この透明に歌を混ぜないで

※75話時点での執筆。



 ──ユウディアス・ベルギャー。三年前に六葉町へと飛来した彼は、ベルギャー星団の戦士で、星間戦争を治めて宇宙を平和に導いた英雄で、私や遊歩ちゃん、遊飛くんにとっての仲間で友達で、──そして、私の大好きなひと。

 ユウディアスは、地球の右も左も分からなくて生活するにも難儀をしていた当初から、自分のことよりもこちらを気に掛けてくれるひとだった。彼は出会った頃からずっとずっと優しくて、それは私に対してだけなんかじゃなくて、彼は本当に、文字通りに誰にだって優しく接することの出来るひとで、そんなユウディアスだからこそ、私は彼のことが好きなのだ。
 ユウディアスは、誰にでも親切で、本当に見ていて気持ちの良いひとだ。私や遊歩ちゃん、遊飛くんやマナブくんだけじゃなく、チュパ太郎やみつ子ちゃん、ロヴィアンちゃんにルーグさん、ズウィージョウさんと、それにフェイザーさんやトレモロくんにだって、ユウディアスは何の気負いもなく、フラットに接している。
 そんな風に、一度は敵対した相手にだって友好的に手を差し伸べて、相手の心を動かし、ラッシュデュエルで人と人とを繋ぎ合わせていく彼が、カルトゥマータ──創造主なる存在によって作られた被造物で、地球人である私たちにとっては宇宙人である以前に根本から異なる存在なのだと知ったときは、私もショックだったけれど。
 ──それでも、そんな事実よりもずっとずっと、私が出会って見つめて触れ合ってきたユウディアスという人物こそが、私にとってのすべてだった。
 彼が被造物であるという事実では、私が彼に抱いた恋心を止めることは叶わなかったし、離れて過ごした二年もの間に私の想いは膨れ上がって、──そして、幸運にもどうやら、ユウディアスの方も私を一定以上に好いてくれていることもまた、なんとなくだけれど、私だって少しくらいは知っていて、……だから、彼が作られた存在であっても、ユウディアスには誰にも負けない強くて優しい心が備わっていることを、私は誰よりも知っているから。その心で、いつかは、もしかすれば、──彼が私と同じ気持ちになってくれる日だって来るかもしれないから、って。……私、心の何処かで、そんな風に思ってた。

「──それも、コレガシが作り上げた英雄ユウディアス・ベルギャーが、お前の望む言葉と態度で振舞ったからこそ、お前に芽生えた感情だとしたら?」

 ──ばちばちと雷のように走ったノイズがユウディアスの身を包んで、空色は暗雲に呑まれる。
 そんな彼を前にしてその場に呆然と立ち尽くす私は、──光の向こうに、彼ではない誰かを見た。
 目の前の彼、──ユウディアスの身体を奪い取って、大袈裟な身振り手振りで振舞うクァイドゥール・ベルギャーは、良く見知っている笑顔で、……されど、酷く悪辣に、私の心を潰そうとしているのだった。

「……そん、なこと、する意味、あなたには……」
「それはどうかな? コレガシにとって、ベルギャー創造主に連なる王道は宿敵、そして、お前は王道兄妹にとって最も身近な者……」
「で、も……」
「お前の心を折れば、少しはコレガシの溜飲も下がるだろう?」
「……ユウディアスは、あなたになんて操られてない! それに、私だって……!」
「確かに、コレガシは未だユウディアス・ベルギャーを操ってはいない……だが、ユウディアスは既にコレガシに操られ、コレガシの敷いたレールを疑いもなく歩んできた! ……それは、お前との関係とて同じこと……」
「……っ、だ、だとしても! 私は私の意志で……!」
「……コレガシはユウディアス・ベルギャーとが親しくなるように、引いては王道兄妹に傷を残すために、そのようにユウディアスを差し向けた。……その結果、双方に産まれた感情など……作り物以外の何物でもないとも……」

 ──ちがう、そんなこと、ない。
 ……もしも、もしもね、クァイドゥールの言う通りに、ユウディアスは第三者の思惑に引っ張られて、だからこそ、私の傍に居ただけなのだとしても、それでも、……私が彼に抱いているこの気持ちだけは、誰かに作られたものなんかじゃ、ない。
 この気持ちは、紛れもなく私の恋だ。私だけの、ひかりかがやく宝物だ。……もしも、ユウディアスにとってはそうではなかったのだとしても、──彼が、私に向ける情などは、クァイドゥールにお膳立てられただけのものだったとしても、……それでも、ユウディアスはこう言っていたもの。大事なのはどのように生まれたかなんかじゃなくて、どうやって生きるかだ、って。……だから、だから彼は、ちゃんと、ユウディアス自身の意志で、

「──その生き方も、誰かの手で編まれた文様に過ぎないとしたら?」

 ──ユウディアス・ベルギャー。三年前に六葉町へと飛来した彼は、ベルギャー星団の戦士で、星間戦争を治めて平和を導いた英雄で、ユウディアスはとっても優しくて、頼もしくて、でもちょっと天然で、お茶目なところもあって、其処が少しだけ可愛くて、……遊飛との初めてのデュエルのときからラッシュデュエルが強くて、戦う姿が格好良くて。……私はそんな彼のことが、ずっとずっと、大好き、で。

「……残念ながら、お前たちのそれは紛い物の恋だ、

 ──ユウディアス・ベルギャーは、プロトカルトゥマータ──クァイドゥール・ベルギャーの思惑に沿って動いていた人工的な英雄で、とっても優しくて、頼もしくて、でもちょっと天然で、お茶目なところもあって、其処が少しだけ可愛くて、誰からも好かれる人望に満ちた彼の性分は、彼の生来の気質なんかじゃなくて、──人心掌握の為に、クァイドゥールにとって“その方が都合が良かったから”と、……その為に、“そのように”造り出されたのが、ユウディアス、で?

 ──だったら、私が彼に対して抱いた恋心は、第三者の意思にでっち上げられた紛い物に過ぎないのだと、目の前の悪魔は稲光を連れて微笑む。
 ──私のたったひとつの宝物を踏み壊して、金色は、心底可笑しそうに笑っていた。……私にとって一番大好きな、あなたと同じ顔で、あなたは私を、嗤うのだ。 inserted by FC2 system


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