まったくもって報われないぜ

 とは、同郷の出身で、生まれた頃からの付き合いだった。いわゆる、幼馴染、として生まれ育って、自分は彼女が自分から離れていくことなど、一度も考えたことがなかったように思う。ずっと昔から、自分のそばにいてくれた。自分にとって、一心同体とも言えた彼女は、やがて、鬼の襲来により故郷が滅んでからも、……あずまの地のたった二人の生き残りとして、自分のそばにいてくれた。それからは、二人で生き残るために、必死に生きてきて、生きるためにモノノフになり、やがて、ウタカタの里へと配属されたときだって、自分と彼女はずっと一緒で、ウタカタでモノノフとしての頭角を表したのも同時で、二人で一人、モノノフ部隊の隊長になって、……きっと、がいなければ、自分には隊長の任など務まらなかったと思う。腕っぷしばかりの自分とは違い、は指揮を取ったり書類仕事をしたり、ということにも長けていたし、……思えば、自分はそんな幾許かに、“は自分とは違う人間なのだ”という事実を突きつけられたような気分に、なっていたのだ。だから、彼女に支えられることは嬉しく、同時に、……少しだけ、嫌だった。
 ……腕が立ち、器量もよく、愛嬌もある彼女は、たちまち里で評判の女性になっていった。に惹かれて、彼女と親しくなろうと試みる男は、息吹以外にも、本当に跡を絶たなかったけれど。……自分は、そんな彼等に対して、にちょっかいを出すな、と念押しして、牽制して、……ああ、本当は、そんなの、流石に過保護がすぎるという自覚くらいは、自分にもあったのだ。自分のそれは、の成長を妨げる、と桜花やお頭から注意されたことも、何度もあって。……それでも、認められなかった。が自分から離れていくこと、自分の知らない世界を知ること、……自分以外の誰かと、生きていくことなんて、耐えられなかった。

「……、相談があるの」
「……なに?」
「……私、その、ね? ……百鬼隊のね、参番隊に、入ろうかと思ってる、の……」

 ……でもさあ、分かってたよ。相馬がウタカタを訪れたその日から、なんとなく、こんな日がいつか来ることを、自分は知っていた気がする。あの日、を見つめる相馬の瞳が、熱を帯びていたことには、気付いていた。相馬と話している時のが、いつもよりも楽しそうなことにも気付いていた。「……相馬、初対面のときに、私達のこと、変な風に言ってたよね……?」もじもじと、落ち込んだ素振りで繰り返された、片割れのその言葉の奥にあった意味に気づかないほど、自分も、流石に其処まで愚鈍ではなくて。……分かっていたのだ、本当は。自分が、どれほど彼女に側にいてほしいと願って、彼女もその気持ちだったとしても、きっと。……は、自らの成長を目指すだろう、ということも。自分から巣立った一歩先、には、……相馬がいるのであろうことも、本当は、分かってたんだよ。

「……そう、だろうな、とは思ってた」
「……ごめん、私も、ウタカタの隊長なのに……」
「いいよ。……正直、相馬にを譲るのは、悔しいけど」
「……え」
「……でも、の強くなりたいという気持ちを、邪魔したくないんだ」

 そんな言葉、強がりだった、そうでしかなかった。本当は、何処にも行ってほしくなかった。のことはずっと、自分が護ってきたんだから、……これからも、それでいいじゃないか、と。そう、思ったけれど。

「……あのね? 私は、あなたの為に強くなりたい、と思ったんだよ」
「……?」
「いつも私を護ってくれたあなたを、私も守りたい。そのためには、今のままじゃ、だめなの。……相馬のところに行けば、それが掴める気がする」
「…………」
「……あの、あとね、これは、あなたにだけ教えるけれど、相馬には内緒だからね?」
「……うん」
「……あの、私ね、……相馬のことが心配なの。ひとりだと、あいつすぐに格好つけて無茶するから……傍で、支えたいと思ったの。な、内緒ね!?」
「……そっか。分かった。……行っておいで、
「……ありがとう。行ってくるね」
「うん。……気を付けてね」

 ……自分は少し、彼女の前で、格好を付けすぎてしまったのかもしれない。これは、「あなたからは目を離せない!」……と、そう、思わせられなかった、自分の負けだったのだ。 inserted by FC2 system


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