデュエルアカデミアの卒業生である私たちは、卒業式に出席することもないけれど、──その代わりに、オベリスクブルーの主催で今年も行われる卒業記念パーティーには来賓として招かれていて、仮にもデュエルアカデミア本校の主席卒業生でプロデュエリストである私たちが、普段着のままでそんな席に参加する訳には行かないだろうとそう思い、今日のためにと事前に私は、亮の自宅まで彼のスーツを取りに行っていたのだ。
 ライトグレーの生地で誂えられたシンプルなスーツは相変わらず亮によく似合っていて、……プロ入り直後だって本当は、亮がスーツに袖を通しているのを見る度に見惚れていたけれど、……あの頃の私は全然素直じゃなかったし、甘え下手だったから、今にして思えば賛辞の一言だって、亮には言ったことがなかったかも知れないなとそう思う。
 ──でも今の私は、こんなにも流暢に口説き文句みたいな言葉が言えるようになってしまったので、黒いコートを見慣れた分だけ身に付ける機会も減ったスーツ姿を、此処ぞとばかりに褒めちぎっておく。……だって、こうしてその気にさせておけば、何度でも見られるかもしれないものね。
 そして私も、アカデミアへと滞在するようになってからも度々プロリーグや海馬コーポレーションに顔を出していたから、そのときに着る為に持ってきていたスーツを身に纏い、仮にも卒業生として恥ずかしくないように身なりを整えて、二人で来賓としてお呼ばれすることにしたのだった。
 ──そうでもしないと、吹雪のことだからきっと、私たちの分まで派手な衣装を用意するに違いないと、そう事前に見通しを立てられる程に、以前にも増して理解の及んだ我らの親友は、──まあ、案の定、歌劇団も顔負けの華やかな衣装で兄妹揃ってパーティー会場へと登場したものだから、……私たちの卒業式のときには、まだ手加減されていたのだなあとそう思えばこそ、亮と二人で顔を見合わせて笑ってしまったけれど。

「──吹雪! 明日香! 卒業おめでとう!」
さん! 亮! 二人とも、身体はもう平気なの?」
「ああ、心配掛けたな」
「なんだい君たち? その地味な格好は……やっぱり、僕が正装を用意した方が良かったんじゃないか?」
「あのねえ……私たちは今日の主役じゃないし、亮は車椅子なのよ、見たら分かるでしょ?」
「吹雪が作るような服では、嵩張って車椅子にも座れないからな……」
「確かに、それも言えてるわね」
「いやいや、言い過ぎだって! 僕だって加減くらいするよ!?」
「でも、明日香のドレスは素敵だわ! ふふ、明日香は赤も似合うのね、……なんだか少しだけ、意味深な気もするけれど……? どうなの? お兄さん?」
「うん? ……何がかなぁ? ?」
「ちょ……ちょっと、さん……!?」

 オベリスクブルーの青を基調にした王子服──らしき吹雪の衣装は彼にぴったりだけれど、明日香のために鮮やかな赤で仕立てられたお姫様みたいなドレスは、──もしかしなくても、特定の“誰か”を意識して吹雪が選んだ色なんじゃないかと、そう思ってしまったのは、……流石に私も、吹雪の恋愛脳に影響されすぎ、亮のことが好きすぎて大概おかしくなっているのかも知れないなあと、……少しだけ、そう思った。
 ──でも、そんな風にあるのかもわからない吹雪の思惑は横に置くとしても、やっぱり明日香のドレス姿は本当に綺麗で、可愛くて仕方ない妹分である彼女の晴れ姿にひとしきり私ははしゃいで、明日香と二人で並んでいるところや、それから亮や吹雪とのツーショットを翔くんにカメラで撮って貰ったりしていたけれど、──ふと、ホールの隅でこっそりとこちらの様子を伺っている白い制服を見付けて、──私は亮の車椅子から手を離し翔くんに預けると、「──ごめん、すぐに戻るから!」と、──彼らにそう断って、その場から駆け出すのだった。

「──優介!」
「! ……」
「どうしたの、こんな隅で……みんな、向こうで集まってるわよ?」
「あ……そ、その、……今日が最後だから、皆に謝りたくて、顔を出そうと思ったんだけど……」
「……声、掛けづらくなっちゃった?」
「……うん。俺が顔を出しても、水を差すだけだろうし……」

 ホールの隅で皆に声をかける隙を伺っていたらしい優介は、ダークネスの一件の後から、しばらくは検査も兼ねて保健室での静養を送っており、私は何度か彼のお見舞いに顔を出していたけれど、──それでも、私と亮、そして吹雪以外の皆の前に優介が姿を見せたのは、あの日以来、今日が初めてのことだった。
 どうやら、優介は既に保健室での療養を終えてブルー寮に宛てがわれた自室へと戻れた様子だけれど、──やっぱり、あんなことがあったばかりだし、長期間デュエルアカデミアから姿を消していた彼にとっては、見知らぬ生徒たちが笑い合うこの卒業パーティーの場は、些か居心地が悪いらしい。
 ……でも、今日を逃せば卒業生である彼らに謝罪と感謝を伝えるチャンスはもう無いから、彼なりに勇気を出してこの場を訪れたのだろうけれど、──どうにも、最後の一歩がなかなか踏み出せなかったらしい彼の手を私がそっと掴み取ると、……優介は少し不安そうな目で、私を見つめるのだった。

「……優介、気持ちは分かるけれど……タイミングを逃したデュエリストに、勝機は巡ってこないのよ!」
「……へ?」
「ほら、行きましょう! ──皆、あなたのことを待ってるから!」
「ちょ……ま、待ってくれ、……!」

 ──待って、だとか、心の準備が、だとかそんなことを繰り返し唱えている優介の言葉を無視して彼の腕を引き、亮や吹雪のいる場所まで戻る私に、優介はわたわたと狼狽えながらも、……それでも、ちゃんと彼の意思で足を動かして、私に着いてきてくれる。
 私はそれがどうしようもなく嬉しくて、──やがて、皆の元まで戻ると、私はそっと優介の背を押してやるのだった。
 
「──ほら、優介」
「うん……卒業、おめでとう」
「藤原……! もう、大丈夫なのか?」
「ああ……みんな、本当にすまなかった……なんと詫びて良いか……きっと、俺が此処に居ること自体、許されることではないのだろうが……」
「……何を言ってるんだ、此処が君のいる場所さ。生徒の成長も、過ちも、全てを受け入れてくれる……それが、僕たちの母校、デュエルアカデミアじゃないか」
「……っ、ありがとう、吹雪……ありがとう、みんな……!」

 そうして、言葉に詰まりながらも、彼はどうにか皆に言いたいことを伝えられた様子で、感極まって涙声になる優介へとハンカチを差し出して、──それから、私たちは四人でホールの隅に寄ると、後輩たちが別れを惜しみながらも楽しげに語らうのを眺めていた。

「──そういや、アニキは何処ザウルス?」
「もー、十代サマったら……また遅刻なのかなあ?」
「十代の奴、最初から最後まで、本当にいい加減な奴だ……」

 ──どうやら、この席に出席していないらしい、きっと誰よりも、皆からその参加を望まれている彼は──もしかすると、もうこの学園を去ってしまったのだろうか。
 最後に彼と話しておきたかったような気もするけれど、……でも、きっと十代とはまた会えるはずだ。
 私たちがデュエリストである限り、この学舎で過ごした皆の道はいずれまた何処かで交わると、天命によって定められている。──だって、私たち四人が、そうだったから。

「──なんだか、こうして四人で集まるのも、随分と久方振りな気がするなあ……」
「ご、ごめん……俺がずっと、行方不明になっていたから……」
「いやいや、藤原だけじゃないよ! 知ってるかい? 亮なんてすごいイメチェンしてさ、少し前までは僕とまともに口も利いてくれなかったんだよ? 全く、のことばかり特別扱いしちゃってさ……」
「……特別な相手に相応の接し方をして何が悪い? 吹雪、お前は卒業生らしく、あちらで後輩たちに混ざってきたらどうだ?」
「もう、そんな意地悪言わないのよ、亮。……でも吹雪、あなただって居なくなっていたのは同じじゃない?」
「う……其処を突かれると、痛いなあ……」
「……じゃあ、だけがずっと、俺たちのことを待っていてくれたんだな……」
「え?」
「え、……な、何か違ったか……?」
「……いや、違わないな。……きっと俺は、が今夜此処に居なければ、こうして吹雪や藤原と話をしていなかった筈だ」
「……流石に大袈裟じゃない? 亮……」
「いやいや、大袈裟なんかじゃないよ! ──昔からずっと、は、僕たちを繋いでくれる存在だったじゃないか!」

 ──なんだか、そんな風に言われると少し誇張しすぎている気がするし、責任重大だし、変にプレッシャーを感じてしまうのだけれど、──でも、正直に言えば、ぜんぜん、悪い気はしないな。
 亮に、優介に、吹雪にそう言われると、……もしかすると私にも、彼らを繋ぐ役割くらいは果たせていたのかもしれないと、……いとおしいその夜、ほんの少しだけ、私は誇らしく思ってしまったのだ。


「──よーし! 今夜は朝まで騒ごうか! 三人とも!」
「いや……俺たちは適当なところで部屋に戻って休むぞ……?」
「あ、俺も……」
「なんだい、亮も藤原も付き合いが悪いなあ……!?」
「何言ってるのよ吹雪……二人とも病み上がりなのよ? 朝まで馬鹿騒ぎなんて、私が許可しないわよ。文句があるなら、私を倒してから言いなさい」
……、言っておくが、病み上がりなのはお前もだぞ……?」
「そうだ、……もう傷は痛まないか? あのときは、俺も加減が出来なくて……」
「平気よ! 優介、相変わらず強くて私も必死だったけれど……久々に優介とデュエルができて、嬉しかったくらいだもの!」
「ほう……俺も、新しいデッキが完成したら久々に藤原と一戦交えたいな……頼めるか? 藤原」
「あ、ちょっと! 優介とデュエルするのも、亮の新デッキと最初にやるのも、どっちも私が先だからね!?」
「……相変わらず、デュエルが好きなんだね、二人とも……」
「? 当然だろう? デュエリストなら」
「ええ、当然よね? デュエリストだもの」
「──そういうことなら、またナイトスタジアムを抑えられないか、今から鮫島校長に交渉してこようか!?」
「だーかーら! 今日はダメだってば! 吹雪以外は全員本調子じゃないの!」
「そんなに焦らずとも……これから、いくらでも時間はあるだろう? 吹雪」
「……ああ、そうだね……そうだった! あはは、なんだか夢みたいだなあ……!」
「……夢じゃないよ、吹雪。……三人ともありがとう、……こんなに嬉しい未来があるなんて、俺は、思ってもみなかった……」
「優介こそ大袈裟なんだから……ね? 未来は幾らでも、広がっていたでしょう?」
「……うん。ありがとう、……」


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