宇宙のプールでロマンスは起こるのか

 は遊歩と遊飛の幼馴染で、そして、地球ではソレガシにもっとも親切にしてくれた人物でもあった。

 は心根の優しい性格で面倒見がよく、六葉町での生活に不慣れなソレガシにも何かと世話を焼いてくれて、彼女に助けられた回数は数えきれないほどのものだったことだろう。
 そうして、いつもソレガシの傍にはが居てくれたからこそ、いつの間にかソレガシは、といっしょに居るのが当然になってしまっていたようで、──故郷、ベルギャー星団での星間戦争を終結させるべく、ズウィージョウと旅立ってからというもの、かつての上官や戦友たちと過ごす毎日は何かと大変だったものの、ソレガシはこの日々を心から楽しんでいたというのに、それでも、思ってしまっていたのだ。──例えば、今日楽しかった出来事を話したくて、何時もそこに居るものだと傍を振り返ったときに、……今は其処に彼女が居ないと言うその事実だとか、そんな日々のちいさなひとつひとつに、ソレガシは。
 ──残念ながら、この旅路には、は居ないのだと実感するたびに、此処に彼女が居ないのも、連れてくるのは危険だと思ったからこそ、ソレガシがマナブたちに任せて彼女を残してきたからだと言う、それ以外の理由などは何処にもないにも関わらず。……ソレガシはどうにも、心にぽっかりと胸が開いたような気分がして、どうしようもなく寂しかったのだ。

 ──そんな寂しさを紛らわせたかったからか、或いは、どうしても毎日、暇さえあればのことを思い浮かべてしまっていたからか、何かとの話をズウィージョウへと聞かせていたところ、……ある日、ソレガシはズウィージョウに不思議なことを言われたのだった。

 ──その娘──とは、しっかりと両親の許可を得た上で交際しているのか、と。

「……? の両親ならば、UTSの隣に暮らしていたので、ソレガシも何度も挨拶していますが……」
「フム……ならば、機会があればワレも挨拶に伺おう」
「? ズウィージョウが? 何故ですか?」
「部下の交際相手ならば、上官としてワレが挨拶に上がるべきだろう」
「おお……では、是非ともUTSの皆にも! ズウィージョウが来れば皆喜びます!」
「……ハ?」
「?」
「……ユウディアス、ワレが言っている交際とは、友人付き合いの話ではない」
「なんと!?」
「……念のために聞くが、はお前の恋人だな? ユウディアスよ」
「……? こい、びと……?」
「……そういうところだ、そういうところだぞ、ユウディアス……!」

 ──ズウィージョウが言うには、の話を嬉々として語らっている際のソレガシは、心底嬉しそうで、恋をしているようで、ソレガシが語る彼女の話はまるで“恋人の惚気”にしか聞こえない、のだそうだが、ソレガシにはイマイチその意味が分からなかった。しかし、ズウィージョウに言われたその言葉の意味を、どうにかソレガシが実感できるまで、ズウィージョウが繰り返し噛み砕いて説明してくれたことで、……なんとなくだが、つまりは、こういうことなのか? と、……ソレガシにも、理解できたような気がする。

「──つまり、ソレガシはを“大好き”なのですね!? ズウィージョウ!?」
「……言っておくが、王道兄妹への好意とは似て異なるものだぞ、分かっているのか? ユウディアス」
「心得ています! なるほど! 確かにソレガシはのことを大好きです! 流石です、ズウィージョウ!」
「……ユウディアス」
「? はい! なんでしょう! ズウィージョウ!」
「……くれぐれも、再会したとて先走るなよ」
「もちろんです! ですが、との再会が楽しみですね、ズウィージョウ!」
「…………」

 ──“恋”という言葉の意味を知らなかったソレガシが理解できるようにと、ズウィージョウが何度も言葉を変えて説明してくれたその中でも、ソレガシには特別に気に入ったものがある。それは、“恋”という誰かひとりを特別に大好きだと思うこの感情は、ソレガシが“父”となるときには、に“母”となってほしい、と思う気持ちのことでもあるらしい、というものだ。
 カルトゥマータ──地球人とは異なる生命体であるベルギャー星人のソレガシには、我が子の父となる機会は、順当に行けばきっと訪れないことだろう。……だが、ソレガシとズウィージョウと888万人の同胞とで。ベルギャーの民がこれから先、ヒトとして生きるための道を探し続けて行けたのならば、或いは。……ソレガシにも、家族というものを得ることが叶う日も、来るのだろうか? ……ああ、もしそんな日が来るのなら、……そのときにはやっぱり、に隣に居て欲しいと願うこの眩くて特別な気持ちを、……どうやら、恋と呼ぶらしいのだ。 inserted by FC2 system


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