はにかみながら銀河に落ちるの

 王道兄妹と私は幼馴染の関係で、UTS──宇宙人トラブル相談所の社屋と私の住む家は、お隣さん同士だった。ふたりとは年も同じだったけれど、特に女の子同士の遊歩ちゃんとは生まれた頃からの大親友で、小学生ながらにUTSの社長を務める彼女の力になりたい、という想いもあって、幼い頃から私はUTSのお仕事を少しばかり手伝っていたのだった。
 ……とはいえ、小学生に出来ることなんてたかが知れていたし、私が手伝っていたことと言えば、専らお茶汲みだとかそんなことばかりだったけれど。

 ──けれど、そんな日々はあの日、地球にやってきたユウディアスとの出会いで急変した。──ユウディアス・ベルギャー。故郷を追われた888万人の同胞を束ね、ベルギャー星団から地球へとやってきた戦士を名乗る彼もまた、地球人に換算すると私たちと同じ小学生だと言うのだから、出会ったばかりの頃には本当に驚いた。だってユウディアスは、ベルギャー星団では第一突撃部隊の隊長で、本物の戦争に参加していた軍人なのだと言うんだもの。……それも、地球には故郷の戦争を終わらせるためにやってきたのだという彼の苦労を、私が如何ほどに理解できていたのかは分からない。……だって私は、結局のところ、只の地球の小学生だもの。
 でも、だからこそ、私は私なりに、ユウディアスに何かをしてあげたいと思ったのだ。ほんの少しでも、六葉町で日々を過ごす彼が、普通の小学生みたいに笑って過ごせたらいいなって、……ずっとずっと、私はそう思って彼に親切にしているという、それだけのつもりだった。……だってユウディアスはとっても優しくて、頼もしくて、でもちょっと天然で、お茶目なところもあって、其処が少しだけ可愛くて、……遊飛との初めてのデュエルのときからラッシュデュエルが強くて、戦う姿が格好良くて。

「──それって、はユウディアスのことが好きなんじゃない?」
「? それは……好きだよ? 遊歩だって、ユウディアスのこと、好きでしょ?」
「そうじゃなくって……は、ユウディアスに恋してるんじゃない? って意味だヨ!」
「……えっ?」
「うんうん、絶対にそうだヨ! 前からそんな気はしてたんだよネ!」

 ──ユウディアスはとっても優しくて、頼もしくて、でもちょっと天然で、お茶目なところもあって、其処が少しだけ可愛くて、……遊飛との初めてのデュエルのときからラッシュデュエルが強くて、戦う姿が格好良い。……彼の人柄に触れた人間はきっと、皆同じような印象を抱くものとばかり思っていたけれど、……私の言葉を聞いた遊歩はなんと、私はユウディアスに恋をしているからそんな風に思うのだと、そう言うのだった。

 ズウィージョウさんとの戦いを終えた後で、ベルギャー星団の戦乱を終わらせるべく旅立ったユウディアスとお別れを済ませてから、もう二年。小学生だった私も中学校に進学して、……この二年の間に、私もMIKからUTSの協力者として地下宇宙人居住区へと送られてしまい、色々と不自由を強いられてはいたものの、それでも遊歩ちゃんとは今でも親友だし、第8宇宙人中学校では遊飛くんやアサカちゃんたちともいっしょで、──それに何より、最近になってユウディアスが地球に帰ってきてくれたのだった。
 ユウディアスによると、ベルギャー星団の戦乱は遂に終結して、任務を完了した彼はズウィージョウさんの計らいで六葉町に戻ってくることが叶ったのですって。……そうして、UTSに戻ったユウディアスと私はまたお隣さん同士になって、それに、ユウディアスも第8宇宙人中学校に編入してきたから、今の彼は同じ学校に通う同級生でもあって。──MIKから追われる現在、まだまだ問題は山積みではあったものの、またこうしてユウディアスと過ごせる日々が私は素直に嬉しくて、楽しくて、──やっぱり、彼のことが大好きだなあ、って何気なく零した私の言葉に遊歩はきらりと眼鏡を輝かせて、……にまにまと、まるで面白いものを見つけたかのような顔をして笑うのだ。

「え、……な、そ、そんなこと……」
「──! 購買部に……おお! 遊歩もいっしょであったか!」
「ゆ、ユウディアス!?」
「どうしたの、ユウディアス?」
「うむ! 購買部に新しいパックが入ったそうなのだ! 聞くところによると、の使っているデッキに良さそうなカードが……」

 そうして、放課後の教室で遊歩ちゃんと話していたところに、──突然、話題の中心に居た人物──ユウディアス・ベルギャーが勢いよくドアを開け放ち、部屋へと飛び込んでくるものだから、想定外の展開にびっくりして心臓が跳ねて、思わず私はがたん、と大きな音を立てて椅子から立ち上がってしまった。……けれど、何処か高揚している様子のユウディアスは、私の様子が些かおかしいことには気づかなかったようで、ほっ、と幾らか胸を撫で下ろす私の傍まで駆け寄ってくると、身振り手振りを交えながらも、“購買部に入荷したパック”について、彼は興奮気味で話している。
 対する私はと言えば、彼がパックの話を捲し立てているその間にも、──ユウディアスのことが、好きなんじゃない? なんて、先ほど遊歩ちゃんに言われた言葉が脳内でぐるぐると鳴り響いてしまっていたせいで、ユウディアスの話が上手く頭に入ってこなくて、……あれ、なんだか。もう見慣れてきたつもりだったけれど、……制服姿のユウディアスって、ちょっと、……かっこいい、な。……だなんて、そんなことばかりを、考えてしまっていた。

「──それで、のエクスキューティーデッキと、ソレガシのギャラクシー族デッキにも良さそうなカードが入っていると聞いてな!」
「へえ、良いじゃない! それなら、といっしょに買いに行っておいでヨ!」
「……えっ?」
「うむ! そのつもりでを呼びに来たのだ! 遊歩もいっしょに行くか?」
「私はいいや。生徒会の手伝いをアサカに頼まれてるから、ふたりで行っておいでヨ!」
「そうか! ……よし、それなら、購買に急ぐぞ! 売り切れてしまっては困るからな!」
「えっ、……ちょ、ちょっと、遊歩ちゃん……なんで……」
「……ふふ、あとはふたりでごゆっくり!」
「? うむ、ソレガシが責任を持っての分もパックを確保してみせよう! 安心してくれ、ソレガシがエクスキューティーのカードを引いたなら、に譲ろう! そのときには互いのカードを交換だ!」
「いや、ちが……ゆ、ユウディアスってば!」

 ──そう言って、ユウディアスは未だ高揚したままで私の手を掴みぎゅっと握り締めると、にこにこと笑いながら楽しげに購買部へと走り出してしまうものだから、ぶわ、と体の内側から込み上げてくる何かの感覚に私は狼狽えて、……待って、だとか、離して、だとか。ユウディアスに言うべきことは幾らでもあったはずなのに、私は、……どきどき、どきどきと、急激にうるさく跳ねまわる心臓を抑えるので精一杯になってしまって、……ああ、どうしよう。ベルギャー星人の彼にとって、地球人の私は、……果たして、恋愛対象になれるのだろうか、だなんて。今更過ぎるようで、気が早すぎるような気もする、そんなことばかりを私は考えてしまって、……壊れそうな心臓を押さえつけながらも辿り着いた購買部で手に入れたパックから、見事にユウディアスが引き当てて私に譲ってくれたそのカードが、……もう、宝物になってしまいそうだなんて、……恥ずかしくて、遊歩ちゃんにも話せそうになかった。 inserted by FC2 system


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